その日も、徳川頼宣は、尊敬する真田信之を自邸に招き、
武辺話など熱心に聞いていた。
「ふむふむ、それで戦が始まれば、備えはどうすれば良いのかな?」
「ああ、カンタンにござる。自軍がこのように…。」
信之は扇を開き、要の方を頼宣に突きつけた。
「…広がって見えれば、勝ち。お味方が、われ先にと敵を押しているという事。
何もする必要はござらん。逆に…。」
今度は信之、扇を逆に持ち変えて、扇の先を頼宣に突きつけた。
「…こう見えれば、負け。突出している所を叩かれ崩れぬよう、手を打つべきです。
まずはこの二つに注意すれば良く、
鶴翼だ魚鱗だなどとは、その後ですな。」
「(うむ、やはりこの人しかおらぬ!)なるほど。
あとは戦での指図の要、ほら貝・陣太鼓など拝見したい。」
「心得ました。では後日、用意の上で実演いたしましょう。」
約束の日、信之がほら貝を持って紀州藩邸に行くと、
豪華な甲冑の飾ってある座敷に通された。
「?紀州様、これはいったい?」
「申し訳ない、ほら貝などとは口実。わが子も年頃になり、
鎧着初めの儀を行なうことになった。
そこで、ぜひ貴殿の武功・忠義にあやかりたく、具足親になっていただきたい。」
元服の儀の烏帽子親は平時の後見役、鎧着初めの具足親は、有事の後見役である。
「将軍家や数ある大大名を差し置き、私などがそんな、大それた役は…。」
「貴殿がそう言うと思って、わざわざウソをつくような真似までしたのだ。信之殿、頼む!」
「…仕様のないお人じゃ。」
信之は頼宣の子に甲冑を着付けてやった。
「せっかくだ、わしの愛刀を差し上げよう。
銘を『大食上戸餅食らい』と申す相州秋広の業物、その切れ味底無しじゃ。」
頼宣は大いに感謝し、信之に兼光の脇差等を贈った。
数日後、老中・酒井忠勝が信之のもとを訪れた。
「貴公、紀州様のご子息の、具足親を務められたとか。」
「えぇ、まあ。(やはり、不味かったか?)」
「ぜひ拙者の孫、与四郎にも具足を着せてくだされ!」
「…仕様のないお人たちじゃ。」
苦笑しつつも、信之は忠勝の申し出にも快く応じた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく

ごきげんよう!