ねぇ、お父さん。
いつだったか、あなたに関する覚えていることを全部全部思い出して
書き出していったことがあるんです。
いつの間にかあなたがいない日常が当たり前になっていること、
あなたを思い出すことがほとんどなくなってきていること、
あなたがいなくても何一つ困ることなく生きている自分がいること、
あなたがいないということよりもその事実のほうが苦しくて悲しくて
喪失感に苛まれることであなたを一生覚えておかなくてはならないと、と
心のどこかでそう思っていたのだと思います。
誕生日は12月。
黒い眼鏡をかけていた。
髪はくせっ毛。
吸っていた煙草はセブンスター。
ゲームが好きで、家にはファミコンのソフトがたくさんあった。
突然、スーファミとドンキーコングを買って帰ってきた時があった。
畳の部屋ですもうごっこしてくれた。
手をつないで、お腹で逆上がりをさせてくれた。
すごく楽しくて、何度も何度も強請ったことを覚えている。
背中にシミがあった。
一緒に犬の散歩に行った。
テレビのチャンネルを嘘ついて独り占めして怒られたことがあった。
作業服を着ていた。
紺のワゴン車に乗っていた。
飼っていたお腹だけ白い黒い犬はいつまで元気だったろう。
あのね、一生懸命思い出したのに、
あの時もメモ紙2枚分くらいしか思い出せることがなかったんだよ。
苦しくて、悲しくて、自分が憎くて情けなくて、
どうしても涙が止まらなかったよ。
きっと今、どこかですれ違ってもお父さんの顔なんて全然わからない。
お父さんだよって名乗られたとしたって、きっとわからない。
最後に、お父さんと交わした会話はなんだったろう。
さよならって言えたんだっけ?
さよならって言われたんだっけ?
そんなことすら、もう、私には何も残っていない。
写真一枚ですらも。
お父さん。
お父さんはこんな風に私たちを思い出すことがあったのかなぁ?
もう会えないんだって二度と会えないんだって、
悲しく思ったりすることはあったのかなぁ?
時々は私たちの幸せを願ってくれたりしたのかなぁ?
ねぇ、私結婚したんだよ。
・・・離婚しそうだけど。
お姉ちゃんはもっと早くに結婚したんだよ。
お父さんは、どうして私たちと一生会わないって決めたんだろう?
離婚しても自分の子供だから、一年に一度でも数年に一度でも会わせてくれ、なんて
母と戦ったりは、してくれなかったのかなぁ。
時々、悲しくなるよ。
お父さん。
・・・だった人。
いつまでお父さんと呼べるんだろう。
今、幸せに過ごしているのかなぁ。