前回は回答候補は考えたものの158字と字余りでした。俳句ではないのでダメです。回答構成と字数の絞込みについて検討します。
まず、問題文を再確認します。
業績が好調であったA社の3代目社長の時代に進められた事業展開について、以下の設問に答えよ。
(設問1)
当初立ち上げた一般印刷事業などの事業展開によってA社は成長を遂げることができた。その要因として、どのようなことが考えられるか。100字以内で述べよ。
回答根拠の段落は第4段落でしょう。また、第5段落も確認する必要があります。
「1970年代半ばに3代目社長が、他社に先駆けてオフセット印刷機を導入したのを契機にして、独自で技術開発に取り組んで印刷精度を向上させた。それによって学校アルバム事業を拡大させ、高い印刷精度が求められる美術印刷事業にも参入している。また、社員教育に力を注ぎ、企画力やデザインカを強化・向上させたことで、他社と差別化を図ることもできるようになった。さらに、教育効果を高めるために、1980年代半ばには、自社所有の遊休地に研修施設を建設し、新入社員研修や従業員の体験学習、小集団活動を積極的に促してきた。」
「1980年代後半、将来の少子化時代の到来やOA(オフィス・オートメーション)化の進展が見込まれるようになると、順調に事業を拡大させてきたA社でも、学校アルバム事業や印刷事業の成長の可能性に懸念を抱くようになり、事業多角化を模索し始めた。3代目社長のリーダーシップの下で、自社企画のカレンダーやメモ帳、レターセットなどの印刷関連のオリジナル製品を開発し、商品見本市などでの販売を開始した。その一方で、自社での社員教育の成功体験や施設を活かすことを目的とした企業研修事業や、工芸教室などの教育関連事業にも参入した。また、当時のCI(コーポレート・アイデンーイティ)ブームの下で、地元のコンサルティング会社と提携して、企業イメージのトータルデザインを手掛けるコンサルティング事業や自らの顧客である写真館の店舗デザインを助言するといった事業を手掛けるようになった。さらに、漫画雑誌やタウン誌を編集し発行する出版事業にも手を伸ばした。もっとも、1990年代後半にあっても売上のおよそ80%を学校アルバム事業が占めていることから、業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。2000年代になると、4代目社長が他社に先駆けて進めてきたデジタル化によって、時間やコストの大幅な削減が実現された。」
いやらしいのは、第4段落に一般印刷事業の記述がないことです。
問題文の「一般印刷事業など」は何を指しているのでしょうか。「一般印刷事業」を他の段落に探してみます。
第2段落に
1970年代から取り組んできた一般印刷事業、1980年代にスタートさせた美術印刷事業とその他新規事業である
第5段落に
業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。
第9段落に
アルバム事業、一般印刷事業、美術印刷事業、教育関連事業など。
と、一般印刷事業の記述があります。
これらから考えると「一般印刷事業など」が指すのは、一般印刷事業、美術印刷事業、であると類推できます。第5段落から考えると、アルバム事業は除くのが妥当な感じがします。
第5段落の
もっとも、1990年代後半にあっても売上のおよそ80%を学校アルバム事業が占めていることから、業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。2000年代になると、4代目社長が他社に先駆けて進めてきたデジタル化によって、時間やコストの大幅な削減が実現された。
ここで、わかりづらいのは、「もっとも、1990年代後半にあっても売上のおよそ80%を学校アルバム事業が占めていることから、業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。」の記述です。
「もっとも、1990年代後半にあっても売上のおよそ80%を学校アルバム事業が占めていることから」、この文章は理由を記述していますが、この文章だけでは業績伸長の要因が一般印刷事業や美術印刷事業の拡大にあったことはわかりません。この文章からわかるのは、学校アルバム事業が売上のほとんどを占めていたことから、3代目社長は、依存リスクの軽減のために、事業の多角化を進めたけれども、1990年代後半になっても学校アルバム事業がまだ売上の80%を占めており、学校アルバム事業以外の事業は伸びていない、ということだけです。
売上の80%が学校アルバム事業 → 業績伸長の要因は一般印刷事業と美術印刷事業
この因果関係は成り立ちません。おそらく、わざと説明不足にしているのでしょう。これが二次試験のやり方です。この因果関係で受験生は消化不良に陥るのです。再度いいます。これが二次試験のやり方です。真面目な人は、ここで時間を浪費してしまうのです。
