毛利元就は学問を重んじていた。
だから、常に学者を脇において、いろいろ学んだ。
ところが元就の勢いがますと、ある学者がおべっか使いに変わった。
ある時、学者は元就にこう言った。
「あなたはまるで周の王様と同じです。
この国の人々は、あなたが領主になっていい政治が行われていると大変喜んでおります。
そこでいかがでしょう?
この際、私にあなたの伝記を書かせてくださいませんか?」
これを聞くと、元就は苦笑してこう答えた。
「周の王のことは私もよく知っている。
できれば、ああいうふうになりたいと思っている。
しかし、お前が勘違いしていることが一つある。」
「なんでございましょうか?」聞き返す学者に、元就はこう答えた。
「周の王には、おべっか使いはいなかった。」
これを聞いた学者は顔を赤くし、すごすごと退がった。
元就は側に残っていた者にこう言った。
「学者は頼むにたりない。俺の伝記などとんでもない話しだ。
まして、俺のような至らない者のやったことを書き残せば、後世の者は、
毛利元就とはこの程度の男だったのか、
こんなくだらないこともやっていたのか、と嘲笑うにちがいない。
そんな笑われるような書物を俺は後世に残したくない。」
この話しが広まって、元就の脇にはおべっか使いが一人もいなくなったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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