慶次が、米沢の堂森で使っていた僕に吾助という若者がいた。
従順であったがあまりに仏教に凝りすぎて、寝ても起きても、
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
と念仏を唱える癖があった。
慶次はこれがうるさくてたまらず、
かといってガミガミと頭から叱りつけるのもおもしろみがない。
そこで一計を案じ、格別用事がないのに朝から吾助、吾助と呼びつける。
吾助は、
「ハイ、何御用でございますか。」
と返事をすると慶次は別に用はないと答える。
そしてまた吾助、吾助と呼びつけるのだった。
さすがに吾助もこれには全く困り果て、ある日改まって、
「旦那様、私の名を御呼びになるのは結構ですが、
格別用もないのに御呼び続けになるのには全く閉口致します。
これからは御用もないのに名を御呼びになるのはやめていただくよう、
御願い申し上げます。」
と申し出た。
すると慶次は、
「そんなら拙者からも云うて聞かせることがある。
お前が仏様を信心し、御念仏を唱えるのはよいが、
寝ても覚めても御念仏を唱えては、さすがの阿弥陀様も返事がしきれないであろう。
阿弥陀様に御迷惑を御かけしてもよいのか、どうじゃ吾助、この道理わかったか。」
と丁寧に諭したので、
「ハイ、分かりましてございます、
以後気をつけますから、これまでの事はどうぞ御許しください。」
と答えて、それからはぴたりと念仏を唱えなくなったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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