再就職後の話が続きます。このテーマは約30話前後を予定しています。

 

 アメリカ発の世界的な金融不安が続く中でこの会社の業績は比較的健闘していた。得意先も比較的多くあり、大手を含めて幅広く取引をしていた。これは特定の得意先に集中させてしまうとその得意先に何かあったときに途端に運営が立ち行かなくなるのでこの会社は幅広く得意先を持つことでリスクの分散を図っていた。

 

 そのような環境下で京都営業所で営業が1人欠員になることと滋賀営業所の規模拡大のため職安と求人誌を使って営業マンを2人募集することになった。職安では書類選考はできるだけしないで欲しいという建前があるが応募者が多いと面接するだけでかなりの労力を必要とする。私も職安を通して活動をしていたので実態は職安の案件でも書類選考が多く行われていることを話すとこの時から書類選考で対象者を絞ることになった。

 

 営業マンなので男性の採用を前提としているが、男女雇用機会均等法で原則として男性限定の募集はできないので、女性からの問い合わせもあった。私が過去に活動している会社では女性限定の募集と平気で言う事業主もいたが、私はこの問い合わせをたまたま受けたので、

 

「この仕事は重量物を運搬するなどの業務もありますがそれでもよろしいですか」

 

と言うと男性限定とは言わなくてもこの女性はたじろいだ。それでもいいと言われたら応募してもらうほかないが、最終的に応募しないことになった。このときは応募もかなり多かったが書類選考で面接対象者を絞り、大阪道頓堀にあった「くいだおれ太郎」の人形に似ている人が京都に、ビリヤードがプロ級の腕前の人が滋賀にそれぞれ入ることに決まった。面接は専務が担当するが、この専務は何か特殊なことができる人を採用する傾向が強いと感じられた。重量物の運搬は本当にあるので体格もガッチリした営業マンが多い。

 

 京都営業所に配属された新人営業マンは各種伝票などがある社内メールを営業所から本社に届けたりもしくはその逆を1日1回行うことになった。あまりにも似ているのであだ名が「太郎ちゃん」に決まった。

 

 私は浜中と一緒に仕入の業務をやりながら婆須がやっていた接待交際費関連の面倒な処理をやることになったのでかなり忙しくなっていた。私は仕事に没頭してしまうと周りの事情は見えなくなる。この会社ではお客さんがやってきたら相手がどんな人でも「いらっしゃいませ」、帰るときには「有難うございました」と大きな声で挨拶することになっていた。私は仕事に没頭している最中にドアを開ける音が聞こえたので、お客さんだと思い、

 

「いらっしゃいませ」

 

と大きな声で言って顔を上げたら何と専務だった。

 

「何を言うとるねん」

 

と突っ込まれる私。これには私も苦笑いするしかなかった。これは1回なら許される。誰か来た時は上を見てから挨拶するように気をつけるようになった(←これは前の職場ではお客さんに大きな声で挨拶すると言う考えがなかったので不慣れだった)。

 

 この年は6月にボーナスが支給されることになった。営利会社なので会社への貢献度に応じて支給額も決まるらしい。業績にも連動する。定期的に支給する賞与は損金処分賞与と言って法人税法上の経費と認められる給与と同じ扱いになる。日本の法人税率は約40パーセントと高いので法人税を取られるくらいなら従業員に還元しようということで期末に賞与を臨時で出すケースもあるが、今の環境下では少ないと思われる。余談だが備品などを年度末に多く買い込んでいる場合は多くが税金対策である。

 

 一方益金処分賞与というものもある。これは法人税を支払った後でも利益がたくさん残っているのでそれを役員などに臨時手当を出す場合などがこれに該当する。株主への配当金もこの法人税を支払った後の利益に応じて株主総会の決定を経て1株いくらと決めて持ち株数に応じて支払われる。

 

 まだ入社して間もない私や派遣社員の浜中、パートの鳥谷や検査パートの人たちには会社の好意で寸志と言う名目で少しだけもらうことができた。私はまさか少しでももらえるとは思わなかったのでお礼を言って受け取った。後日社長にもお礼を言うことになる。

 

 この頃慢性腰痛に悩まされている専務が首の方が危ないと言われて夏に2週間ほど入院することが決まっていた。業務の指示などは携帯電話やメールでできるので問題はないが不安になる。その間本社の責任者は婆須が担当することになった。

 

 

 婆須は戦前生まれで体育会系の社長にも厳しいことをかなり言われていたので、社員に対してもそのストレスの発散もあるのかかなり厳しい口調でものを言う。陰口に至ってはたたき放題。これはこの会社で事務社員がなかなか定着しない理由の1つになっていた。

 

 

 詳しい理由は分からないが前年に本社でも長くいて婆須の後継になりそうな人が2人とも退社して混乱の最中だった。仕事は技術で盗んで覚えろというタイプでアスペの人にはもっとも相性が悪い上司になる。まだアスペであることを知らない私は少しずつだが確実に追い詰められていくことになった。

 

 それでなくても女性ばかりの職場で人間関係がややこしいのに私のアスペの三組みの障害(社会性、コミュニケーション、想像力の欠如)がこの職場でこのあと顕著に現れることになります。

 

 

 話はまだまだ続きます。