「強者の恫喝」に抗したサミット精神
「G6プラス1」鮮明に

G7サミット2日目の6月9日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相らと話し合うドナルド・トランプ大統領(写真:GERMAN FEDERAL GOVERNMENT/ロイター/アフロ)
カナダのケベック州で開かれた日米欧主要7カ国(G7)首脳会議は、鉄鋼などの輸入制限を打ち出したトランプ米大統領と他の6カ国(G6)首脳と意見対立が先鋭化したが、ようやく「保護主義と闘う」との首脳宣言を採択して閉幕した。ところが、その3時間後、閉幕前に退出したトランプ大統領が、シンガポールに向かう機中から「首脳宣言を承認しないよう米代表団に指示した」とツイッターで表明した。
自動車の輸入関税を検討するためだという。これはまさに「強者の恫喝」である。それに屈しないG6首脳は、国際協調による「サミット精神」を貫いたといえる。トランプ大統領は地球温暖化防止のためのパリ協定やイラン核合意から離脱したが、G7首脳宣言からの離脱は「トランプ抜きの世界」を鮮明にするものである。
それでもG7時代は終わらず
今回のG7首脳会議が浮き彫りにしたのは、「G6プラス1」の構造である。保護主義、2国間主義に傾斜するトランプ米大統領と他の6カ国首脳との間には大きな亀裂がある。しかしこのG7の亀裂をみて、「G7の時代」は終わったとみるのは間違いだろう。超大国・米国の大統領が「強者の恫喝」を繰り広げるという異常事態が長続きするはずはない。このトランプ暴走に、どこまで国際協調に基づくサミット精神を貫けるかが問われていた。
今回のG7首脳会議はトランプ大統領の暴走ぶりとそれに徹底抗戦したG6首脳の落差を鮮明にした。どちらに正当性があるかは明らかだ。しかも、首脳宣言は関税障壁、非関税障壁、補助金を減らすなど公正な貿易をめざす方向を示し、トランプ大統領にも一定の配慮をしている。首脳宣言は苦心の産物だったのである。
トランプ大統領は、議長のトルドー・カナダ首相が鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を「侮辱的」と述べ、報復措置を取ることに怒ったようだが、トランプ大統領が何と言おうと、いったん採択されたG7首脳宣言が消えることはない。マクロン仏大統領が「激情にかられて国際合意を揺るがせてはならない」と警告したのは当然である。
仏独が主導したサミット
先進国首脳会議(サミット)が創設されたのは、1975年11月である。サミット開催を提案したのは、ジスカールデスタン仏大統領とシュミット西独首相のパリ・ボン枢軸だった。石油危機後の世界経済の混乱を防ぐために、先進国主導で国際協調を構築するのが狙いだった。ジスカールデスタン・シュミットの仏独コンビは、ユーロの前身である欧州通貨制度(EMS)を創設するなど、仏独連携の礎を築いた。それがいまのマクロン仏大統領とメルケル独首相の「MMコンビ」につながっている。
サミットは仏独の呼びかけに、米英が応じ、それに日本とイタリアが参加して、G6で始まった。第1回会合はフランスのランブイエ城で開かれた。カナダが加わってG7になるのは、1976年の第2回会合からだ。
冷戦の終結を受けて、ロシアが加わりG8になった時期もあったが、ロシアのクリミア併合を受けて、G8は消滅し、いまのG7に戻っている。リーマン・ショックを受けて中国など新興国を加えたG20が創設されたが、大会議になりすぎて機能しにくいという面も指摘される。
その意味で、老舗のサミットであるG7首脳会議はなお存在感を保っている。この首脳会議には欧州連合(EU)からEU大統領と欧州委員長も加わるからEU色が濃くなることは事実である。国連安全保障理事会の常任理事国ではない日本にとっては、G7首脳会議は、最重要の国際舞台であることに変わりはない。
