今日から新しい私立欅学園高等学校に赴任してきてまずは校長室で校長先生と教頭先生に呼ばれて挨拶をした。


「いやぁ、お話は予々聞いていますよ。優秀な渡邉先生が日向坂高等学校を蹴ってまで我が校に来て頂けるなんて」

「いえいえ、とんでもないです。これから宜しくお願い致します」

「こちらこそ宜しくお願い致します」


校長先生はのほほんとした人で握手を求めてきたのでその手を握ると、生真面目そうな教頭先生とも挨拶を交わし、教頭先生にここでお待ち下さいと言われてソファーに礼儀正しく座って待つ。


しばらくしてから教頭先生に呼ばれ、鞄を持って立ち上がると校長室から出て全ての教員が立ってこちらを見ている視線を感じながら教頭先生のデスクの前に立たされた。


まずは教頭先生からの挨拶から始まり、挨拶を求められた。


「乃木坂高等学校から赴任してきました、渡邉理佐竣です。ご迷惑をおかけするかと思いますが、これから宜しくお願い致します」


すると教員二人を抜かして他の教員全員が頭を下げて「よろしくお願いします」と言われ、拍手をされて、俺も頭を下げると少し遅れて怠そうに軽く頭を下げたチャラい男と真面目だけど可愛くて綺麗な女性が俺を見て慌てて頭を下げた。


それに俺は微笑みながら見つめる。


「では、渡邉先生はこちらのデスクに」

「はい、ありがとうございます」


一列に並んだチャラい男と可愛い女性とデスクを一つ挟んでデスクに鞄を置く。


すると教頭先生が教員全員の顔を見て最後にその可愛い女性を見つめる。


「えー、では...平手先生」

「ぁ、はい」

「渡邉先生はしばらく平手先生の副担任として務めて頂きたいと思います」

「!?ぇ...はい...」


すると、チャラい男が「はーい」と手を挙げて、


「教頭ー、渡邉せんせーは俺の副担じゃだめですかー?」

「志田先生は、平手先生よりもしっかりとしていないので無理ですね」

「ちぇっ」

「そういうところです、志田先生」


教員数人がクスクスと笑っているのをチャラい男は面白くなさそうに頭を掻く。


「では、平手先生宜しくお願いします」

「はい...」


へぇ...平手さんっていうんだ。


で、チャラい男は、しだか。漢字分かんねぇけど。


「それでは皆さん今日も頑張って下さい」


校長先生の挨拶に可愛い女性を抜かして教員全員が「よろしくお願いします」と一礼してそれぞれの担当のクラスに向かう。


平手先生は困った様に俯いていて、近くに寄って声をかける。


「平手先生?」

「ぇ...あ、はい?」

「朝の朝礼終わりましたよ?」

「えっ、ぁ...ありがとうございます...」

「じゃあ、案内して下さい」


にっこり微笑んで平手先生を見つめるとすぐに目を逸らされてしまった。


今日初めて会ったのに、俺は一目惚れした。


とりあえず教材と印刷したテストを持って職員室を出る平手先生の後をついて行って、3年B組と書かれた札を見上げる。


扉開けて中に入り「おはようございます」と平手先生が言って、俺は呼ばれるまで廊下に立っていた。


「今日は新しい先生が私達の副担任として来ました。渡邉先生、どうぞ」


呼ばれて中に入ると、騒つく生徒達はそれぞれの反応をしていて、かっこいいだの、男かよー、と言う声が上がっていた。


「みんな静かにして下さい」


平手先生の一声でシーンとなり、


「渡邉先生、挨拶お願いします」


と、言われて生徒達を見つめる。


「乃木坂高等学校から赴任して来ました。渡邉理佐竣といいます。しばらく平手先生の副担任としてこれから頑張っていきますのでよろしくお願いします」


生徒達はまばらながらも拍手をしてくれて微笑んで頭を下げた。


「じゃあ、点呼をとります」


名前を順番に読み上げていき、平手先生の横で生徒達の顔を覚える為に一人一人見つめていく。


点呼が終わるとHRが始まり、平手先生が用意してくれた椅子に座って平手先生はデスクに持っていた物を置いて椅子に座った。














ーーーーーー

授業も無事終わり、お昼休憩のチャイムが鳴ると平手先生に購買部の場所を教えてもらい、サンドイッチと小さな紙パックの牛乳を買うと平手先生も同じ物を買い、職員室に戻るとチャラい男が椅子に座って待ち構えていた。


