薩摩藩の日当山で茶の栽培が始まって暫くのこと。
家久は、自国の茶と京の茶の味を飲み比べてみようと思った。
思い立ったが吉日なのか、単に堪え性が無いのか、
行動力に溢れているのかは分からないが
とにかく家久はこう言った。
「明日にでも日当山で一番の茶の実を持って参れ!」
これに日当山の百姓達は大変困った。
百姓達は茶を専門にしているわけではなく、他の作物も耕しており
今は麦の収穫の真っ最中だった。
「殿様の仰せに従っていては畑仕事も進みません、何とかしてください。」
百姓達に泣きつかれた地頭の徳田太兵衛は、
その日のうちに一人の老婆を伴って城を訪れた。
これに家久は大喜び。
「おお、『明日まで』と言ったのにその日のうちに参るとは忠義者よ。
して太兵衛よ、茶の実は何処じゃ?」
太兵衛は老婆を伴ってきただけなので、当然茶の実などあるはずが無い。
だがしれっとこういった。
「はい、これなる老婆こそ、日当山一のちゃのみにございます。」
これには家久も怒って、
「馬鹿を申せ、ここに居るみすぼらしい老婆が茶の実なものか。」
だが太兵衛は動じない。
「いえいえ、この者こそ「日当山一の茶飲み」でございます。
何せい朝も昼も茶に興じ、この時期も皆が麦の収穫で忙しく、
猫の手も借りたいと言うのに
茶ばかり飲んで居るから村の者から、つまはじきにされている始末でございまして。」
家久も太兵衛の言わんとすることを察したのか、
「あー、わかったわかった。茶飲みなど麦の収穫の後でよいわ。
忙しい時期に無茶を言ってすまなんだな。」
と茶の収穫を撤回して太兵衛と老婆を帰らせた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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