「合理性だけでは人材は育成できない」
「良い人材は一目見れば分かる。その基準を可視化することはできない」
人事マネジメントもしくは人材開発の業界(それは企業内の人事部だったり我々のような人材関連のコンサルタント、と呼ばれる人がいる業界のことを指す)というのは、こういった妙な常識が未だにまかり通る稀有な業界である。また、人材関連の本は実に数多くのものが出版されているが、ともするとコンサルタントの経験則だったり、観念的・概念的な理論をベースにした有象無象の考え方が数多く存在するこれまた稀有な業界でもある。
一方で現実的には様々な企業で「人材開発への投資に対するリターンはどの程度得られているのか?」が問われはじめている。よくそんな時に人材開発業界の人間が口にすることが「景気が悪くなると真っ先に予算が削られるのが人材開発(例えば研修)の予算。なかなか投資対効果が数字で表せないからね。。。」といった愚痴だったりするが、実はそれは単に方法論を知らないだけである。そして世の中には出来る限り定量的に、科学的に人材解発に取り組んでいる企業が存在する。
そういった人材開発担当者の妙な「常識」に対して問題提議し、科学的・合理的に人事を捉えようとしているのが本書。
KGビジネスブックス 利益を生みだす人事改革 7つの法則 人事科学の新たなグローバルスタンダード/鈴木 智之

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この本の主旨は採用・人材育成・人事評価など様々な人事施策に関して、徹底的に「何が無駄なのか?」を科学的・合理的な分析を行い、企業経営の本質(価値提供の最大化と利益の最大化)の観点から利益を生み出す人事施策とは何か?を考察している。人材開発の予算を預かる人間として持つべき最低限持つべき合理性とは何か?を理解する上では非常に良著だと思う。
以下は本書を読んでの自分の気づきのまとめ。
1.採用基準の策定について
無駄な主観的な採用基準ではなく、業績創出可能性と相関する基準を元に評価すべき。そして、相関の高い基準の中でも、単純線形回帰分析により業績向上へのインパクトに応じて得点配分を求めるべき。
そもそもそういった人事データを蓄積してこなかったのであれば、まずはパフォーマンスを分解し、基準を作り、得点化することから始める必要がある。
2.次世代リーダーの選抜
リーダーシップの発揮の要因を行動レベルではなく、人生観・労働観レベルで分析し、それらを見極める基準を作り選抜する。
3.効果的な研修を実施する
ビジネスニーズ(経営戦略)と研修をリンクさせる。(ビジネスニーズアセスメント)
業績に相関の高い研修以外は捨てる。回帰分析を行い、各能力のテスト結果と業績データとの相関をデータで分析する。
研修から生まれるカネを計測し、予測する。回帰直線上から能力を何ポイント高める(テストの点数を高める)ことで、業績上昇効果があるのか?そして、相関係数からどの程度の確率で業績上昇が起こるのか?を予測する。
その他にも実験計画法(研修受講者と受講していない人とに分類し、その効果の差について統計的有意差を検定)や因果経路モデリング手法を使用して効果を予測することは可能。
4.メンタル問題を解決する
社員意識調査の目的変数群(メンタル問題として表れる現象)と説明変数群とに区分して設問を設計する。その上で説明変数係の各設問と目的変数群合計との相関係数を回帰分析で導き出す。そうすることで、真の問題となる説明変数(相関係数の高い項目)が明らかになり、効果的な施策が可能。また、層別に分けて測定する場合はt検定を行い、有意差の検定をおこない、有意水準を割り出し、本当に問題となるものか誤差の範囲かを確かめる。
5.より不満の少ない人事制度を作る。
基本的には採用基準と考え方は同じ。業績評価と能力評価のうち、能力評価に注意する。主観的な能力評価基準ではなく、客観的に業績を上げることに相関する能力を評価することが重要。コンピテンシーと業績の相関を検討し、相関が低いものは排除し、相関が高いものの中でも業績にインパクトのある項目のみ残すべき。
6.経営理念を浸透させる。
経営理念の浸透度が業績を左右することを数字で示す。経営者や中核メンバーの価値観とのペアリングと業績の
相関を見る。可視化することで、適切な対応(採用時点での見極め、コミュニケーション)が可能になる。
「科学的・合理的」に人事を捉えることができることと人事の問題を解決できることとは別物であり、これだけを抑えていても単に理想論者の域を超えることはできないが、人材業界の妙な常識に捉われ枠にはまりきってしまうよりはよほどましだろう。
