ウクライナ危機、一番の「敗者」は誰か
国際政治学者イアン・ブレマー
[13日 ロイター] - ウクライナ南部クリミア自治共和国で
ロシア編入の是非を問う住民投票が16日に迫っているが、結果はあらかじめ分かっている。クリミアはロシア編入に賛成し、緊張は高まる一方となるだろう。
現時点で重要なのは、一歩引いて、こうたずねてみることだ。「ウクライナ危機の『敗者』は誰か」と。米国は別の行動を取ることが可能だったのだろうか。
ロシアの場合はどうか。暴動の発生や爆発寸前の地政学的対立は避けられなかったのか。ここからどうなるのか。
もし米国の主な目的が、ウクライナで起きている暴動と大国間の緊張を最小限に抑えることだったとしたら、米国は重大なミスを重ねている。米国は事態が最高潮に達する前に、ウクライナ政府に経済支援を実際に提供することに失敗した。ウクライナのヤヌコビッチ前大統領は、
ロシアとだけ連携したかったわけではなかった。自国経済の崩壊を回避しようとするなか、ロシアと欧州連合(EU)の間でバランスを取ろうとしていた。
欧州は強硬な態度を崩さず、国際通貨基金(IMF)も適切な時期に介入しようとはしなかった。西側諸国による支援の欠如は、ヤヌコビッチ氏を
ロシアへと向かわせる後押しとなり、ウクライナの首都キエフでの抗議活動は後戻りができないところまで達してしまった。
ウクライナの主要な野党勢力とヤヌコビッチ氏、EU当局者らは先月21日、政治危機の解決で合意に達したものの、まもなく決裂し同氏は失脚した。米国はすぐさま西側寄りの暫定政権への支持を表明したが、これが間違いだった。米国政府は慎重な姿勢を示し、事態を進展させる政治プロセスを決定するための一要因として、合意を少なくとも尊重するよう求めることもできただろう。そうした立場を表明することは、米国がロシアの利益を尊重しているという重要なメッセージをロシアに示すことができただろう。
シリア情勢では、米国は
ロシアが提案した化学兵器の廃棄に向けた搬出が内戦を根本的に終結させる突破口となると考えているというようにうまく装ったが、実際には
オバマ米大統領が軍事介入という一度振り上げた「こぶし」を下げるための絶好の口実となった。ウクライナにおいて、ロシアも同様にメンツを保つことができるよう、米国が配慮することができたはずだが、実際にはそうしないことを選んだ。
ロシアがクリミアに軍事介入しようとしていることが明らかになったとき、
オバマ政権はロシアに対し「大きな代償」を払うことになるなどと、「こけおどし」的な警告を度々してきた。もちろん米国は、ロシアのクリミア介入に対抗するだけの軍事力を有するが、米国はロシアの介入を実際に止めるようなレベルで対抗しようとはしなかった。
こうした法的強制力のない脅しは、米国の国際的な信用を落とすだけだ。闘牛の赤い布のように、こうしたコメントは
ロシアの
プーチン大統領をあおり、米国にはプーチン氏に匹敵するほど信頼できる意思はないと思わせることになった。
ただ、明らかに米国が、今日見られるような緊張を回避するチャンスを逃した一方で、
ロシアが抱えるリスクは飛躍的に高まっており、ウクライナ問題でさらに大きな打撃を受ける可能性がある。
クリミアへの軍事介入によって、
プーチン氏が無視できない損失がすでに生まれている。介入後、
ロシアの通貨ルーブルは急落し、ロシア中銀は利上げを余儀なくされた。同国の株式市場での一日の損失はソチ五輪のばく大な費用を上回った。そうしたことは、ロシア経済の減速を早めることになるだろう。
プーチン氏にとっての「勝利」がウクライナでの影響力拡大を意味するなら、同氏の戦略は完全に裏目に出ている。クリミアを併合することによって、約150万人のロシア系住民はウクライナの有権者ではなくなる。ウクライナで次に選挙が行われたとき、残ったウクライナの有権者はロシアの軍事介入のことを思い出すだろう。つまり、ウクライナの選挙では西側を支持する結果になりやすいということを意味しており、将来的にはEU加盟への可能性にもつながる。
こうしたことはあくまでも大きな仮定の話だが、誰が最も損をするかということを露呈している。
第一に、十分にあり得ることだが、ロシアがウクライナ東部に軍隊を送り込むなら、勝者はいない。ウクライナで内戦が勃発し、市場が不安定化するだけでなく、地政学リスクが極端に高まり、予測不可能な結果をもたらすことになるだろう。現在までの状況が、こうした事態が排除できない現実的な結果となり得ることを物語っている。