「平手ちゃん、待ってたよー」

「私は待ってないです」


平手先生の毒舌に俺は生徒達を相手にする平手先生とチャラい男との会話のギャップにクスクスと笑う。


それを見たチャラい男はムッとして椅子から立ち上がり、俺に近付く。


「渡邉先生だっけ?」

「はい」

「俺は志すに田んぼの田で志田って名前。よろしく」

「俺は難しい方の渡邉です、よろしくお願いします」


志田は手を差し出して握手を求めてきたので握手を交わすが力が込められて餓鬼だなぁ、なんて思いながら俺も力を込めて握った。


「いつまで握手してるんですか。お昼食べましょう?」

「だよねー平手ちゃん」


デレッと微笑むが志田は俺をキッと睨んで手を離し、俺は鼻で笑いながらサンドイッチを食べ始めた。


「あ、平手先生」

「はい...?」

「放課後、校舎を案内してもらえますか?」

「はい...良いですよ」

「ありがとうございます」


にっこり微笑むとまた目を逸らされた。


サンドイッチを食べながらチラッと平手先生を見つめる。


数えられるくらいしか付き合ってないけど、こんなに可愛い女性は初めてだった。


サンドイッチを食べ、横で志田が話しかけているのを軽くあしらう姿にもギャップをまた感じて小さく笑いながら俺もサンドイッチを食べる。


「ちゃん、おーい平手ちゃん」

「...え...?」

「どしたの?ぼーっとして」

「...ごめん、ちょっとね」

「なんかあった?」

「志田先生には関係ないことです」

「平手ちゃん、冷たい...」

「いつものことじゃないですか」

「ひどっ!」


がっくりと首を垂れる志田先生にまた俺はクスクスと笑う。


そんな俺に顔を上げてムスッとする志田はまた俺を睨んで牽制する。


「平手ちゃん、渡邉先生怖い〜」

「私は志田先生の方が怖いです」

「平手ちゃん...」


またがっくりする志田を放っておいた平手先生と視線が合い、優しい笑みを浮かべるとまたすぐに視線を外され、慌てて正面を見てサンドイッチを頬張る

平手先生にますます興味がわく。


可愛くて綺麗な女性だな。サバサバしてて、でも生徒達には優しくて、誠実で。


平手先生のことをもっと知りたいと思った。



















ーーーーーー

放課後になり、生徒達は部活に行ったり、そのまま帰る帰宅部だったり、個々に分かれるの窓から見つめていた。


「渡邉先生」

「あ、はい」

「あの...校舎、案内します...?」

「はい、よろしくお願いします」


平手先生に付いて行き、色々と教えてもらいながら校舎を案内してもらって教室へと戻る。


「分かりましたか...?」

「はい、とっても」

「平手先生」

「はい...?」

「平手先生の下の名前...教えて下さい」

「ぇ...?あ、はい...」


黒板に小さく平手先生は自分の名前を書いた。


友梨奈...名前まで可愛いな。


「あの...渡邉先生の名前も...教えて下さい...」


恥ずかしそうに俯く平手先生を微笑んで見つめ、チョークを持ったままの平手先生の手をとって自分の名前を書く。


「理佐竣、先生...」

「理佐竣で良いですよ、平手先生」


持っていた手を慌てて離して首を振る平手先生は俯いた。


「呼べないですっ...」

「じゃあー...二人の時に呼んで下さい」

「ぇ...?」

「...俺、平手先生にどうやら恋、しちゃったみたいです」

「っ、...恋...?」

「はい...一目惚れってやつです」

「...本気ですか...?今日初めて会ったのに...?」

「はい」

「っ」


平手先生は教室から逃げる様に出て行ってしまった。


告白は早すぎたか...。


頭を掻いて天井を見上げ、今日は帰ろうと職員室に戻ると平手先生はどうやら先に帰ってしまった様だ。


「あ、渡邉せんせー」


志田が鞄を持って帰ろうとした時に俺を呼び止めた。


「はい?」


志田は立ち上がって俺に近付いてきた。


「お前...平手ちゃんに何かしたら許さないからな」


周りの教員達に聞こえない様に小声で呟いてきたので微笑んで志田を見つめる。


「それは平手先生が決めることじゃないでしょうか?」

「テメェ生意気なんだよ...」


俺のネクタイを掴む志田にふっと笑った。


そしてその手を振り解く。


「てめぇもな...」


鼻で笑って睨む。


志田も睨んで自分のデスクに戻っていくと俺は教頭に「失礼します」と言って職員室を出た。















ーーーーーー

お風呂に入り、湯船に浸かって顔にお湯をかけた。


友梨奈、かぁ。


