前回我々は、キルケゴールのもう一つの代表作『死に至る病』の意味について考えてみた。
今回は、再び『あれか、これか』に戻ることにしよう。
我々は、前々回、キルケゴールの提示した
「あれか、これか」
の図式が、『人魚姫』にもあるのを見た。すなわち次の図式である。
人魚姫の祖母 美的享楽の生活
人魚姫 宗教的実存
キルケゴールは、1834年(21歳の頃)、一時期、毎日のように、街を歩き回り、劇場に姿を現し、カフェに出入りし、多額の借金をして、娼家に出入りする、「放蕩三昧」の
「美的生活」
を送っていた。
しかし、これはあくまで一時期のことであって、彼の全生涯は
「神への道」
を求める、血みどろの「求道者の生活」であり、「宗教的実存」を求める日々であった。
そして、晩年、彼は
「真のキリスト者は 一人もいない」
と、全キリスト教世界を批判し、命を賭して戦い、その戦いの最中、1855年10月2日、
路上で倒れ、11月11日、病院のベッドの上で息を引き取ったのである。