中国の言葉「用人不疑」 人に仕事を任せるなら疑わないこと。-中国の日系企業はどうでしょうか? | 楽逍遥の友@鎌倉・湘南

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プロフィールのわたしの画像は、中国人の親友が作ってくれた“楽逍遥”の印章。カバー画像はネパールでヘリに乗ったときに撮影。

1.「用人不疑」という言葉
私は、以前上海の日系企業で働いていて、中国人の採用で面接もした。2006年早春のある面接のときのこと、面接相手の人に日系企業の問題で感じることは何ですか?」と聞いたら、その人に、「中国に『用人不疑』という言葉があります。
日系企業の多くは、中国人に仕事を任せているようでも、疑いながらであることが多いです。」とおっしゃった。

在中国の日系企業で働く人間として、私はこの言葉の内容が非常に重要に思え、気になって、会社の中国人に言葉の意味を聞いた。二人からの返事はほぼ同じだった。


「それは『用人不疑、疑人不用』という中国人ならよく知っている言葉で、二つの四字から

成る。
 『用人不疑』⇒疑っていてはその人は使えない。人に仕事を任せるなら、疑わないこと。
 『疑人不用』⇒疑うような人だった用いてはいけない。
「用人不疑」は「任人不疑」という言い方をする人もいるようだ。

2.言葉のルーツ探し-郭のこと

私は次に、これは誰が言った言葉か、そのルーツを知りたいと思った。


私の当時の中国語の先生(女性)にこの成語のことを話したら、ネットで調べてくれ、「三国志」の魏書に、郭が『用人無疑、唯才所宜』と言ったと書かれている」と教えてくれた。そこでまた会社の中国人にその意味を聞いた。“人を用いるときは疑っていてはだめだ。その人の才能を引き出すことこそが大事だ。”ということだった。
今度は郭のことが知りたくなり、自分でネットで調べた。
は曹操に軍師として仕え、各方面で功績を挙げ、天才軍略家として名を馳せた。最後は風土病を患い38歳で病死。彼がもっと生きていれば、三国志の内容も変わっていただろうとも言われている(曹操は、郭さえいれば赤壁の敗戦はなかった、と嘆いたという)。
若いころは、自分の名を売り歩くでもなく、俗世との交わりを絶っていた。一方、酒と女と博打に溺れるなど品行方正な人物とは言い難かったらしい。日本ではマンガ三国志の影響もあって、破滅型天才軍師として若い人に人気がある。
日本に帰国したとき、「正史三国志英傑伝・魏書」の日本語訳を購入。そこに郭のことが書いてあった。
曹操が、「袁昭に勝つためにどうしたらよいか」郭に意見を求めた。
は、袁昭と曹操を対比しながら、曹操が必ず勝利するはずと考える十の要因(曹操の勝因、袁昭の敗因)を挙げた。この十の勝因・敗因は有名な話なので、三国志ファンの日本人ならご存じだろう。その十の要因のうちの“第四「度量の差」”が『用人無疑、唯才所宜』の出所。
“袁紹は、外面は寛大をよそおいながら、登用した人物を信頼しきれず、信任しているのは一族郎党ばかり。曹操はしっかり人物を見抜き、いったん登用したら少しも疑わず、才能があれば出身を問わない。”
こうして言葉の出所を辿ると、郭の『用人無疑』も、勝敗の多くの要因の一つとして言われたこと、人の能力を見抜く力があってこその「無疑」であること、一方で厳しさとかけじめの徹底があってこそ「無疑」が生きること、などがよく分かった。
また、三国志を読むと、他の何人かの武将も「用人不疑」に近い言葉を言っている。あの時代、人間を信用するということが、いかに難しかったかということだろう。今日のグローバル社会の中で、異なった国の人間が集まった組織にも通ずるものがあると思った。

3.言葉のルーツ探し⇒この言葉そのものを言ったのは李世民(太宗)
2006年5月の労働節休暇に四川省を旅行した。そのとき、成都空港の書店で、偶然、叶舟編著「中国歴代名家知恵」(中国長安出版社)という本を見つけた。三巻のうちの一冊「帝王的知恵」に『用人不疑、疑人不用』が唐の二代目皇帝李世民(太宗)の言葉として載っていた。
李世民は、中国史上の名君といわれている人。中国語なので正確には読めないが、この人は人の能力をよく見抜きそれを信じて、人を適切に使うことに巧みだったようだ。

 

中国には、人の生き方(個人として、集団の中で)、組織の構築と運営、いろいろな戦略・戦術、などについて、数千年の間に蓄積されてきたさまざまな知恵を短い言葉にしたものがある。とくに四字で表現した熟語(中国では「成語」という)が多く、わたしが居た組織・団体の中の議論でも、中国人なら知っている四字成語を使って説明がされることがあった。日本人は聞いたことがないものが多いが、ずばりとポイントを突いていて、私はなるほどと思うことが多かった。私は、いろんな成語を知ろうと努めてきた。それが中国と中国人を理解する上でも、自分の生き方・生活の上でも参考になると思うから。