国際協調嫌いの行き着く先
今回のG7首脳会議で、トランプ大統領の国際協調嫌いはますます鮮明になった。環太平洋経済連携協定(TPP)、パリ協定、イラン核合意などオバマ前大統領のもとで実現した国際合意から相次いで離脱した。昨年のG7首脳会議でも保護主義や地球環境問題であつれきが目立ったが、今回は首脳宣言を承認しないことを表明したのだから、国際協調嫌いは決定的である。
トランプ大統領の批判の対象は世界貿易機関(WTO)に向けられている。G7各国などのWTO提訴で米国に不利になると判断すれば、多角的貿易体制の核にあるWTOそのものの在り方に厳しい要求を突き付ける可能性もある。
米国のおひざ元にある国際通貨基金(IMF)や世界銀行など国際金融機関についても、ワシントン・コンセンサスが揺らぐ事態になれば、拠出見直しなどを求めることも考えておかなければならない。
イラン核合意からの離脱などで、国連安保理で孤立する事態になれば、さらに国連不信を強める危険もある。こうして国際協調嫌いが進行すれば、第2次大戦後の国際システムを根底から揺るがすことになりかねない。
米国社会はトランプ暴走をなぜ黙認するのか
米国社会は国際協調を無視したトランプ暴走をなぜあえて黙認するのか。トランプ政権がどんなに批判を浴びようとも、絶対的に支持する保守層が中西部を中心に一定割合あるのは事実だ。もちろん、東部やカリフォルニアには反トランプ色が濃いが、トランプ暴走を真正面から批判しえないのは自由で健全な米国社会とも思えない。
とくに2国間の貿易赤字を「損失」ととらえて、その解消を図ろうとするトランプ政権の過ちを説く経済学者が米国にほとんど見当たらないのは不思議である。世界で最も多いノーベル経済学者を生んだ先進国で、政権の無知に警告できないとすれば、経済学者の存在意義が問われるだろう。
自由でグローバルなビジネスを展開し圧倒的な競争力をもつ米国の経済界がトランプ大統領が掲げる保護主義にあえて警告しないのも気にかかる。大統領からの批判の的になることを避けているとすれば、まっとうな経済人とはいえない。米国経済は好調だから、事を荒立てることはないとトランプ暴走を黙認するなら、無責任である。
最大の問題は、そんなトランプ暴走に米国社会全体が慣れ切ってしまうことだ。トランプ大統領が大統領に批判的なメディアを「フェイク・ニュース」と切り捨て、自由な言論まで封じ込めようとするのは危険な兆候である。
問題残す安倍首相の対応
G7首脳会議で、安倍晋三首相の出方には問題が残った。一応、G6の立場に立って保護主義を批判はしたが、その一方で「貿易制限の応酬はどの国の利益にもならない」と述べ、トランプ大統領の鉄鋼輸入制限とEU、カナダによる報復措置にともに自制を求めたのは問題だった。あくまでトランプ保護主義そのものを槍玉にあげることに徹するべきだった。こと自由貿易の推進で、「米欧の仲介役」は日本が採るべき立場ではない。
日本もEUやカナダのようにWTOに提訴するとともに、報復関税を打ち出すしかないはずだ。米朝首脳会談を目前にして、核・ミサイル・拉致問題の包括解決をトランプ大統領に依頼した手前、トランプ大統領をいたずらに刺激したくないという思いはあるだろうが、北朝鮮問題と保護主義は別次元の課題である。それを混同して、「米国と一体」と唱えるのは、トランプ政権に足元をみられるだけである。
トランプ大統領には、保護主義、2国間主義をやめるよう求めるとともに、TPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合して、米国を呼び込むことが重要になる。さらに、EUとの経済連携協定を早期に実効あるものにすることだ。WTO体制とともにあるこうした多国間主義の複層的連携を広げることこそ日本の使命である。
次の世界経済危機にどう協調するか
