休日の午後に銀座中央通りの歩行者天国をぶらぶらと歩きながら、道の両側に美しく建ち並ぶ店のショーウインドウを眺める。行き交う人々がウインドウに映り、ふと映画のスクリーンに入り込んでしまったような錯覚に陥ることもある。流行の服を着て今にも動き出しそうなマネキンが並ぶシャネル、いつも花壇に花や緑が絶えないミキモト、冬の夜に果てしなく降る雪を思わせるランヴァン、スターの巨大な画像が掲げられたカルティエ……どれもが東京の最も豪華なエリアに、非日常的空間を作り出している。
まるでワルツを思わせるようにゆるやかに並べられた巨大な窓と、ルネサンス風の落ち着いた大理石。和光銀座本店は4丁目交差点に堂々とそびえる銀座のランドマークである。時を告げる鐘が鳴る美しい時計台の下には、「銀座の顔」とも言える長さ8メートル、幅5メートルの巨大なショーウインドウがある。毎年9回、季節に合わせてデコレーションが変えられ、時代の流れに寄り添いながら無言で銀座への賛美の詩を奏でている。
約60年前には、和光本館の営業に合わせて、気鋭のデザイナーたちがショーウインドウのディスプレイで競い合ったが、そのすばらしい伝統は現在も続いている。想像を超えるようなすばらしい創意の数々が、和光のショーウインドウを、幸福をたたえた夢幻境に作り上げる。周囲に広がる銀座の明るいネオンや巨大スクリーンの映像や華やかな歌声などの中にあって、和光のディスプレイは純粋な心を保ち続け、行き交う人々に、微笑や時間の大切さを呼びかけているのである。
ある日、朝早い時間に銀座三越のライオン像の前に立って、通りの向こうのまだシャッターの閉まった和光のショーウインドウを眺めていた。中央通り全体が宮崎駿のアニメに出てくるたそがれ時の街のようにぼんやりとした霧に包まれて、活力がまったく感じられなかった。しかし時報の鐘が鳴り響き、シャッターが開いた時、華やかなディスプレイが一気に登場して、眠っていた銀座の街が目覚め、華麗さと驚きと一体感に満ち溢れた。その時、和光のショーウインドウがあるのとないのとではまったく印象が異なることが実感できた。
銀座の様々な動きを身近で感じるようになって、まもなく5年になる。東京の繁華街の中心と言われるこの街も、少しずつ変化している。和光のウインドウもまた、時代の鏡のように忠実かつ華やかに、去り行く過去と、つかむべき現在と、まもなくやってくる未来とを映し出している。和光のウインドウは拍手のないパフォーマンスだと言った人がいるが、言い得て妙だと思った。そのパフォーマンスに出会って感動した人々は、誰もが心の中で大きな拍手を送っているに違いない。
|
||||

