最近、高校教育では「探究学習」がずいぶん重視されるようになりました。
大学入試でも、総合型選抜や推薦入試が増え、
高校時代にどんな探究をしたのかを評価する大学も増えています。
「受験勉強だけではなく、自分でテーマを見つけて研究する経験も大切だ」という考え方です。
でも、理系教育について言えば、私はこの流れにかなり疑問があります。
というより、はっきり言ってしまえば、
今の高校で行われている探究は「研究ごっこ」です。
そもそも、本当の研究はそんなに簡単なものではありません。
大学や大学院で研究をするなら、まずその分野についてかなり勉強しなければなりません。
何がすでに分かっているのか、何がまだ分かっていないのかを調べます。
先行研究を読んで、その上で「では自分は何を調べるのか」を考えます。
さらに、実験なら実験方法を考え、データを集め、分析し、
その結果が本当に意味のあるものなのかを検討します。
大学院生でさえ、指導教員や先輩に何度もダメ出しをされながら、
何年もかけて身につけていくものです。
それを、十分な専門知識もない高校生が、普通の授業を受けながらやる。
そんなに簡単にできるわけがありません。
実際の高校の探究は、
「テーマを決める→調べる→実験する→グラフを作る→考察する→発表する」
という形になっていることが多いと思います。
もちろん、こうした経験が全部無意味だと言っているわけではありません。
自分で考える、人に説明する、失敗してやり直す、といった経験には意味があります。
しかし、それを「研究」と呼ぶのは違うのではないでしょうか。
研究に必要な知識も、専門的な指導もないまま、研究の形だけを真似しているのであれば、
それはやはり「研究ごっこ」です。
しかも、これは高校生の能力ややる気の問題ではありません。
そもそも、学校側に本格的な探究を指導するための人と設備がありません。
高校の先生は、普段の授業だけでも大変です。
その先生が、何十人もの生徒について、
それぞれの専門分野の研究を継続的に指導するのは無理があります。
「では大学と連携すればいい」という話もあります。
しかし、大学の先生が高校生を一年間ずっと指導してくれるわけではありません。
数回の講義をしてもらったり、研究室を見学したりしたところで、本格的な研究指導にはなりません。
設備を増やせば解決するわけでもありません。
高価な実験装置があっても、それを使って何を調べればいいのか、
どういう実験をすればいいのか、出てきたデータをどう解釈すればいいのか
を教えられる人がいなければ意味がありません。
つまり、今の日本の高校にある人材、設備、時間を考えれば、
全国の高校で探究学習を本格的な研究レベルまで引き上げることは、現実的ではないのです。
だったら、無理にやる必要はないのではないでしょうか。
むしろ高校生には、大学で本物の研究をするための「土台」を作ることに集中してほしいと思います。
数学をしっかり勉強する。
物理を体系的に理解する。
化学や生物の基礎を身につける。
情報や英語も勉強する。
地味に見えても、大学で研究をするためには、結局ここが一番大事です。
そもそも、知識がなければ、まともな探究はできません。
例えば、物理をほとんど知らない高校生に
「物理について自由に研究してください」
と言っても、何を研究すればいいのか分かりません。
逆に、力学や電磁気学をしっかり勉強した学生なら、
「ここはどうなっているのだろう」
「この条件ではどう変わるのだろう」
という疑問が自然に出てきます。
研究というのは、何も知らないところから好きなことを調べることではありません。
たくさん勉強して、たくさん知識を身につけた上で、
その知識を使って「まだ分かっていないこと」を探すものです。
ですから私は、高校教育でやるべきことの順番が逆になっていると思います。
「まず探究」ではありません。
まず勉強。その上で、本当に研究したい人が研究をする。
もちろん、研究に強い興味を持つ一部の高校生には、本格的な環境を用意すればいいと思います。
大学の研究室と長期間連携したり、十分な設備を使わせたりする。
そういう生徒には大きな意味があります。
しかし、それは一部の生徒で十分です。
全員に中途半端な「研究体験」をさせる必要はありません。
まして、
「受験勉強を減らして、その時間を探究に使えば、大学での学びに役立つ」
という考え方には、私は賛成できません。
受験勉強をやめた時間が、自動的に研究になるわけではありません。
そして大学で本格的な研究をするために必要なのは、
まずその研究を理解できるだけの知識と学力です。
高校では、高校でしかできない基礎学力を徹底的に身につける。
そして大学に入ったら、大学の設備と専門家のもとで、本物の研究を始める。
私は、その方がずっと筋の通った理系教育だと思います。
「探究」という言葉は聞こえがいいです。
でも、言葉の響きだけで教育を変えてはいけません。
限られた人材とお金と時間を使うなら、全国一律に「研究ごっこ」を広げるより、
まず数学や理科をしっかり教えるべきです。
基礎学力を軽視して、本当の研究者は育たない。
//////////////////////////////
帝塚山理数塾
〒558-0051
大阪府大阪市住吉区東粉浜1-1-21
代表(塾長):森本
mail:tezukayama.risu@gmail.com
HP:https://tezukayama-risu.com/