1961年(昭和37年)公開、三船敏郎41歳、黒澤明51歳、敵役の仲代達矢は

   29歳であったがさすがの貫禄で同じく20代であった加山雄三や田中邦衛が

   藩政改革派として演じている映画『椿三十郎』への文句第二弾であります

 

   この若侍たちは正義感溢れる行動派だが冷静沈着さに欠けている、これから

    どうすると問われた城代家老の甥、井坂伊織は伯父の城代家老の指図を仰

   ぐつもりと答える、それを聞いた素浪人は。 

     「なかなか聞きわけがいいな、いい子だ!」

 

   実はこのセリフ後半にも出てくる。 ひょんなことから仲間入りした三十郎

    は城代の役宅から奥方と娘を救出、見張りのひとりを生け捕りにし、二人

   を成敗する。汚職のひとり黒藤の椿屋敷の隣、寺田の屋敷に潜伏するも城代

    の行方は杳として知れぬ。思いあぐねた三十郎は神社での室戸半兵衛の誘

   いを口実に大目付の役宅を探りに行く。裏切られたら大変と若侍四人が跡を

    つけるが捕まってしまう。室戸の不在を狙って捕虜を解放した三十郎は門

   番を含めて全員を斬殺、室戸が到着すると敵に襲われたと芝居を打つ。

    「この様はなんだ!」「すまねぇ、でもなあの青侍の顔を覚えた」いずれ

   手土産を持ってくるぜと立ち去る。

 

    原作は山本周五郎の『日々平安』を下敷きに脚本執筆だったが前作の『用

   心棒』の続編をと云う会社の要請を受け大幅に手を入れたのが椿三十郎とな

    った。ここで最初の文句を日々平安の主役にイメージしていた小林桂樹が

   城代家老宅で見張りのひとりで拉致される。仮にも朋輩の二名が殺されたの

    に唯々諾々と寺田屋敷に移ってからも脱走もせず居続ける不思議、理解不

   能、すっかり良い人を演じている。

    三十郎が大目付役宅に室戸をたずねた折非常な歓待を受けた、これは室戸 

   が孤高の人で親しき友人もなく周りからは煙たがれていた証左といえる。そ

    して悪事を吐露する「悪いのは菊井のほうでな」「お主はその菊井の」「

         家来さ、俺も相当悪い」「貴公を菊井に逢わせよう」だがいい

   か、菊井は切れ者と自惚れている、だから。「そこんとこを撫ぜてやれば目

         を細めて喉を鳴らすちゅうわけだ」

        「なかなか聞きわけがいいな、いい子だ!」と室戸のセリフ。

 

    室戸にしてみれば同じ匂いを持つ男、三十郎と意気投合し「仲間としてや

     ってゆけると踏んだ」そして菊井に逢うべく屋敷を出る。付けていた若

    侍を捕縛する。

     当て身で倒れた井坂伊織を見た室戸が「これはいい土産になる、城代の

      甥でな井坂と云う首魁のひとりだ、だがぶら下げて行くには重すぎる」

 

     大目付菊井につなぎをすべく三名を使いに出すが「三人でも危ねぇな」

    俺も行くと三十郎、追いつく刹那三人を瞬殺、取って返した三十郎「いけ

       ねぇ奴らもう斬られてるぜ」夕闇を透かし見れば10間先で倒れてい

    る。三十郎が俺が行くと云うと「貴様が行っても話が通らん、後を頼むぞ」

     と云って駆け出す室戸半兵衛。

 

    残された大目付配下の侍たちはどこの馬の骨ともわからん浪人者に指図さ

     れるのはさぞや業腹だっただろう。20~30人をひとり1秒といわれる

    くらいの早業で刀を振るう、最後は逃げ惑う武器を持たない門番まで斬っ

     て捨てる。

 

    室戸が手勢を率いて駆けつけると三十郎だけが縛られている。

 

     ここでもしもですよ。明智小五郎とか古畑任三郎みたいな人が現れたな

    らこう言うでしょう。「敵が仲間を奪え返しにきたのであれば、歯向かう

       者だけを相手にするでしょう、門番や小物まで皆殺しとは解せませ

       ん」

     刑事コロンボみたいな人が「三十郎さん、質問があるのでちょっとよろ

       しいでしょうか、あなたの着物凄~い汚れていますね、これは返り 

       血ですか、まっ、鑑識で調べれば分かることですがね」とか。

     普通、これだけの修羅場であれば斬られているうち数名は虫の息の者も

      居たはずである、死人に口なしで止めをさすのも変だ。      

 

     それに大目付の役宅内には他にご婦人が居たと思うのですが?

 

      最初のほうで三十郎が城代はつまらねぇ面してるだろー云うがその

     城代家老を演じたのが伊藤雄之助である、登場シーンはぎこちない歩き

      かたで話し方もゆっくりと知性を感じさせないのはさすがの演技力で

     ある。「有難いことに、あの男は戻っては来やしないよ、大人しくお城

     勤めなんかできる奴じゃないよ」その通りである。あれだけの人員を殺

     生したのだから仕官できるわけがない。よしんば仕官したとしても闇討

      ちか毒殺されるのが落ちだろうと思う。

 

     実は2006年版の織田裕二が演じた椿三十郎も何回もみております。あえ

      て評論はしませんがこれはこれで楽しめる作品になっております。今

     や売れっ子になった鈴木亮平が若侍で出演をしております。

      このリメイク映画が大ヒットしていれば『用心棒』が次に制作予定だ

     ったとか。

 

     最後に椿の花はポトリと落花いたしますので武家屋敷では忌み嫌われて

      いるとなにかで読んだことがございます。大目付の菊井の菊と黒藤の

     フジと竹林の竹と椿、植物繋がりでした。

 

          お読みいただきありがとうございました