米中決裂の舞台裏 | 情報は自分で習得し、自分で判断する

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米中決裂の舞台裏…アメリカの無茶ぶりを受けた中国の本音が分かった

 いったい何が起こったのか

 アメリカ時間の5月13日、ドナルド・トランプ大統領は、「われわれは3250億ドル分の輸入品に25%の追加関税を課す権利を持つことになる」と述べた。これは、いままで追加関税をかけてこなかったすべての中国製品である。
 それに先立って、中国も同日、報復措置を発表した。昨年9月24日に実施した「第3弾」600億ドルのアメリカ産品に対し、現行の5%もしくは10%の追加関税を、6月1日から、2493品目を25%に、1078品目を20%に、974品目を10%に、595品目を5%にする。全体的には、かなり大幅な関税アップとなる。

中国のメンツは丸潰れ

 「米中決裂!」――5月10日、この衝撃的なニュースが、世界を駆け巡った。トランプ政権は、11回目の米中閣僚級貿易協議のさなかに、2000億ドル分の中国製品への追加関税を、10%から25%に引き上げた。これ以上はないという、中国のメンツを丸潰しにする仕打ちである。

 いったい米中の間で、何が起こったのか?


 私は、今回の11回目の米中協議を終えて、中国側が総括した貴重な「声」を入手した。それは、以下のようなものだ。

 「今回の結果(決裂)は、これまで積み上げてきた10回にわたる交渉の状況を象徴していた。特に、アメリカ側の身勝手な要求の大部分を、中国側は拒絶してやったのだ。
 まず第一に、アメリカはこう言ってきた。両国の貿易に関して、今後はアメリカが一方的に監督する。すなわち、アメリカだけが中国に、追加関税を課すことができるものとする。それに対して中国は、報復措置に出てはならない。
 この要求は、まるで不平等条約だ。とても容認できるものではない。もし仮に容認したなら、中国国内で共産党政権は、大きな非難を浴びることになる。加えて、長期にわたって米中間に、不平等な状態が続くことになる。
 さらに、アメリカのやり口からして、一つの要求を呑めばまた一つ、そしてまた一つと、どんどん要求がエスカレートしていくだろう。そうなると中国は、いつのまにか追い詰められてしまうことになる。追い詰められた中国は、いずれどこかの時点で、『こんなものは破棄する』と発表するだろう。それだったら、最初から拒否した方がよい。

 第二にアメリカは、今回中国が要求を呑んだとしても、500億ドル分の追加関税(昨年7月6日に発動した第1弾と、8月23日に発動した第2弾)は留保すると言ってきた。第三に、中国政府の産業振興政策に制限をかけることを要求してきた。第四に、中国企業が先端技術を取得することにも制限をかけると言う。
 これほどの犠牲を払う対価として、中国は何を得るというのか? 昔のように安っぽい靴や帽子やカバンを作っていろというのか?
 つまり、アメリカの要求を一言で言い表すなら、中国の産業がある程度、発展していくのは構わないが、それはあくまでも、アメリカが定めた枠内でやってくれということなのだ。

 関税については、中国側としても深く研究したが、これは喧嘩両成敗となる。追加関税のコストは、かなりの割合で、アメリカの輸入業者と消費者が負担することになる。だから追加関税がかかるほど、双方の貿易は減ることになる。
 双方の貿易が減ると、アメリカ国内に中国製品が流通しなくなるから、アメリカで商品価格が上がり、インフレとなる。インフレとなればFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げに踏み切る。そして消費者の負担増となる。つまり、中国の輸出産業も打撃を受けるが、同時にアメリカの景気も悪化していくということだ。
 それから、たとえアメリカが、すべての中国製品に対する追加関税措置を進めたとしても、それが実際に発動されるまでには『時差』がある。その間は、アメリカの輸入業者が、一気呵成に中国製品を入れてしまおうとする。だから短期的には、中国からアメリカへというモノの流れは増えることになる。

 ともあれ、アメリカとの一年にわたる交渉で分かったのは、トランプ政権内には、ゴリゴリの反中派の一群が存在するということだ。彼らはそもそも、公平な貿易秩序を維持することに、重きを置いていない。そうではなくて赤裸々に、中国の発展そのものを阻害することに目標を据えているのだ。
 そして、今回のアメリカ側の要求は、彼らゴリゴリの反中派の意見を、色濃く反映したものになった。そんなものを、われわれが呑めるはずもなく、拒絶するのは当然の成り行きだった。もしも受け入れたなら、中国は長期にわたって損失を受け、発展を阻害されてしまう。

