ある時、城内で徳川家の新参神谷与七郎が、酒井忠世とすれ違ったので、
脇によけて頭を下げたことがあった。
神谷「これはこれは忠世様。(ペコリ)」
忠世「……。」
神谷「えっ?」
しかし忠世は返礼をしなかった。
それを根にもった神谷は忠世に礼をしなくなったどころか、
非礼なことを言うようになってしまう。
これを知った徳川家康は、大層腹を立てた。
家康、
「なんて非礼な奴だ!
即刻クビに…。
いや、あいつはこの件以外は特に過失もないし人柄もいいから家臣たちがよく思わないだろう。
しかしクビにしないと忠世の面子が立たない。どうしたものか…。」
そこで家康は以前神谷と約束した千石の知行をわざと八百石にして、
神谷が文句を言ってきたらクビにしようと思い立った。
この案を忠世に相談したところ…。
忠世「それでは千石で召すという約束と違います。むしろあれは優秀ですから、
約束より多めに与えてはいかがですか?」
家康「奴は振舞いが悪いと聞いたぞ。」
忠世「まさか。あれはそう簡単には見つからない逸材ですよ。」
家康「はあ?わしはお前が迷惑しているというからだな…。」
忠世「はは、新参のくせに私にあんな態度がとれるなんて骨のある奴じゃないですか。
ちょっと調べたところ人柄も心がけも揃っているようです。」
家康「ではいくら出すのが妥当だと思う?」
忠世「約束の倍で。」
家康「…千でいいだろ。」
忠世「ぜひとも二千!」
家康「よし!千五百だ!」
というわけで忠世の強い推薦で神谷は千五百石取りになった。
家康から、
「これは忠世の推薦である。」
と聞かされた神谷は、
忠世の公私に捉われない好意に落涙し、以降忠実に勤めた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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