今日はトルコからひとつ、超変化球な音楽をと言いたいところだが、実はかなり地力の強い伝統音楽だったりして。





トルコの北部に「ホロン」という民族舞踊があるのだが、この音楽があまりにも驚異的な中毒性と攻撃力を持っている。とにかくアジア辺境の島国の人間として、初聴のインパクトは凄まじいものがあり、ミュージシャンとしてはそのグルーヴの先を解明したくもあり、その為にもこのアルバムは購入するしかなかった。

現地のホロン歌手エミネ・ジョメルトのアルバム「Horon」。なんとも、そのまんまやないけ。







このアルバムで鳴るホロンのリズムは、2ビートものと5拍子ものの2つに大別される。

どちらもシンプルにバスドラム系の打楽器ダウルひとつで構成されているが、シンプル故に覆しようのないそのビートこそがかなりのキワモノ。それが延々と鳴り続ける為に、聴き手としては身体を預けてノリノリで揺られるほかなく、しかもそれが曲によっては10分とか12分とか続くもんだから、アルバムどころか1曲聴き終わるだけでももうクタクタ。


そして、その試練性を決定的なものとしているのが、ものの45分程度のエミネの歌パートが終わって以降、延々と鳴り続けるケマンチェとかいう弦楽器のソロパートである。

そもそも曲の出だしからビートと一緒にいきなり鳴り出しヴァースを担うその存在感は、ブルガリアやガリシア音楽に通じる部分を感じさせるものであると同時に、そのキワモノなビートとの化学反応によってより不安定さを増し、一気に聴き手をトランス地獄の渦に引き摺り込むようだ。それが、楽曲の後半延々と続くのだから、恐ろしいものである。カルチャーショックで置いてきぼりを喰らうような感じと言えるか。


それにしても、カルチャーショックの範囲内で言えば正直言ってエミネの歌もかなり個性的ではあるのだが

それでも2曲、3曲と聴いていくと、何故かこの歌に相当の安心感を抱いてしまうのだから不思議なものである。

とても元気なおばちゃん、といった感じの歌声(笑)。伝統音楽として聴くぶんには、とても渋みのある素晴らしい個性を持った歌声であるように思う。最もこういった音楽をリードする歌は、それなりの明るさを秘めているべきであるとは思うのだが、エミネの場合は同時にホロンのトランスに見合う魅惑的な声質を備えている気がする。


一時はクラブ界隈でも人気だったらしいホロン(とは聞いたものの、具体的にどの層に受けとるんかは知らんけどやなw)、その辺りのリスナーを狙ってか、強力なビート感と、現地の生々しさを宿したミックスは、最早テクノ顔負け。

トルコはそもそも民族舞踊の聖地で、沢山の様式が存在し、リズムも様々。その中でも特に異質なリズムと中毒性を秘めたホロン。伝統そのものの重みを宿し、聴き手の耳や身体をあまりに大胆に揺さぶってくる、非常にパワーを秘めた音楽だ。

だからこそ、このアルバムはとにかく身体を揺らし、踊らせながら聴くべきだ。踊りながら聴こう!じゃないとこれ、ただ聴くだけって、相当疲れるよ!w






最後に、私が衝(笑)撃を受けた、男女大人数で踊り非常に統率の取れた素晴らしいホロンの動画をご紹介。

踊りとしてのホロンの最大の特徴とも言える、繊細かつダイナミックな身体の揺れ、体幹の維持力!それらが加速させる集団行動の創造性!

ダンスミュージックの深みにハマると、トルコの音楽は一層楽しく、謎が尽きない。

その謎を謎のままに思い切り浸ってみるのもまた、ひとつの醍醐味である。