成人して「となりのトトロ」で泣くくらいですから、僕がいかに純情だったか(自分で言うと気持ち悪いですが)想像がつくと思います。
埼玉(夏は群馬)の村で4年働いて、僕は村を出ました。
実を言うと、僕は村を出ようと思ったわけではなく、ただ海外へ行きたかっただけでした。
以前から外国(特に欧米)への憧れを抱いていた僕は、ワーキングホリデーでオーストラリアへ行きたいと訴えて、ビザ申請に必要な80万円をもらいました。
ワーホリが終わったら、また村へ帰ってくるつもりでした。
そして、大海に漕ぎ出すような気持ちで、一人でオーストラリアに渡りました。
最初は、ニューサウスウェールズ州にある、日本人が営む農場(ヤマギシとは無関係)にファームステイという形で入りました。
オーナーは元公務員の60代の男性でしたが、家族は日本にいて、オーストラリアの農場では、ちょうど自分と同じ23歳の日本人女性と暮らしていました。
定年退職して、奥様の目の届かない外国の土地で、若い愛人と悠々自適にやっていたわけです。
残念なことに、ヤマギシの村で育ったウブな僕には、そんな大人の事情には察しがつきませんでした。
オーナーの愛人は、表向きは従業員という扱いで、オーナーも彼女の苗字にさん付けで呼んでいました。
だから僕も、彼女は単に、そこで長く働いているだけの子だと思っていました。
僕は非常にオクテで、23にもなって、女の子とまともに会話したことがほとんどありませんでした。
しかし、オーストラリアの空気がそんな内気な僕の心をオープンにしてくれたことで、僕は彼女と話すことができました。
彼女と同い年ということもあり、彼女がどういった経緯でそこにたどり着いたのか、どんな目標を持っているのかなど、彼女のことを知りたくなるのは、ごく自然なことでした。
しかし、彼女はオーナーの愛人。
彼女に近づきすぎて、僕は追い出されてしまいました。
それが、自分がいかに世間知らずであるかを僕が知ることになる最初の出来事でした。