優れた内政手腕をもって、会津三奉行のひとりに数えられる安田能元。
趣味を同じくする慶次とは気が合ったようで、たびたび連歌会や茶の湯を共にしたという。
ある日、慶次は能元宅に招かれ、食事を振る舞われた。
質素ながらも、慶次の好みに合わせた、
客人をもてなす正しく「御馳走」であり、慶次は喜んで口にした。
が、頬張った飯が炊きたてで、喉が焼きただれんばかりに熱く、
これには流石の慶次も思わず、
「熱っ! すまぬが水をくれぬか。」
普段は何事にも動じない慶次の慌てっぷりが面白かったのか、はたまた天然か。
能元は涼しげに、
「香の物を口に含まれよ。さすればじきに冷めるだろう。」
と返した。
後日、慶次は、
「先日の礼も兼ねて、我が家自慢の風呂を馳走したい。」
と、能元を自宅に招いた。
当代きっての風流人である慶次から招待をされるのは嬉しくもあったし、
また、空気の冷たくなってきた時期でもあったので、能元は喜んで受ける事にした。
見事な拵えの風呂に、
「さすがは前田殿、自慢するだけの事はある。」
と足を湯に入れると、これまた熱い。
肌が焼けんばかりの熱さで、豪胆を自負していた能元も思わず、
「熱っ! 水を、水を差してくれい。」
これを聞いて、待ってましたと慶次。
香の物を一切れ差し出した。
能元、一瞬唖然とするも、すぐに慶次の頓知のきいた意趣返しだと悟り、
声に出して笑ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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