たとえロシアがこれ以上軍事介入しなかったとしても、将来的にウクライナ国民にとって良い結果とはならない。最良の場合は、債務支援は得られるが、今後ロシアから天然ガスの値引きは受けられなくなる。ウクライナ経済は依然として厳しく、同国の新しい大統領は引き続きロシアとの関係を維持する経済的必要に迫られる。ただしこのような戦略は、ますます政治的なバックアップを受けられなくなるだろう。要するに、ウクライナは結局、同じシチュー鍋に戻らなくてはならないが、その鍋のなかは以前よりもぐつぐつと煮立っているのだ。
このシナリオは、西側からの経済的・外交的支援を織り込み済みである。西側諸国は危機が実際に起きてから経済支援に動き出した。次に世界的な緊張がどこかで発生し、メディアの関心が移った場合、どうなるのだろうか。西側による外交努力もそれに伴って移行するのだろうか。欧米諸国は自国内でも緊急の経済的懸念を抱えるなか、急落するウクライナ経済を支援する用意があるのだろうか。
結局のところ、ウクライナ国民が一番の敗者で、今後もそうなるだろう。このような文脈において、米国が犯した重大ミスという議論は行われるべきだ。もちろん、ばく大な持続的支援が外部から継続的に得られるなら、ウクライナ国民が将来的に勝利するチャンスはある。ただ残念なことに、それはあまりに薄い可能性だ。
>ウクライナの主要な野党勢力とヤヌコビッチ氏、EU当局者らは先月21日、政治危機の解決で合意に達したものの、まもなく決裂し同氏は失脚した。
誰が一番理にかなっているのかというと、今回の場合はやはりヤヌコビッチくんだよな~。
きちんと選挙で選ばれた大統領であり、土壇場でも野党との選挙確約を合意させていたのだから・・・
ここが、米国やEUにとっては介入すべきポイントだったよな。
ここで動乱を抑えて選挙に持ち込めば、親EU派の大統領誕生となったのに・・・
ヤヌコビッチ政権を崩壊させてしまったのが大きな間違いであり・・・
プーチンくんに付け入る隙を与えたよね。
まあ、オバマくんの外交オンチを象徴したところだなw
>
ロシアがクリミアに軍事介入しようとしていることが明らかになったとき、オバマ政権はロシアに対し「大きな代償」を払うことになるなどと、「こけおどし」的な警告を度々してきた。
その後のオバマくんの対応は、オイラみたいな全く関係ない一庶民からしても、こけおどし過ぎて笑ってしまった~
>第一に、十分にあり得ることだが、ロシアがウクライナ東部に軍隊を送り込むなら、勝者はいない。
問題は、この一点なんだよね。
プーチンくんがクリミアからさらに進攻すれば、ロシアも大義名分を失うだろうな。
まあ、プーチンくんもそこまでは考えていないようだけど。
ロシア、ウクライナ南東部の侵攻計画ない=ラブロフ外相
[ロンドン 14日 ロイター] -
ロシアのラブロフ外相は14日、ロシアはウクライナ南部のクリミア自治共和国で16日に実施されるロシア編入の是非を問う住民投票の結果を尊重すると述べた。ただ、同国南東部に侵攻する計画はないと言明した。
ラブロフ外相はこの日、米国のケリー国務長官とロンドンで会談。数時間に及んだ会談の後、ロンドンの
ロシア大使公邸で記者会見した同外相は、ウクライナをめぐり西側との共通の認識は得られなかったと表明。ウクライナ問題の解決に向け、ロシアは国際機関の仲介は必要としていないとの立場を示した。
同外相は「クリミアで実施される住民投票で、
ロシアはクリミアの人々の意思を尊重する」と表明。ただ、「ロシア連邦にはウクライナ南東部を侵攻する計画はない。そのようなことを計画することもできない」と述べた。
また、クリミアは
ロシアにとり、南大西洋のフォークランド(スペイン語名マルビナス)諸島が英国にとり意味するもの以上の存在との考えも示した。
>最良の場合は、債務支援は得られるが、今後ロシアから天然ガスの値引きは受けられなくなる。ウクライナ経済は依然として厳しく、同国の新しい大統領は引き続きロシアとの関係を維持する経済的必要に迫られる。
今後のウクライナ政権は、今までのように割引された天然ガスを買うことはできないだろうね。
まあ、EUに加盟することを考えれば、当然だけど・・・
ロシアとしては、現状で治まれば、天然ガスの欧州への輸出も継続でき、クリミア半島という大事な港の拠点を押さえることが出来て、大成功だと思うけどね。
経済危機の可能性も残っているけど、大義的には大勝利だし・・・
> 結局のところ、ウクライナ国民が一番の敗者で、今後もそうなるだろう。このような文脈において、米国が犯した重大ミスという議論は行われるべきだ。
ウクライナ国民が敗者なのは、仕方ないことだよね~
クーデターで政権を樹立させたのだから、多少の痛みを伴うのは当然だし。
問題は米国。シリアに続く外交失敗で、ますますオバマ政権はレームダック化しそうだから・・・
日本は、オバマくんと適当にお付き合いして、次の政権を見据えるべきだね。
米国人は、今回の件をどのように感じているのかね?
強い米国=共和党へと世論が動くのか、注目ですな。