しかし、時間は80分と限られています。割り切りが必要です。因果関係に消化不良を持ちつつも、「業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。」と理解してしまいましょう。業績伸長の要因は一般印刷や美術印刷などの印刷事業の拡大なのだ、と飲み込んでしまいましょう。
「A社の業績が悪化し始めたのは、2000年代になってからのことであり、それ以前、同社の業績は右肩上がりで推移していた。1990年代半ばの売上は、現在よりも10億円以上も多く、経常利益率も10%を超えていた。当時のA社の成長を支えてきた要因の一つは、今日でも経営理念として引き継がれている人材力の強化、すなわち社員教育の成果にあったといえる。」この第3段落も飲み込んでしまいましょう。
「当時のA社の成長を支えてきた要因の一つは、今日でも経営理念として引き継がれている人材力の強化、すなわち社員教育の成果にあったといえる。」とありますので、教育の要因は必須です。
結論とすれば、「一般印刷事業など」とは、一般印刷事業と美術印刷事業などの印刷事業を表しています。そして、業績伸長の要因は「同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大」にあります。
つまり、「当初立ち上げた一般印刷事業などの事業展開によってA社は成長を遂げることができた。その要因として、どのようなことが考えられるか」の中心的な要因は、印刷事業が拡大したからです。
しかし、回答に「印刷事業が拡大したことが要因である」と書くことはできません。設問自体にこのことは含まれているので、答えるべきなのは、印刷事業がなぜ拡大できたのか、です。
ようやく答えるべきことが明確になりました。「印刷事業がなぜ拡大できたのか」です。
最初に考えた回答候補に戻ります。
①他社に先駆けたオフセット印刷機の導入により、生産性を高めるともに、先行者利得を獲得できた。
②独自の技術開発に取組により、印刷精度を向上させ、他社に対して技術的優位性を確立できた。
③施設面、制度面、組織面からの社員教育施策により、教育効果を高め、企画力やデザイン力を強化向上させ、他社と差別化を図れた。
上記の3つについて検討します。
①はありです。
②はありです。しかし、シナジー効果の観点を盛り込みたい感じです。
③はありです。でも、100字を考えると、施設面、制度面、組織面の記述を盛り込むことは困難です。しかし、「さらに、教育効果を高めるために、1980年代半ばには、自社所有の遊休地に研修施設を建設し、新入社員研修や従業員の体験学習、小集団活動を積極的に促してきた。」という記述の「さらに」というワードは出題者の「回答に使いなさい」という指示に近いものがありますので、他の設問で使わなければならない記述であると考えます。
与件文の中で、最も確定的に使える文章は、「社員教育に力を注ぎ、企画力やデザインカを強化・向上させたことで、他社と差別化を図ることもできるようになった。」でしょう。第3段落も後押ししています。
これを第一候補とします。
①社員教育に力を注ぎ、企画・デザイン力を強化し、他社と差別化した。(33字)
「社員教育に力を注ぎ」。これは、実施した施策。
「企画・デザイン力を強化」。これは、施策により獲得できた強み。
「他社との差別化」。これは、強みの効果。
「実施した施策+施策により獲得できた強み+強みの効果」という文体で書くという方針でいきましょう。与件文に直接書かれている答えなので、これにレベル感をあわせることにします。
②早期にオフセット印刷機を導入し、生産性を高め、先行者利得を得た。(33字)
*文体は「実施した施策+施策により獲得できた強み+強みの効果」に準じています。
③独自の技術開発に取組、印刷精度を向上させ、印刷事業領域を拡大した。(34字)
*文体は「実施した施策+施策により獲得できた強み+強みの効果」に準じています。
100字に収まるように、意味が変わらないように注意して文章を構成します。最終的には、
「①社員教育に力を注ぎ、企画・デザイン力を強化し、他社と差別化した。②早期にオフセット印刷機を導入し、生産性を高め、先行者利得を得た。③独自の技術開発に取組、印刷精度を向上させ、印刷事業領域を拡大した。(100字)」としました。
シナジー効果を入れたかったのですが、美術印刷事業と一般印刷事業などの複数の事業名をいれなければシナジー効果の記述にならないので、字数が不足するため、諦めました。設問2には「シナジー効果」は入れたい感じです。「要因は~」としたいところですが、字数的に入れられません。本番では、「要因は」と書き出してしまうかもしれません。そのときは、句読点で調整するしかないでしょう。
今回のポイントは、項番ごとの文章のレベル感と文体をあわせること、先行者利得のような一次知識のワードを使用すること、です。過去の高得点回答を見ると一次知識を多用しています。事例Ⅰの特徴だと思います。
本番でここまで検討するのはまず無理だとは思います。しかし、本番で早めの割り切りができるように、普段の訓練の中で「自分なりの割り切りポイント」をもっておきましょう。
普段の訓練では、ここで記述したぐらいの十分な検討をしておきましょう。それが、本番での早期の割り切りにつながります。