元亀年間。
摂津では荒木村重が台頭し、和田惟政らと対立するようになっていた。
そしてついに、両者は決着をつけるべく軍を発する。
村重は士気を鼓舞するため、一つの板を陣頭に掲げた。
惟政を初めとする敵将の名を書き連ね、
その首には報奨いくらと明示したものだ。
明日はいよいよ合戦、となった日。
掲示を見上げる男がいた。
村重の与力・中川瀬兵衛清秀である。
清秀は筆を取り出すと、惟政の名の上に点を書き入れ、立ち去った。
その深夜、清秀は村重を訪ねた。
「おやおや、瀬兵衛殿。かような刻限にいかがした。」
「…どうぞ。」
清秀が携えてきたのは、紛れもない敵将・惟政の首であった。
「な、なんと!?」
村重は仰天し、いかにして惟政を討ち取ったのかを聞いた。
「はあ。
明日は決戦にて、敵はきっとこれに万全の用意をするだろうと思いました。
となれば、あらかじめ今宵のうちに、淀川の深さを測っておくでしょう。
惟政は優れた大将ですから、もっとも大事な物見を他人任せにはせぬはず。
必ずや、淀川べりに現れるだろうと踏んだのです。
そこで、敵が見えぬうちに川を渡り、木陰に伏し隠れておりました。
案の定、惟政が現れたので、兵に紛れて潜り込み、隙を見て首を取りました。
あとは水中に飛び込み、味方の陣まで参ったというわけです。」
清秀はそう語り、人々に感嘆されたということである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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