父親が香住から届いたと言って、蟹を家へ持って来てくれた。新鮮な蟹を囲んでの食卓。

蟹は確かにおいしい。しかしながら、みな無口だ。なぜならば、蟹の身をほじくるのに、精一杯だからだ。蟹の脚をぽきんと折ったり、爪でみをほじくったり、そこには本来あるはずの家族円満な食卓の会話は皆無だ。
この状態を世の中では、‘’沈黙の蟹隊‘’というらしい。

せいぜい、「蟹の身、うまくとれたよ」とか「味噌をつけたら、うまいよね」程度の会話。

透明感を感じる蟹の晩ごはん。
深みがあって、甘味のある恋の味。
ういういしい赤色の味。

恋する乙女のようにスキ(かにすき・好き)でも、焼いて(妬いて)も真っ赤になる。