制服に着替えて、朝ご飯を食べようとした時、インターホンが鳴って画面を見ると理佐が映っていて鍵を開けた。


「友梨奈、迎えに来たよ」


にっこりと微笑んで私を見る理佐に心臓が高鳴る。


「おはよう。理佐」

「中、入ってもいい?」

「うん」


部屋の中に通すとソファーに促して自分はキッチンに立った。


「理佐何か飲む?温かい物?」

「うん、温かい紅茶が良いな」

「分かった」


紅茶のティーパックの封を開けてマグカップに入れ、ポットのお湯を注ぐ。


「友梨奈、朝ご飯?」

「うん、あっつ!」

「友梨奈っ!?」


手元がブレて左手に熱湯がかかってしまい、慌てて理佐が飛んできて、マグカップを台に乗せ、私の手を見ると真っ赤な左手を冷水で冷やしてくれた。


「ごめん、私が急に声かけたからだよね...」

「大丈夫、理佐のせいじゃない。私がちゃんと見てなかっただけだから」


理佐と距離が近いことさえも恥ずかしくて、でも胸の高鳴りは嘘じゃなかった。


私、こんなにも理佐が大好きなんだって実感した。


「水ぶくれにならないと良いけど...」

「大丈夫だよ。このくらい」

「だめ。友梨奈、救急箱は?」

「ソファーの近くの棚にあるところに置いてある...」

「分かった。冷水でまだ冷やしててね?」


理佐は救急箱を取りに行って「友梨奈、こっち来て」と言われて蛇口の水を止め、水で濡らして絞ったタオルを左手に被せて理佐に近寄る。


「友梨奈、手見せて?」

「うん...」


被せていたタオルをテーブルに置いて理佐に手を優しく掴まれ、軟膏を塗ってもらい、ガーゼを当ててテープで固定され、包帯を巻かれた。


「ありがとう、理佐...」

「ありがとうじゃないの。私がごめんなの」


救急箱を片付けて理佐は眉を下げる。


「理佐、そんな顔しないで...」

「でも...」

「私なら大丈夫だから...ご飯食べちゃうね」

「私が食べさせてあげる」

「だ、大丈夫だから」


頬を紅潮させて首を振ると「だめ」と言われて理佐は私の箸と茶碗を持つ。


「友梨奈、はい、あーん」

「っ...」


恥ずかしくて目線を伏せて口を開けると理佐がご飯を口に入れる。


もぐもぐとよく噛んでごくんと飲み込むと今度はおかずを運ばれて食べる。


なんか私、雛鳥みたい...。


顔を赤くさせてぱくぱくと早めに食べ終えると理佐が空いたお皿を持ってシンクに持っていく。


「理佐っ、置いて、」

「だめ。包帯してるでしょ」

「...ありがとう」

「私が悪いからこれくらいやらせて」

「...うん。でも理佐は悪くないから」


洗い物を終えた理佐は私のところに来て抱きしめてきた。


「理佐...?」

「友梨奈の大事な手がまた...」

「大丈夫だよ。理佐...」


理佐がぎゅっと抱きしめてきたから私もそっと抱きつく。


あの出来事以来、私達の仲はぐんと狭まった。


でもまだ、恥ずかしい時もあるけど。


「あ、友梨奈、学校行く時間っ」

「急がなくちゃ」


理佐が身体を離して私を立ち上がらせると私はブレザーを着てスクールバッグを持ち、理佐もバッグを持って一緒に玄関へと向かった。


鍵を閉めて理佐は私の手を握って、私もきゅっと握り返す。


「友梨奈、もう右手痛くない...?」

「うん、痛くないよ」


そう。私の右手には深い傷がある。


あれから数日経った後、芽実から謝罪の手紙がきた。


私はあえて理佐には何も言わなかった。


理佐にとってはトラウマになっているんだと思う。


あの時の出来事を未だに夢で見るって言ってたから。


「...奈、友梨奈」

「っ、うん?何...?」

「どうしたの?ぼーっとして」

「っ、ううん、なんでもないよ」


小さくはにかんで理佐を見つめると理佐も微笑んで手を握り直す。


理佐と楽しく談笑して学校へ向かっていると校門前でぴっぴさんが手をぶんぶん振って出迎えていた。


「おっはよー!朝から熱いご夫婦!」

「愛佳声大きい!」

「...」


理佐も声が大きくて私は苦笑しながら手を引かれて校門前に着く。


「ぴっぴさん、おはようございます」

「てちー、だからぴっぴで呼んでって言ってんじゃんー」

「でも...ぴっぴさんって呼んだ方がしっくりくるから...」

「もー、だからー、」

「愛佳、良いじゃんぴっぴさんで。友梨奈を困らせないで」

「納得出来ない!理佐って呼んでんじゃん、てち」

