論語漫歩989 『星の王子さま』 「野ばら」145  「名案」   | キテレツ諸子百家〜論語と孔子と、ときどき墨子〜

キテレツ諸子百家〜論語と孔子と、ときどき墨子〜

孔子、墨子をはじめ諸子百家について徒然なるままに語らせていただきます。

 前回我々は、ゲーテが、自分の変装の姿の余りの無様さに、すっかり絶望し、ゼーゼンハイム村を訪問した翌日早朝、牧師邸から脱走するところまで見た。

 今回は、その続きである。

 

    もう安心と思えるようになって、私は馬の歩調をゆるめたが、同時に今になって、遠ざかって行くのがたまらなくいやなのがはっきり感じられた。しかし、私は自分の運命に身を委ねて、そうして極めて落ち着いて昨晩の散歩を心に描き、また遠からず彼女に再会したい希望をひそかに抱いたのであった。ところが、この平静な心持はまもなく焦燥に変わった。それで私は早速町へ馬を走らせて着物を着更え、かつ良い、元気な馬を借りることに決心した。そうすれば、多分とにかく食事前に、と興奮のあまり妄想するのだが、そうでなくとも、多分デザートのときに戻って行って詫びをすることができるからであった。

    この計画を実行するために馬に拍車を当てようとしたその刹那、また他(ほか)の、これは非常にいいと思われる考えが、私の頭に閃いた。

    昨日、宿屋で(馬を預けようとした時)、大そうさっぱりした身なりをしている宿の息子を見かけたのだったが、彼は今日も朝早く、農園の手入れをしながら庭から私に挨拶をした。彼は私と同じ身体つきだったので、私はちらと自分のことを振りかえらせられたことであった。思いつくと同時に、馬が頭を回らしたと思う間もなく、私は馬を厩に入れてあの若者に、ゼーゼンハイムで一寸悪戯(いたずら)をやる計画だから君の着物を貸してくれないか、と申し入れた。彼は申し出に喜んで応じてくれた。私たちは着物を取りかえて、私はなかなか綺麗な姿になった。