先進国首脳会議は石油危機を受けて創設された。G20首脳会議は、リーマン・ショックに対応して設けられた。サミットの枠組みは、経済危機と無縁ではない。問題はG7首脳会議がG6プラス1に分裂するなかで、次なる世界経済危機にどう協調して対応するかである。
まずトランプ保護主義そのものが世界経済を減速させる恐れがある。米中摩擦が深刻化すれば、影響は世界に及ぶ。メキシコに反米左翼政権が登場すれば、北米自由貿易協定(NAFTA)崩壊のリスクも出てくる。何よりトランプ政権が輸入制限を鉄鋼から自動車に拡大すれば、日欧への打撃は深刻になる。
世界経済危機の恐れも
それに米国の出口戦略による金利上昇で、トルコやアルゼンチンはマネーが流出して通貨が急落している。イタリアの極右・ポピュリスト(大衆迎合主義)政権の登場やスペインの少数与党政権の誕生など、EUにも南欧リスクがある。危機の芽はあちこちにあるといわざるをえない。
世界経済への不安が連鎖するなかで、トランプ政権が「強者の恫喝」を繰り返すなら、G7の国際協調どころではなくなる。5日付のこのコラムで指摘したように、トランプ発の貿易戦争で最大の敗者は米国なのである。
トランプ政権がこの経済の現実に早く気づき、保護主義から自由貿易にカジを切りさえすれば、すべてが好循環になる。国際協調は息を吹き返し、世界経済危機も食い止められるだろう。逆に、トランプ大統領が11月の中間選挙をにらんで保護主義路線を突き進めば、世界経済危機に陥る危険も高まる。
このコラムを書いた岡部くんはグローバル経済信望者なので、オイラはこの記事には同調しかねることが多数ある・・・
>今回のG7首脳会議が浮き彫りにしたのは、「G6プラス1」の構造である。保護主義、2国間主義に傾斜するトランプ米大統領と他の6カ国首脳との間には大きな亀裂がある。
確かに今回のG7でのトランプくんの行動は戴けないが・・・
>米国社会は国際協調を無視したトランプ暴走をなぜあえて黙認するのか。トランプ政権がどんなに批判を浴びようとも、絶対的に支持する保守層が中西部を中心に一定割合あるのは事実だ。
米国内でも行き過ぎたグローバル経済への脅威が高まっていることは事実なんだよな。
他国からの安価に輸入品のために自分たちの生活雇用が脅かされてしまっている不安が世界中に広がっている。
だからこそ、自国の雇用を守るという面でも保護主義の台頭は仕方ないこと。
>G7首脳会議で、安倍晋三首相の出方には問題が残った。一応、G6の立場に立って保護主義を批判はしたが、その一方で「貿易制限の応酬はどの国の利益にもならない」と述べ、トランプ大統領の鉄鋼輸入制限とEU、カナダによる報復措置にともに自制を求めたのは問題だった。
それがわかっているからこそ、安倍ちゃんはどっちにも理解を示したのだろう?
トランプを批判することは簡単だが、自国経済そして自国の労働者=支持者を保護するのは政治家にとって必須でもある。
>トランプ大統領には、保護主義、2国間主義をやめるよう求めるとともに、TPPと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合して、米国を呼び込むことが重要になる。
TPPにしても、米国が抜けた今、日本が主導して枠組み作りに邁進中であり、その中で日本に旨味が多い内容にすべきであり、米国も旨味があると判断すれば再加入を求めるだろう。
>WTO体制とともにあるこうした多国間主義の複層的連携を広げることこそ日本の使命である。
確かに、WTO体制の維持は日本経済にとって大切だけどね。
まあ、この方はとにかくトランプくんの保護貿易主義が大嫌いらしく、批判ばかりなのですべてを信じるのは間違いだと思う。
なのに、なぜ取り上げたか?
単に写真が欲しかったからwww
多分、この写真は今年を代表する一枚、
また、後世に「保護貿易vsグローバル経済」を代表する一枚として残りそうだから~。