 今回、交渉して分かったことは、他にもある。それは、中国とアメリカのボトムライン(譲れない一線)の差は、非常に大きいということだ。交渉を進めれば進めるほど、そのことがはっきりしてきた。
 結論として言えるのは、たとえ今後、アメリカとの貿易環境が悪化しても、中国は自主的な発展の道を堅持していくということだ。この道は、短期的には陣痛を伴うだろう。だが、中国の長期的な利益には、合致するに違いない」

 以上である。これがまさに、中国側のホンネなのである。

中国からみた米中貿易戦争
 米中貿易戦争に関しては、トランプ大統領以下、アメリカ側の「声」が大きいため、とかくアメリカ側の立場のみが、理解されやすい。だが、共感するかどうかは別にして、中国側の立場も知っておく必要があるだろう。
 そもそも米中貿易戦争は、2017年1月に就任したトランプ大統領が、中国への巨額の貿易赤字に激怒したところから始まった。2016年のアメリカの対中貿易赤字は3470億ドルに上り、赤字全体の約47%を占めていたのだ。当時はまだ、「貿易戦争」ではなく、「貿易摩擦」だった。

 習近平政権としては、トランプ新政権と友好な関係を築きたかった。2017年10月に第19回中国共産党大会を、2018年3月に全国人民代表大会を開いて、習近平体制を盤石なものとしたい。そのために、アメリカの新政権と波風を立てたくなかったのだ。
 そのため習近平主席は2017年11月、トランプ大統領を「国賓以上の待遇」で北京に招待。2535億ドル分ものアメリカ製品などを購入するという「ウルトラ・ビッグ・プレゼント」を、トランプ大統領に与えた。3470億ドルの貿易不均衡のうち約4割は、アメリカ企業が中国からアメリカに輸出しているものだったので、残りの6割を一気呵成に「精算」しようとしたのだ。
 トランプ大統領は、「これはかつてないビッグ・ディールで、習主席とはとてもケミストリーが合う」と述べ、喜色満面で帰国した。それで中国としては、2017年11月の時点で、米中貿易摩擦は終息したと思っていたのだ。私は、2018年正月に北京で、経済担当者たちから話を聞いたが、「あれ(トランプ政権との貿易摩擦)はもう済んだことだよ」と、楽観視していた。

 ところが、2018年3月20日に、北京で全国人民代表大会が閉幕して、2期目5年の習近平体制が始動したわずか2日後に、「事件」は起こった。トランプ大統領が突然、米中貿易戦争を「宣戦布告」したのである。そして実際、同年7月6日に「開戦」した。
 アメリカは、昨年7月6日に第1弾で340億ドル分、8月23日に第2弾で160億ドル分の中国製品に、それぞれ25%の追加関税をかけた。そして同年9月24日に、新たに2000億ドル分の中国製品に、10%の追加関税をかけたが、先週5月10日、これを25%に引き上げた。
 
 これに対し中国は、第1弾の報復措置として同じ340億ドル分、第2弾の報復措置も同じ160億ドル分に、25%を上乗せした。ところが第3弾では600億ドルにとどめ、しかも10%(3571品目)と5%(1636品目)と低率にした。
 「目には目を、歯には歯を」という原則の中国が「減速」した理由は、第一に貿易不均衡のせいだった。2017年の米中の貿易額は、中国→アメリカは5050億ドル、アメリカ→中国は1539億ドルだったため、中国はそもそも2000億ドル分に追加関税をかけようがなかった。
 第二に、「返り血」を浴びるのが恐かったからである。昨夏以降の、米中貿易戦争による中国経済の落ち込みは、中国政府が当初、予測していたよりも激しかった。

 中国のGDPは、いくら世界2位とは言え、アメリカの3分の2程度しかないのだから、ガチンコ勝負すれば負けるに決まっていた。それに世界貿易は、中国人民元ではなく、アメリカドルで決済されている。そこで、このままアメリカとチキンレースを続ければ、中国経済が先に「崩壊」してしまうと悟ったのだ。
 そこで中国は、「クリンチ」に持っていこうとした。すなわち、習近平主席とトランプ大統領の早期の米中首脳会談を申し入れた。それは昨年12月1日、ブエノスアイレスG20(主要国・地域)サミットの終了後に実現し、以後は米中閣僚級貿易協議を開いて妥協点を探ることにした。

