前回我々は、我が国に、『星の王子さま』を紹介してくれた大恩人、石井桃子氏と内藤濯先生に触れた。
今回も、『星の王子とわたし』文春文庫1976年内藤濯P3「はしがき」の続きである。
サン・テグジュペリは、20歳の頃から、航空に宿命的な情熱を傾け始めた異常人だった。したがって、肉体を底の底までゆさぶった経験といえば、何度とも数知れぬ搭乗機の不時着だった。見はてのつかぬほどまで拡がっている砂漠に向かっての激突だった。
したがって「星の王子さま」は、ただの作家の作ではない。航空士といたいけな王子とが、一週間そこそこ、人間の大地を遍歴する記録ではあっても、つまるところは、人心の純真さを失わぬおとなの眼に映じた社会批判の書である。
『星の王子さま』は、文字通り、ニーチェの言う
「血で書かれた書物」
であったのである。サン・テグジュペリは、何度も何度も、「死の淵」を潜っている。
23歳 墜落事故 重傷
27歳 飛行機故障 サハラ砂漠に不時着
33歳 サン・ラファエル湾に墜落
34歳 モーター故障 河口に着水
35歳 リビヤ砂漠の砂丘に激突
38歳 離陸失敗 重傷 数日間 人事不省
44歳 偵察飛行 帰らぬ人となる