日銀に行動迫る安倍首相、リスクはあるが大方正しい-社説
1月4日(ブルームバーグ):日本銀行に金融政策を変えさせるとの公約を掲げてきた安倍晋三首相は、それを思い通りに実行しているようだ。首相のアプローチにリスクがないわけではないが、その大半は正しい。
首相の方針は日銀の独立性に対する危険な攻撃だと批判する向きもあるが、こうした懸念は誇張されている。喫緊の課題は日本の景気低迷だ。横ばいもしくは下落している消費者物価が実質金利をゼロを上回る水準に押し上げ、金融政策を過度に引き締めている。デフレからの脱却は容易ではないが、米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行など他の中央銀行がゼロ金利でも非伝統的な措置が機能し得ることを示している。
原則として日銀も理解している。資産購入を通じ一定の量的緩和策も実施し、事実上のゼロ金利政策を続けている。だが、主に2つの点でためらいを見せている。1番目の点は日銀が買い入れている大半が短期債であることだ。短期債購入で紙幣を発行しても金融緩和にはほとんど役立たない。FRBやイングランド銀のようなやり方でより大規模かつ長期債を対象とした量的緩和ならもっと効果的だろう。
2番目の点は、日銀自らがその取り組みの効果を見くびっていることだ。金融政策において、中銀の意向に関するガイダンスはそれ自体で強力な手段だ。景気が持ち直しても緩和的な金融政策を続けると表明しているFRBは、このことを強調している。日銀が行うのはたいていその逆だ。つまり市場に対し日銀の政策は不十分だと告げていることに等しい。
日銀は政府と共同で昨年10月発表した声明で、「中長期的な物価安定の目途」を消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しているとしながらも、「当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」と説明した。達成ではなく「見通せるようになるまで」とするような過度の警戒は自滅を意味する。
強まる圧力を受けた日銀は昨年12月、新たな資産購入策を打ち出し、中期的な物価安定目標について今月の金融政策決定会合で議論する方針を示した。首相は2%のインフレ目標を定めることを求めており、日銀法の改正もちらつかせている。4月には白川方明総裁の任期が切れることから、日銀の新たな総裁が指名される。
こうしたやり方で日銀の独立性を攻撃することは、日本の金融システムに対する信頼感を打ち砕くリスクがあるとの批判はどうだろうか。円急落や長期金利の急上昇をもたらし、日本経済をさらに深い穴に陥れる可能性があるという批判だ。
安倍首相に対する批判は的を射ている面もある。巨額の公的債務を抱える日本は財政的にはすでに余裕がない状況だ。首相は新たな景気刺激策を表明している上に、一段の金融緩和を促している。日銀が簡単に政府の主張を受け入れ、さらに大きな財政赤字を穴埋めするよう指示される事態になれば、こうした懸念は現実のものとなるかもしれない。
安倍首相が就任前に公共事業を支える建設国債の購入を日銀に呼び掛けた際、その恐れが浮き彫りとなった。首相がその後、こうした主張を撤回したのは賢明なことだ。民主的な手続きを踏み、2-3%のインフレ目標に加え、日銀に独立性とその目標達成における適切な説明責任を求めることは正しいアプローチであり、そのこと自体、他国が試みてきたことだ。
消費者物価の前年比上昇率1%を目指すとする日銀はそれさえ達成できていない。政府が不満を示し、インフレ目標の改善を求め、日銀に説明責任を負わせるのは正しい。一線を画している限り、中銀の慎重さをめぐる必須の原則を損ねるものではないし、むしろ支えることになる。
>政府が不満を示し、インフレ目標の改善を求め、日銀に説明責任を負わせるのは正しい。一線を画している限り、中銀の慎重さをめぐる必須の原則を損ねるものではないし、むしろ支えることになる。