議題は何だったのか

 米中閣僚級貿易協議は、昨年5月以降、断続的に開かれていて、先週5月9日、10日のワシントン会合が11回目となった。
 アメリカ側は、ロバート・ライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表、スティーブン・ムニューシン財務長官、ウィルバー・ロス商務長官の「3人組」が共同代表のようになっている。だが実質的な中心人物は、ライトハイザーUSTR代表になりつつある。
 一方の中国側は、習近平主席の中学時代の同級生、劉鶴副首相である。

 冒頭の中国側の「総括」にもあったように、米中閣僚級貿易協議を通じて分かってきたのは、トランプ政権内には、中国に対する考え方に、二つの派があるということだった。
 第一は、貿易不均衡や雇用を是正することに主眼を置く「通商強硬派」である。トランプ大統領がその代表格で、ムニューシン財務長官やロス商務長官、ジャレド・クシュナー大統領上級顧問(トランプ大統領の娘婿)らが、このグループに属する。実業界やウォール街出身の幹部たちが多く、中国を主にビジネスの対象として見ている。
 第二のグループは、中国という台頭する社会主義国そのものが許せない「軍事強硬派」、もしくは「理念強硬派」と呼ぶべき幹部たちである。マイク・ペンス副大統領がその代表格で、マイク・ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官、ピーター・ナバロ国家通商会議議長らが、このグループに属する。
  なお、ライトハイザーUSTR代表は、この両派の中間に位置する。両派の支持をまんべんなく得ているので、いま最もパワフルな存在だ。
 米中貿易摩擦が、米中貿易戦争に「昇華」していった背景には、何よりこの第二グループのホワイトハウス内での台頭があった。


 中国側の「総括」にあったように、彼らは、単に貿易不均衡という「目先」のことよりも、中国共産党が第19回共産党大会で決議した「習近平新時代の中国の特色ある社会主義」に対して敵意を抱いていた。彼らの主張は、大略以下のようなものだ。
 社会主義国は国家ぐるみで、自国の先端企業に多額の補助金を出すなどして、育成を図っている。2015年5月に『中国製造2025』で2025年の国家目標を明確に定めて以降、そうした傾向に拍車がかかっている。これらは、既存のWTO(世界貿易機関)の秩序から、完全に逸脱している。
 かつ、中国は2018年3月に、全国人民代表大会で国家主席の任期を撤廃する憲法改正を行い、習近平長期独裁政権を目指している。アメリカにとって、いまの社会主義・中国は、前世紀の社会主義・ソ連をも超える軍事的・経済的脅威であり、いま潰さないと、今世紀のアメリカの覇権を中国に奪われてしまう……。
 こうしたことから、米中閣僚級貿易協議の議題は、当初の貿易不均衡問題から、8つにも膨れ上がってしまった。具体的には、以下の通りだ。

①米中貿易の不均衡
②中国におけるアメリカ企業の強制的技術移転
③中国における知的財産権の強力な保護と執行
④中国におけるアメリカ企業への関税・非関税障壁
⑤中国によるアメリカ商用資産へのサイバー攻撃
⑥中国政府の補助金と国有企業を含む市場を歪める強制力
⑦中国向けアメリカ製品・サービス・農産物への障壁・関税
➇米中貿易における通貨の役割


 こうなってくると、問題は大変複雑で、一朝一夕に解決できるものではない。

中国の国有企業問題

 一例として、アメリカ側が改善を要求する中国の国有企業の問題を見てみよう。

 国有企業問題を最もクリアに解決する方法は、中国が国有企業をすべて民営化することである。ところが中国の国有企業は、IT業界を除くほとんどの基幹産業を牛耳っており、中央政府管轄が97社(2019年5月現在)、地方政府の管轄とその子会社などまで含めると、約15万社にも達する。
 日本で1980年代に、国鉄、電電公社、専売公社を民営化するだけで、国を挙げての大騒ぎになったのに、15万社を短期間に民営化できるはずがないのだ。
 そもそも習近平政権は、国有企業こそが共産党一党支配を支える礎だと考えており、民営化などハナからするつもりがない。
 