「だって恋人だもん。ね?友梨奈」

「うん...」


校門前で恋人と言われて顔に火が出そうなくらい恥ずかしくて、じろじろと見つめる生徒達に理佐の手をぎゅっと握った。


それに気付いた理佐は「ほら、愛佳行くよ」と言ってそれでも納得しないぴっぴさんを押して校門をくぐって玄関口へと向かう。


校舎内に入ると理佐と手を離して一年生の下駄箱に行って靴を履き替えると、理佐とぴっぴさんは後でねーと言って三年生の教室に向かって手を振り、私は小さく微笑んで手を振り返して自分の教室に向かった。











ーーーーーー

授業が終わってお昼休憩になると、お弁当を忘れたことに気が付いて、仕方なく購買部で揉みくちゃになりながらもパンとりんごジュースをなんとか買って理佐とぴっぴさんの待つ図書室に行く。


屋上は理佐の為に行かない様にした。


私が退院して屋上でお弁当を食べに行った時、理佐はパニックを起こして震えてしまったから。


眼鏡を直して図書室の扉を開けると、もう既に理佐とぴっぴさんが待っていた。


他の生徒達は誰もいない。


「友梨奈、どこ行ってたの?」

「えっと...購買部に...」

「え?...あっ、友梨奈今日お弁当忘れた!」

「...うん」


自然と理佐の隣に座って長机にパンとりんごジュースを置いた。


すると、理佐は私のパンを取って代わりに理佐のお弁当が置かれる。


「理佐?」

「今日のお詫び。って言ってもお弁当交換したりしてるけど」

「気にしなくていいのに...」

「だーめ。ちゃんと食べなさい」

「...ありがとう、理佐」


微笑んで理佐を見つめると理佐も優しく微笑んでパンの袋を開ける。


バンダナで包まれたお弁当を開いて、パカッと開けると理佐の作ったオムライスで思わず理佐を見た。


「今日お弁当、交換しようと思ってたの」

「理佐...」


嬉しい気持ちを堪えてオムライスを眺める。


「ねぇー、私も居るんですけどー」


ぴっぴさんは呆れた様に私達のことを長机に肘を付いて見ていた。


「愛佳、居たの」

「居たよ!本当バカップル...」

「愛佳だってねるといる時バカップル丸出しじゃん」

「うっ...何も言い返せない...」


理佐はクスクス笑ってパンを食べ始める。


「理佐、いただきます」

「どうぞ」


私はにっこり微笑んで理佐の手作りオムライスを食べた。


「んっ、理佐、美味しい」

「良かった」


髪を撫でられて、その撫でる仕草が嬉しくて美味しい理佐の作ったオムライスをよく味わって食べる。


理佐のオムライス、大好きだなぁ。


なんて思いながらもぐもぐと口を動かす。


そんな理佐はパンを食べながら微笑んで私を見つめていた。


「友梨奈、可愛い」

「ん?、」


理佐を見た瞬間、唇にキスをされた。


私は頬を紅潮させ、目を逸らせてお弁当に視線を向け、食べ続けてオムライスを食べ終える。


蓋を閉じてバンダナで包むと理佐に「ごちそうさまでした」と言ってお弁当を返した。


「私もごちそうさまでした」


理佐もパンを食べ終え、お弁当を受け取ってお茶を飲む。


「理佐、なんでりんごジュース飲まないの?」

「だって友梨奈の大好きなりんごジュースだもん」


理佐はふふっと笑って私を見つめる。


理佐のその優しさに私はまた恋をする。


「理佐...ありがとう」

「いいの。ありがとうなんて言わなくても」


すると、ぴっぴさんの携帯が鳴って図書室から出て行った。


「友梨奈、こっち来て?」


りんごジュースを飲む私の手を取る。


「うん?」


椅子から立ち上がって奥の本棚に連れて行かれるとカーテンを閉めて唇にまたキスをされた。


私も理佐に抱きついて追いかける様にキスをする。


何度も何度もキスを繰り返す。


そしてゆっくりと唇を離すと額を合わせ、


「大好き、理佐」

「私も大好き、友梨奈」


二人して微笑んだ。


「友梨奈、左手大丈夫?」

「うん、痛くないよ」


ちゅっと私から理佐にキスをすると、


優しく笑う理佐の笑顔がそこにあった。

























END

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 gurinoieさん、遅くなってしまい申し訳ありません!気に入って頂けると嬉しいです。

お読み下さりありがとうございました。