再就職後春の話が続きます。

 

 5月の連休が明けると本格的に業務スタートになる。

 

 朝は毎日8時半に出勤してお茶を沸かしたり窓を拭いたりしながら事務所内やみんなが嫌がるトイレの掃除も私は進んでやるように心がけていた(←家ではそんなに掃除はしない)。正式な業務は9時開始である。

 

 私はとりあえずは浜中と一緒に仕入の伝票整理と支払の業務を一緒に担当することになっていた。秋には浜中の契約が切れるのでそれまでに業務の流れを1通り一緒に担当することになった。

 

 一言で仕入の業務と言ってもそんなに単純ではなかった。各外注先ごとに伝票を集めて工程票と言う営業が書いた伝票と照合してマーカーでそれぞれの伝票にチェックを入れる。原則として売上が上がったものだけを支払うことになっていたが、先に仕入が必要なケースもあるので、それは事前に社長と専務の決済をもらった先行支払の伝票を切ってそれと照合するシステムになっている。この会社では社長の決裁をもらわないと支払えない仕組みになっているので翌月20日までに余裕を持って完成させなければいけない。

 

 それを外注先ごとに伝票をまとめてオフコンのデータ(各営業所の事務が入力する)と照合して請求書の合計額と一致するかどうか確認する。この会社は当時20日締めだったので入力漏れがあったり21日以降のものを入力していると違算が出る。違算が出た分については各営業所に確認して請求とオフコンのデータを一致させる。請求する側が間違えていることもあるのでその場合は支払額変更の通知をすることになる。

 

 このオフコンはパソコンと少し取り扱いが異なり、慣れるまでに時間がかかる。私が定着しないと浜中も困るのでマニュアルを見ながら一通りの作業を覚えることになった。売りと仕入が両方ある会社も複数あるのでこの場合は売掛金と買掛金を相殺して差額を支払又は回収することになる(例外あり)。これは売り担当の鳥谷からデータをもらって入力した上で鳥谷に返すようになっていた。

 

 このような作業が平均して毎月50~60社くらいデータがあるので支払い条件に合わせて現金なのか手形なのか分かるように一覧表を作成していく。原則5万円以上は120日の手形だが例外も多くある。

 

 オフコンはオンラインでつながっているので締め切りをするときには使わないように各営業所に連絡をしなければいけない。営業所の事務担当者との連携も必要になる。うっかり作業の手順を誤るとそのコンピューターの管理をしている会社に連絡して復旧しなければいけなくなる。私は最初は慣れないのでコンピュータを止めてしまい、復旧に追われることが何度かあった。

 

 データが確定したら請求書と支払額一覧を婆須に点検してもらい、支払の準備に移る。現金のところは振込伝票を作成し、手形のところはチェックライターで金額の入力を行う。手形や小切手の銀行印は奥様に点検してもらい押してもらうことになっていた。

 

 手形には支払額に応じて印紙を貼る必要があるので事前に郵便局で購入する。現金の出納は全て婆須がやっていたので事前にお願いしなければいけない。中には集金に来るところもあるので間違えないようにしなければいけない。

 

 振込伝票は支払日の2営業日前までに銀行に出す。銀行の比較的若い営業担当者が週3回やってくるので締切日に合わせて小切手と一緒に渡す。手形は支払日に集金に来るところを除いて郵便で送る。この現金も事前に婆須に伝えて出してもらう。

 

 婆須はとにかく口が悪い。社長の信頼は厚いが事務には厳しい。後継者がなかなか育たないのはどうやら気に入らない事務には容赦なく罵声を浴びせることが原因の1つにあることが何となく分かった。社長に見てもらう書類ボックスも婆須専用のものがあり、浜中がそこに郵便物などを入れようものなら、

 

「ここは私の社長への連絡専用だから入れないでくれ」

 

と強い口調で言われていた。

 

 各種経費(電話、電気、コピー、ガソリンなど)のデータ作成は当面浜中がやることになっていた。これにはチェック印の欄があり、婆須は少しでも間違いがあると容赦なく罵声を浴びせる。浜中は次第にチェックを私に頼むようになった。

 

 社長はバリバリの体育会系なのでベテランの婆須にも不手際があると厳しく追及する。それに慣れていたのか事務にも厳しくしていたようだ。本社事務も長くやっていた人が訳があって退職してからはなかなか人が定着しない状態になっていたようだ。わざわざ今回男性を入れた背景には何とか高齢の婆須の後継を確保したいという経営陣の狙いがあったようだ。

 

 私には各営業の実績報告書を作成する担当が回ってきた。これを全部点検した上で一覧表にして社長に提出しなければいけない。一覧表には前月残、当月受注、当月納入、当月残の数字が各営業担当ごとに記載されている。過去の一覧を私に見せてこれの流れがどうなるか婆須に聞かれたので、

 

「前月残+当月受注-当月納入=当月残になります」

 

と言うと婆須も正しいとうなずいた。これは社長の指示で納入先の受領書があることを確認しなければいけないことになっていた。これはカラ受注や納入ミスを防ぐ目的がある。

 

 その他文書の作成など総務的な仕事もあります。これが概ねの1ヶ月の業務の流れで浜中も私が慣れるかどうか不安になっていたようですが、契約が切れるまでの辛抱と割り切って徐々に業務を私にシフトしていくようになります。浜中も婆須にかなり厳しく言われて体調を崩していたようで休む日も多くなっていました。浜中と鳥谷の関係は比較的良好だったようです。私は鳥谷が創業家の親戚だということをまだ知らないので話についていけないことがしばしばありました。

 

 

 話はまだまだ続きます。