福島正則と立花統虎(宗茂)は、一時非常に仲が悪くなっていた。
何故かと言うと、これはあの織田信長に槍をつけた、
天野源右衛門のせいだったらしい。
ちなみに天野源右衛門は、安田作兵衛とも名乗っている。
豊臣秀次の下から飛び出した天野源右衛門は、
立花統虎に招かれ筑紫へ向かうことにした。
ところが福島正則も名うての人材マニアである。
天野を召抱えたいと思い、熱心に言い寄ったが、
天野は立花との先約があるとして行ってしまった。
この事で正則は怒って統虎と不和になったらしい。
正則はよく知られる通りかなり酒癖が悪く、
普段の性格も酒さえ飲まなければ悪い所はないが、
非常に厳しく理非曲直を糺す人物で、賞より罰多く、
諸人に悪鬼天狗のように恐れられていた。
この喧嘩に困ったのが二人の共通の友人だった吉川広家と黒田長政。
彼らは折にふれては仲直りするように互いに働きかけていた。
広家と長政の努力が実って、正則と統虎は朝鮮の陣中、
吉川広家のいる、とくねきの城に招かれて和睦することになる。
黒田長政もつきそいでやってくることになった。
この席に統虎は弟高橋統増、家老の小野和泉、そして天野源右衛門を連れて来ていた。
いずれも一騎当千の勇士だ。
ところが正則の方はたった一人でやってきた。
これではさしもの大勇の正則も心細いだろうとはたからは思われたが、
当人は少しも臆する気配なく統虎の向かいに泰然として坐している。
広家は彼らを山海の珍味をとりそろえたごちそうで饗応し、
長政といっしょにあれこれ取り持って、無事に和解することができた。
和睦の盃が数巡して、統虎が一盃呑んで、正則も統虎に指されて三盃呑んだ頃、
統虎が御肴仕らんと立ち上がって二王舞を舞った。
満座が盛り上がり手を叩いて囃したてる。
すると統虎は興に乗ったのか、はだぬいで拳を握り、座敷をぐるっと一巡して、
正則の目前へ拳を振りかけ振りかけして舞った。
その様子は本物の二王のようで、鴻門の会で劉邦を暗殺しようとする項荘と、
それを防ごうとする項伯の剣舞もこのようであったろうと思われたというくらいなので、
相当鬼気迫る緊張感たっぷりのひと時だったようだ。
この時、福島正則は顔色が変わって見えたそうで…思い出してほしい。
福島正則が現時点で最低でも三盃酒を呑んでいるのを。
広家と長政が頑張った。
二人とも空気を読む能力の高さには定評がある。
あれこれ気を配っているうちにほどなくして酒盃のやりとりは終わり、
その後は雑談も弾んで客たちは帰って行ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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