「茄子のことはあやまります。 そちらの男性が渡してきたので受け取って良いものだと思ったのです。

でも いきなり妙だとか言われても困ります。 そちらのほうこそ そんな身なりでおかしいではないですか」


すると 後ろに隠れるようにしていた百姓が


「殿さまに向かって無礼だろう。 あんた何様のつもりだ。」


「そのほう、 自分の身なりを棚にあげて よくわれらの身なりを愚弄するものだのう…。

なおさら 妙な奴だ。

だが このワシに そのような口をきくということは よほど肝の座った男らしい。

どうもその点もワシと同じらしい。」


そういうと その主人は 笠をとり 顔を見せた。


僕は 思わず 「あっ」 と声をあげた。


「お主もそう思うか。 同じ顔のようじゃな。 似ているどころか 同じじゃ。 妙であろう。」


僕は 夢をみているんだろうか。 ひょっとしたらそうなのかもしれない。


昼寝をしていて 起きてみたらこの状況だったからだ。


しかし 風を感じ 日差しの温かさも感じる。 目に見える世界は 現実と変わらない


鮮やかな色彩に満ちた そのもので 夢であるとも思えない。


「では 僕の名前も言いますので あなたの名前と どうしてこのようなところで こんな格好をしているのかを 教えてください。」


「ほう 良いじゃろう。 その方の名前は?」


「僕の名前は 新田実です。 この裏山の反対側に住んでいます。 で あなたは?」


「ワシの名は 松平元康。 今川家の客分で 今日は 雪斎和尚の言いつけで 若様と この山の上にある寺に 三河からの土産物である 将軍地蔵を安置しにいくための競争のさなかじゃ。

動きやすいように 鷹狩の時に着用する 狩衣姿と言う訳じゃ。 競争じゃからのう。」


へぇ この人は 松平元康・・・。 と聞いて納得するはずがない。


その名前は 確か 江戸幕府を開いた徳川家康の 若いころの名前ではないか。


自分自身の顔と まったく同じであり なおかつ 昔の人の名前を名乗る。


これは 奇天烈としか 言いようがない。


そうだ 夢だろう。 そう思った時


急に電話の着信音がなった。


その場にいた 三人が 同時に ビクッとした。