 国有企業改革自体は、2013年11月に開いた「3中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)以来、掲げている。2015年9月には、中国共産党中央委員会と国務院(中央官庁)が「国有企業改革を深化させる指導意見について」という重要指針を発表した。
 これは全30条からなるが、「中国の偉大なる社会主義の御旗を高く掲げ、党中央の国有企業への指導を強化させ、強大で優秀な国有企業を作り、中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現に積極的に貢献させる……」というものだ。
 習近平政権が現在進めている国有企業改革は、日本人が思い描く国鉄の民営化などとは真逆で、国有企業の淘汰による巨大化と、党中央(習近平総書記)の指導強化という2本柱からなっているのだ。
 では、民営企業はどうするのかと言えば、巨大化した国有企業の傘下に入り、その下請けとなったり、国有企業の子会社と合弁会社を作ったりして、「共に成長していくこと」を求められている。もちろん、国有企業と無関係に経営していくのも自由だが、ほとんどすべて国有企業である中国の銀行は貸し渋るし、巨大国有企業との競争に勝てるはずもない。

 そこで、巨大国有企業に頼る民営企業が増えている。中国政府が旗振り役になっている混合所有制改革である。第19回中国共産党大会を終えた後の2017年11月29日に、中国政府8省庁が「混合所有制改革のトライアルを深化させる若干の政策の意見について」を合同で定め、昨年9月18日に、国家発展改革委員会が公表した。
 中国政府はまた、国有企業同士の合併なども、積極的に進めている。昨年8月には、「国有企業改革『双百行動』活動方案」を、全国の国有企業を統括する国有資産監督管理委員会が定めた。これは、中央政府管轄の国有企業の有力な子会社100社と、地方政府管轄の有力な国有企業100社とをマッチング(合併・提携)させていくという試みだ。
 先週5月11日、北京で「第2回中国国有企業改革発展フォーラム」が開かれた。このフォーラムに、中国政府を代表して参加した国有資産監督管理委員会の彭華崗書記長は、次のように明かした。


 「現在、中央政府直轄の国有企業は、総資産58.2兆元(2018年末時点)に上るが、70%が混合所有制改革を始めている。中央政府と地方政府の管轄を合わせた混合所有制改革を行っている企業数は、2880社に上る。
混合所有制改革の最大の難点は、国有企業は国有資産の流出を恐れ、その他の所有制経済(民営企業)は、自分たちの資産が非合理に取られてしまうのではと恐れていることだ。将来的には、産権を保護し、契約を維持し、市場を統一し、交換を平等にし、競争を公平にし、監督管理を有効にすることを基本方針に定めていかねばならない。
 また『双百行動』に関しては、これまで3回で50社をマッチングさせており、まもなく4回目の発表を行う。いまのところ、うまく軌道に乗ったのは3分の1程度だが、そうやって徐々に、市場の調整を進めていく」

 中国の国有企業改革は、こんな調子で進んでいるのである。「いきなり外野(アメリカ)から、場違いな口出しをされても困る」というのが、習近平政権のホンネなのである。

劉鶴副首相の「総括」

 中国側の対米交渉責任者である劉鶴副首相は、5月10日、アメリカ側との第11回閣僚級貿易交渉を終えた後、つまりアメリカ側と「決裂」した後、中国の中央広播電視総台(中国中央テレビ)、国営新華社通信、中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』などの共同インタビューに答えて、次のように述べた。

 「今回は、誠意を持ってワシントンまで交渉にやって来て、アメリカ側と虚心坦懐に、建設的な交流を行った。そして双方が継続して、交渉を推進していくことで合意した(アメリカ側は次の交渉は未定としている)。
 中国は、アメリカが追加関税をかけるやり方には、強く反対する。それは中国の利にならず、アメリカの利にならず、世界中の利にもならない。中国としては、必要な対抗措置を取らざるを得ないだろう。
 双方の協議は、必ずや平等、互利的でなければならない。重大な原則問題では、中国は決して譲歩しない。現在まで双方は、多くの方面で重要な共通認識に至っているが、中国としては、3つの核心的な関連問題について解決に至らねばならない。
  それは第一に、すべての追加関税をなくすことだ。関税は、双方の貿易争議の発端であり、もしも交渉が妥結に達したなら、追加関税は必ずや、すべて撤廃されねばならない。
 第二に、貿易上の購入金額(貿易不均衡是正のために中国がアメリカから購入する金額)は、実際の状況に合ったものであるべきだ。双方は、貿易上の購入金額について、アルゼンチン(昨年12月1日の米中首脳会談)で共通認識を得ており、勝手に変えてよいものではない。
 第三に、改善文書のバランスだ。いかなる国家も自己の尊厳を持っており、合意文書はバランスが取れたものでなければならない。現段階では、一部のカギとなる問題で、まだ討論の余地を残している。


