「部下に自分と同じ視点で物事を見ることを強要するのは上司の仕事ではない。もし部下が上司である自分と同じ視点で問題意識を持っているのであれば、上司である責務を果たしていないか、上司が必要ないかのいずれかである。」
なんて言葉をいつだったか、どこだったかで目にしたことがあるが、正にこれは組織をマネジメントしていく上で示唆に富んだ言葉だと思う。
一定の組織を率いるようになり、様々なメンバーにインタビューをすると分かることだが、実に個々人の視点というのは多様である。況や「何が問題か?」という問いに対する答えは、①何を目的として働いているか?②どのような立場にあるか?③何を重視して仕事をしているか?によって大きく異なる。実際に周囲の身近な人たち三人に聞けば、重なる部分はあるものの三通りの現状に対する解釈が存在する。
認識のバラつき、といえば聞こえは悪いがチームとして仕事を進める上で価値観までもが同一である必要はない。むしろ様々な立場、様々な価値観、様々な視点から現状に対する認識が存在し、それらを共有することを通して、自分達全員がこだわるべき価値や現状を打破する解決策、変革へ向けた着想、つまり新たなチャンスが創出される。多様性こそが、組織を推進しうる。
組織として提供していきたい価値や存在意義(ミッション)、目指すべき目標や到達に向けた戦略、そして、メンバーそれぞれの役割。勿論のことながら、これらの組織が組織たりうる最低限の情報については認識は共有されているべきだ。これらの認識がブレていたのでは組織が組織として成り立たない(単なる集団と化す)。ただあくまでこれらの認識の共有は「最低限の軸」に留めるべきで、あくまで一定の多様性は担保(許容)すべきだ。理由は様々であるが、その最たるものは下記の三点だろう。
1.多様性は、新たな価値やチャンスを生み出す
2.多様性は、組織の外部変化への対応力を高める
3.多様性は、組織に参加する個々人の可能性を引き出す(働く個人にとって希望が持てる)
特に全体的に伸張している市場環境に身を置いていない組織(つまり日本国内の組織であれば殆どがあてはまる)にとっては、毎日は変化との遭遇の連続であり、これらの多様性がもたらす価値は組織の継続的な成長と個々人の価値ある未来を実現するために不可欠である。
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さはさりとて多様性もただ担保すればよいというわけではない。多様性に富んだ組織をマネジメントする上で、特にそのリーダーには一定のマネジメントスキルが求められる。
1.対話の活性化
ともすると多様な人材がいることは対話を妨げる。「言っても仕方が無い(何も変わらない)」という認識がひろがれば、対話も生まれない。対話が生まれなければ、結局の価値ある多様性も単なるバラバラな意見をもった個人商店の集まりでしかなくなる。リーダーとメンバー間は勿論のこと、メンバー同士の対話がなされる土壌作りが求められる
2.共創意識の浸透
対話は一方で対立を生みやすい。異なる意見を交わすのだから当然である。そこで求められるのが共創意識であり、違なる存在を受容することだ。冒頭に記載した通り、「お互いが異なること」の価値と必要性を理解し、対話に参加し、新しい解釈や価値観を生み出すことだ。そのためにはまずはリーダー自身が受容と承認の意識でもってメンバーの言葉に耳を傾ける必要がある。
3.信念に基づいた意思決定
多様な意見に耳を傾けると、現状に対する「正解」などというものは存在しないということが分かる。とはいうものの、組織は誰かが意思決定をしなければ変わらないし、動かない。そして意思決定をするのはリーダー以外に誰もいない。リーダー自らが多様な意見を踏まえ、自分自身の信念でもって何を重視するかを見定め、意思決定を下す。そして、なぜそう決めたのか?を話し、説明責任を果たす必要がある。
4.個々人の強みにフォーカスする
多様な人材が集まるということは、当然ながら多様な強みをもった人材が集まるということだ。その中で一律に「◯◯が出来れば優秀」「◯◯を目指すべき」と特定の強みにフォーカスした人材育成を行うことは(これまでも何回も書いてきた通り)現場に徒労感を与え、優秀な人材の流出を生むだけである。
むしろ個々人の多様な強みに着目し、強みに合わせた仕事をデザインすることだ。但しここで誤解をしてはいけないのは、個々人の強みを活かすといっても、いきなり全員に機会が平等になるように仕事をデザインしようとしないことだ。残念ながらはじめから全員の強みを引き出し切ることは現実問題として到底不可能だ。一見えこひいきに見えるような大胆な仕事のデザインを特定の人材に行い、成果を上げる。この成功体験でもって「強みを活かし成果を上げるマネジメント」の有用性を示す。その上で徐々により多くの人の強みを活かすマネジメントを施していくべきだ。
5.最低限の軸を何回も何回も語る
繰り返しになるが、組織を構成する最低限の軸が存在する。ミッション・存在意義、ビジョン・目標、価値・スタンス、それらを実現していく戦略などがそれにあたる。これらの最低限の軸は多様な価値観をもつ人間の集まりであるからこそ、希薄化しやすい。だからこそリーダーは自分達の組織はなぜ存在しているのか?我々はどのような未来を目指しているのか?を語り続けなければならない。
6.自分にリーダーとしての「べき論」を押し付けない
ここであげられたリーダーとしてのあり方は最低限の軸である。一方で世の中にはこの他にも様々なリーダーとしてのあるべき論が存在する。それらのあるべき論にあまり耳を傾けすぎないことだ。リーダーシップとは自分らしさを突き詰めて徹底したときに最大限発揮される。そのためリーダーシップの発揮の仕方に正解などは存在しない。少なくとも世の中にあふれるリーダーシップの本に書かれていることを自分にあてはめても、自分を苦しめるだけだ。自分の強みに着目し、自分が実現しうる最大限に素晴らしいリーダーのあり方を探求していくことこそが、多様な人材をマネジメントし成果をあげることに繋がる。