ー 生涯 －
生い立ち
忍城城主・成田氏長と、最初の正妻[注 1]で上野国金山城城主・由良成繁の娘との間に生まれる[3][4]。 外祖母となる妙印尼（由良成繁の妻）は、天正12年（1584年）に金山城が北条氏の軍勢に襲撃された際、71歳という高齢にも拘らず籠城戦を指揮した女傑であり[5]、甲斐姫の母も武芸に秀でていたという[4]。
天正元年（1573年）、成田氏と由良氏の関係悪化に伴い、母とは2歳の時に離別[4]。その後は氏長継室となった太田資正の娘の下で育てられたが[4]、継母や巻姫や敦姫といった腹違いの妹たちとの仲は良好だったという[3]。19歳となった甲斐姫はその容姿から「東国無双の美人」と評されたが[3]、武芸や軍事に明るかったことから、「男子であれば、成田家を中興させて天下に名を成す人物になっていた」とも評された[3]。
忍城の戦い
「忍城の戦い」も参照
天正18年6月4日（1590年7月5日）、豊臣秀吉による小田原征伐の際、500余の兵と城下の民たち合わせて3,000人程度が籠もる忍城に石田三成率いる約2万3千人の豊臣秀吉軍が侵攻した[6][7]。 忍城は湿地を活かして築城されている上に、城代・成田泰季が率いる籠城軍の士気は高く、城攻めは難航した[7]。この籠城戦の最中に城代の泰季は発熱を起こし、そのまま病死したが[8]、奥方と甲斐姫は泰季からの「大任を受けながら途中で死を迎えることは残念。万が一の時には成田長親を私の代わりに」との遺言を受けると一門や家臣を集め、泰季の嫡男・長親を総大将とすることを命じた[8]。
成田勢の抵抗に対して三成は備中高松城と同様に水攻めの戦法を採用[6][7]。城の周囲に石田堤と呼ばれる長大な堤防を築き、水を引き入れて成田勢を無力化する作戦に出た[7]。周辺地域の地形的な問題もあり堤内の水位は芳しくなかったが[9]、荒川と利根川から水を引き入れたことで6月16日（7月17日）には堤内は水で満ちた[6]。一方、忍城周辺は6月18日（7月19日）頃から梅雨時の風雨に見舞われた[7]。この風雨により、同日夜半に2箇所で堤が決壊、濁流が石田勢を押し流し、270人近くにおよぶ溺死者を出した[6]。成田勢が夜陰に乗じて堤を破壊したためだとも言われる[7][注 2][注 3]。
6月25日（7月26日）、岩槻城や鉢形城を攻略した浅野長政の軍勢が援軍として差し向けられると[14]、6月27日（7月28日）[14]に長政が自ら陣頭に立ち大手口（地図）から攻撃を仕掛けた[15]。浅野勢が本丸に迫る勢いを見せたため、報告を受けた城代の長親が出陣しようと試みたが[16]甲斐姫はこれを押し留め、自らが鎧兜を身に付け、成田家に伝わる名刀「浪切」を携え、200余騎を率いて出陣[16]。甲斐姫の到着より先に佐間口を守備していた正木利英が手兵を引き連れて応援に駆けつけていたこともあって浅野勢の侵入を阻止することに成功し、甲斐姫も多くの敵将を討ち取ったとされる[16]。
7月5日（8月4日）[6]、豊臣側は石田・佐竹勢が下忍口（地図）から、浅野・長束勢は持田口（地図）から、大谷・宇都宮勢が佐間口（地図）から三方面同時に侵攻を開始し[6]、浅野長政、真田昌幸・真田信繁父子らが布陣した持田口では両軍による激しい戦闘が行われた[17]。成田勢は他方面でも豊臣側の軍勢と対峙しているため援軍を派遣することが出来ず[17]、本丸から甲斐姫が200余騎を率いて持田口に加勢した[17]。その際、甲斐姫は児島高徳の末裔を名乗る三宅高繁という武将と対峙すると、「女将軍よ、そなたを我が妻としてくれる」と意気込む相手を弓矢で討ち取ったと伝えられている[17]。
7月6日（8月5日）、北条側の総大将の北条氏直が豊臣側に降伏[6]。小田原城の受け渡しが行われた後も忍城の成田勢は籠城を続けていたため、秀吉の命により城主の氏長が使者を派遣し小田原開城の報と忍城開城を指示[6][18]。使者の説得を受けて城代の長親は開城を決断し、7月14日（8月13日）[19][注 4]の開城の際には甲斐姫をはじめ奥方、巻姫、敦姫らが甲冑を身につけて馬に乗り、籠城した諸士に囲まれながら城を後にしたと伝えられている[18]。姫らの退出後、豊臣側の総大将の三成が忍城に入り、城代の長親の立会いの下で城の明け渡しが行われた[18]。