 昨年来、双方の交渉には何度かの揺り戻しがあり、一部の曲折が発生したが、いまはもうすべて正常だ。双方が交渉を進めていく過程で、勝手に『揺り戻し』を責めることは、無責任なことだ(中国側がいったん合意したことを5月初旬に蒸し返したと、トランプ大統領が非難したことを指す)。
 中国として、最も重要なのは、まさに自国の状況をよくすることだ。中国の国内市場の需要は巨大だ。供給側構造改革(供給過剰・在庫過剰・金融不安の解消、生産コスト削減、弱者救済)の推進は、将来的に製品と企業競争力を全面的に高めるものだ。財政及び通貨政策は、まだ十分な余地がある。私は、そのように中国経済の前景を、非常に楽観している。
 大国が発展していく中で、一種の曲折が生じるのはよいことで、それによって自己の能力を精査していけるというものだ。習近平同志を核心とする中国共産党中央委員会の堅強な指導の下、われわれはただ信じ続け、共に努力していきさえすればよいのだ。
 われわれはどんな困難も恐れることはなく、必ずや(中国)経済は、健全に発展していく良好な状態を持続できるだろう」

 以上である。14億中国国民に向けて、かなり強がって見せているが、内容的には、冒頭述べた中国側の「総括」を、オブラートに包んだようなものだ。

劉鶴副首相には荷が重い

 このインタビューを見ていて、最後につけ加えたいことがある。それは、劉鶴副首相を中国側のトップに立てることのデメリットについてである。
 私は常々、民主的な選挙制度によって国民の代表を選ばない中国には、「二つの悲劇」が内在していると思っている。一つは、大変優秀な逸材が、トップの意にかなわないからとかいう理由で、失脚したり埋もれてしまったりすることだ。
 もう一つはその逆で、トップの鶴の一声で、本人の能力とは不相応なほどの抜擢を受けてしまうケースだ。過去で言えば、毛沢東主席が自分の後継者に華国鋒主席を指名したのが典型だ。その後、鄧小平が自力で華国鋒を失脚に追い込んだから、中国は改革開放政策を進めて、これだけ発展できた。同様に、いまの劉鶴副首相にも、トランプ政権との交渉は、完全に荷が重すぎるのである。
 
 習近平主席は、まだ福建省で燻(くすぶ)っている時分から、自分の経済オンチの部分を、中学校の同級生である経済学者の劉鶴博士に頼ってきた。2013年に習近平政権が発足すると、劉鶴は習近平主席の経済顧問のような存在(党中央財経指導小グループ弁公室主任)になった。
 そこまではよかった。だが昨年3月、2期目の5年を始動するにあたって、習近平主席は劉鶴主任を、副首相に抜擢した。かつ、最も重要なアメリカとの貿易交渉の責任者に据えてしまったのだ。
 劉鶴副首相は、生真面目な経済学者として知られる。だが、14億の国民の代表として、トランプとかライトハイザーといった海千山千の連中を相手に、権謀術数を尽くして丁々発止のやりとりをしていくには、完全に「役不足」なのである。
 実際、この一年余りでやせ細り、髪の毛は真っ白になり、顔色はどす黒くなり、何ともお気の毒だ。本来なら、ブッシュ政権とオバマ政権でアメリカとの交渉を巧みに采配した王岐山副主席(当時は副首相)が担えばよいのだ。
 ともあれ、今回の「米中決裂」は、今後の米中関係の「分水嶺」になるかもしれない。世界経済が、米中それぞれにブロック化していく可能性があるということだ。
 米中は、1979年の国交正常化以降、「協調の40年」を経て、「競争の時代」を迎えた――。


 かなり長い記事ですが、米中貿易戦争の本質を知るには良い記事なのでご一読を!

>アメリカにとって、いまの社会主義・中国は、前世紀の社会主義・ソ連をも超える軍事的・経済的脅威であり、いま潰さないと、今世紀のアメリカの覇権を中国に奪われてしまう……。

 キンペイくんは、『中国製造2025』という国家目標を据えるにあたって、社会主義を強めることを表明しました。

 それが米国民の不振を高めたということでしょうね。

>米中貿易摩擦が、米中貿易戦争に「昇華」していった背景には、何よりこの第二グループのホワイトハウス内での台頭があった。

 確かにトランプ政権内に強硬派が増えていますが、米議会では共和・民主両党とも中国に対する不満が高まっており、圧力を強めるように求めてますからねぇ~。

 簡単に言えば、貿易戦争などという一局面の戦いではなく・・・

 自由主義陣営と社会主義陣営による新冷戦ということですな。。。