劉慈欣のSF『三体』を読んだときに知ることになった「三体問題」、その問題を解こうとする現代科学者たちによる共著で、この超難問を現代の一般読者にも理解できるように書かれた一冊。しかし、正直に言って読んでみてその奥深さが理解できたとは言えないが、今まさに解き明かされつつある問題であることはよくわかった。SF小説でその名を知られるようになった天体物理学の難問「三体問題」は、過去から現代までの科学者たちにとっては大きな問題であり続けているという。ピタゴラス、ニュートン、ポアンカレ、アインシュタインなどという、名だたる歴史上の科学者たちを悩ませ魅了してきた宇宙の謎と、その解明を目指した人類の歩みを解説した科学ドキュメントでもある。

 

「三体」で描かれたのは三つの太陽に支配される世界であり、その世界の未来は太陽が三つあり不安定なため文明が発達する暇もなく寒冷と灼熱が交互に訪れる。まさに予測不可能で、中国の古代のように、天の法則が人知を超えている。三体のストーリーでは「三体」ゲームが読者に提示される。どのようにしたらこうした環境でも文明は発生して発達できるのか、そしてその文明が発達したとき、その太陽系以外の文明を探り当てて移住しようとする。その文明に信号を送ってしまうことになる地球上の科学者、そしてその結果として地球は地球外文明と初めての接触を行うことになる。敵対的なのかどうなのかがわからないような思うにまかせない反応であり、主人公は葛藤する。こうした小説のなかで作者には三体問題以外にも豊富な宇宙物理学の知識が背景にあることが推し量れる。

 

本書ではまず物理学の歴史が紹介され、そうした中における三体問題の位置づけが示される。数学の歴史における解決不能とされてきた問題が示される。円積問題、立方体倍積問題、角の三分割問題である。円積とは任意の半径を持つ円の面積を求めよというもので、円周率が求められることで解法が分かることになるが、その円周率をどのように求めるのかというもの。立方体体積問題は元の立方体の体積の二倍になる立方体の一辺の長さを求めるもので2の三乗根を求めることになる。そして角度を測り、その三等分を求めるときにコンパスと定規だけを使って行うというもの。三体問題もこうした解決が難しいとされてきた問題の一つ。太陽、地球、月のような三つの天体の運動を扱う。皆既日食を見て経験した人たちは感動して、その仕組みを考える。そして次に起きる日食を予言できた学者は大いに尊敬されることになる。これが最初の三体問題となる。

 

この三体問題を現代科学の形で定義したのがニュートン。万有引力の法則の下で互いに影響を及ぼしあう三つの質点の相対的な運動を特定せよ、という問題となる。当時から多くの俊英たち、科学者たちが挑んできたが一般的な条件の場合に許容できる解を見出すことができていない。本書の著者の一人、ジョアンナ・アノソヴァとヴィクトル・オルソフは質量が等しい三体が8の字の安定軌道を持てることを発見し、その後コンピュータを利用してその軌道を周期解として正しいことを証明した。日食問題はそうした解の一つであり、太陽系という惑星系が安定して存在し続けていることが、三体問題にも解があることを実際に示していることになる。

 

本書では、ニュートンからアインシュタインにいたる万有引力の運動法則から一般相対性理論と三体問題の関係を示し、太陽系を訪れる彗星の動きと太陽と各惑星の関係を三体問題とすること、銀河系における恒星やブラックホールと三体問題を紹介する。標準的な三体問題では引力の大きさは質点からの距離の二乗に比例して弱まるというニュートンの重力法則が用いられるが、実際の天体では質量をもつ天体のそばの空間が歪められるため、高い精度が求められる場合には一般相対性理論を用いる。現代ではこうした理論を用いながら最新の天体観測結果から、銀河系やその他の銀河に存在するブラックホールによる三体問題を解こうとしている。実際に現在観測できるブラックホールの三体問題が存在するということは、宇宙の中では頻繁に三体問題が生じているということの証左でもある。数多く見つかり始めているクエーサーは「準恒星状天体」と称され光度が短時間で頻繁に変化する電波星であり、その原因が三体問題であるケースがある。こうした天体観測と理論研究から現代も三体問題は天体物理学者の研究対象となっている。本書内容は以上。