浜田兄弟討伐
『真書太閤記』や『成田記』には、忍城を明け渡した後の成田氏と甲斐姫の動向について次のような内容が記されている。
豊臣方に抵抗した成田家は蒲生氏郷に預けられる身となったが、同年9月に氏郷が陸奥国会津に移封されたことに伴い、これに従った[20]。氏郷は氏長らを粗略に扱うことはなく、会津領内を蘆名盛氏が治めていた当時に軍事的な要衝とされた福井城の守備を一任し1万石の采地を与えた[20][注 5]。領地を得たことで氏長の下にはかつての家臣たちが集まり始めたものの、氏郷は家臣の中から上方で召抱えたばかりの浜田将監と弟の浜田十左衛門を与えた[20]。浜田兄弟は成田家に対する監視役でもあったが当初は氏長に忠義を尽くしていたという[23]。
同年11月、陸奥国中部で発生した葛西大崎一揆に呼応して伊達政宗の軍勢が会津領内の塩川に侵攻するとの情報が入り[23]、氏長は蒲生頼郷に加勢するため主だった家臣を率いて塩川へ出陣した[23]。浜田兄弟は福井城の留守役を任せられていたが、ある晩に謀反を企て本丸に攻め入ると成田家の譜代の家臣や氏長の妻を殺害した[24]。この一報を知った甲斐姫は謀反を起こした浜田兄弟に対して怒りを露わにしたという[24]。一旦は200余人を有する浜田十左衛門の兵に対し、十数人足らずの甲斐姫は追い詰められるが[24]、「主に刃向かうは逆賊の非人である。忠義のためなら命を惜しまない関東武士の手並みを見るがいい」と言い放つと攻勢に転じた[24]。虚を突かれた浜田勢は総崩れとなり、甲斐姫は馬を使って逃走を図る十左衛門に迫るとこれに斬りつけて落馬させ、その首を討ち取った[24]。
浜田兄弟の謀反を知り福井城へ引き返した氏長の軍勢と黒川へと落ち延びる途中だった甲斐姫の手勢が合流[25]。これに蒲生氏の援軍が加わり[25]福井城を包囲した[26]。将監は逃走を図ろうとしたが、薙刀を携えて待ち伏せていた甲斐姫と対峙[26]。両者は互角に渡り合ったが、甲斐姫が一瞬の隙を見逃さず将監の太刀を払い落とすと、すぐさま右腕を斬り落とし、生け捕りとした[26]。将監は磔のうえ斬首となり、首は城外に晒されたという[27]。
その後
甲斐姫の武勇伝を聞いた秀吉は、姫を気に入り側室として召抱えることになった[28]。一方、甲斐姫が秀吉の側室となった経緯について『関八州古戦録』では「蒲生氏郷は奥州仕置により会津に移封された後、氏長に1万石の采地を与えた。秀吉が下野国の小山に立ち寄った際、氏長の娘の美貌と剛勇ぶり、忍城の戦いでの堂々とした振る舞いを聞き、密かに面会した。その後、上方に戻った秀吉は会津に使者を送り、氏長の娘を側室とするため上京するように伝えた」と記している[29][30]。同様の説は、新井白石著の『藩翰譜』に記されている[31][注 6]ほか、栃木県小山市において伝承が残されている[32]。蒲生氏郷に預けられていた氏長は姫の口添えもあって、天正19年（1591年）に下野国烏山城主として2万石の領主に取り立てられた（後の烏山藩）[28]。
大坂城での甲斐姫の生活ぶりは定かではない[33]が、『伊達世臣家譜面』によると、秀吉には16人の側室が存在し[34]、桑田忠親の著作によると、そのうちの名前が判明している人物の一人として甲斐姫の名が挙げられている[34]。慶長3年3月15日（1598年4月20日）に京都で行われた醍醐の花見の際、甲斐姫が詠んだと考えられる歌が残されていることから、秀吉が亡くなる間際までその近辺に存在したものと考えられるが[33]、同年8月18日（9月18日）の秀吉没後の消息は途絶えている[35][36]。
一説によると甲斐姫は淀殿の信任を得て豊臣秀頼の養育係を務めたとも[37]、武勇を生かして隠密的な役割を果たしたとも[28]、秀頼と側室との間に生まれた娘（後の天秀尼）の養育係を務め[38]、大坂の陣の後に共に相模国の鎌倉にある東慶寺に入ったとも言われる[10][37][39]。一方で、秀頼に仕えた局や侍女を示す文献資料の中に甲斐姫の名は確認できない[40]、とされている。
以上、Wikiより。