可愛くて綺麗で、俺の彼女にしたいという欲求が頭の中を巡る。


そう思いながら湯船から上がって浴室から出た。


身体を拭いて服に着替えるとドライヤーで髪を乾かし、寝室に行くとベッドの中に入って平手先生のことを考えながら眠りについた。













ーーーーーー

「おはようございます」


職員室に入ると自分のデスクに鞄を置いて、もう来ていた平手先生を見つめた。


「平手先生、おはようございます」

「っ、ぁ、おはようございます...」


恥ずかしそうに俺を見て顔が赤いのは気のせいだろうか。


人見知りなのは初めて会った時から分かった。


「平手先生、テスト採点ですか?」

「はい...」

「俺も手伝いますよ」

「あ、ありがとうございます...」


半分もらってデスクに座ると赤いペンで採点をしていく。


その姿を平手先生が見つめているのを知らずに。


「おざまーす」


志田が職員室に入って来て、俺を無視して平手先生の方にすぐさま駆け寄る。


「平手ちゃんおはよー」

「おはようございます」

「平手ちゃん、美味しいケーキ屋見つけたんだけど一緒に行こー?」

「私ケーキとかあんまり食べないのでいいです」


あっさりと断られた志田に小さく吹き出しながら採点をしていく。


「平手先生」

「は、はい...?」

「採点終わりました」

「ありがとうございます...助かりました」


俺を見てすぐ目を逸らされ、顔を赤くしている平手先生を優しく見つめ、自分のデスクに戻る。


明らかに俺を意識してる顔だ。


嬉しい思いが溢れる。


今すぐ抱きしめたい。愛を伝えたい。


「平手先生」

「っ、は、はい...?」

「今日の放課後、屋上に来てくれませんか?」

「屋上...?」

「はい」


優しく微笑み、まっすぐ平手先生を見つめると、視線を逸らされたが顔を真っ赤にしてこくんと頷いてくれた。


そしていつもの教頭先生と校長先生の挨拶が始まってその話が終わると教員達がそれぞれ教室へと向かって行って、俺と平手先生も教室に向かう。


淡々と授業が行われていき、お昼休憩のチャイムが鳴り、職員室にぞろぞろと教員達が戻ってきて、俺は購買部でお弁当とお茶を買って職員室に戻ると平手先生は小さな手作り弁当を持参して小さく手を合わせて食べ始めた。


「平手ちゃん珍し!お弁当持参?」

「ただ単に時間が無いだけです」

「ねぇ、ちょっとだけ卵焼きちょうだいー」

「嫌です」

「平手ちゃんの手作り弁当が食べたいの!」

「あげないです」


頑として断る平手先生と志田のやりとりにふっと吹き出しながらお弁当を食べ、平手先生が食べ終わると少し遅れて俺も食べ終える。


ゴミを捨てに行き、デスクに戻ってお茶を飲んでいると平手先生はテストの採点をしていて立ち上がって平手先生に近寄った。


「平手先生、俺も手伝います」

「あ、ありがとうございます...」


また半分もらってデスクに座るとペンで採点をする。


しばらくしてからテストの答案用紙を平手先生に渡した。


「いつもありがとうございます」

「いえ、副担ですから当たり前ですよ」


また顔が赤い。


するとお昼休憩が終わるチャイムの音が聞こえて平手先生と共に教室に向かい、授業を始める。


「渡邉先生ー分かんないー」


女子生徒が言うと俺は近寄って教科書に指をさして分かりやすく教えると分かってくれた様で微笑む。


「平手ちゃん、手止まってるよー?」


俺が平手先生を見つめると慌てて黒板に字を書く。


そうしていると授業はあっという間に終わって俺は平手先生の隣に立って挨拶を終え、放課後になった。
















ーーーーーー

放課後、俺は屋上へと向かい重厚な扉を開けて平手先生を待った。


フェンスに凭れてスーツのポケットに手を入れて待っているが中々来ない。


そりゃそうだよな。会って間もないし、一目惚れなんて信じてもらえないよな。


なんて思っていると扉が開いて平手先生が息を切らして来てくれた。


「渡邉先生、っ、遅くなってごめんなさい...っ」

「平手先生...」

「生徒に捕まってしまって遅くなりました...」


俺の元におずおずと近付く平手先生に俺は我慢出来ずに歩き出して抱きしめた。


「渡邉先生...?」

「平手先生...っ、来てくれないかと思ってた」

「...ごめんなさい」

「...平手先生...」


甘い匂いのする平手先生の首筋に顔を埋める。


心臓が煩いくらい高鳴り、俺の鼓動は聴こえているんだろうか。


「平手先生...いや、友梨奈さん」

「はい...」

「...俺と、最初で最後の恋人になってくれませんか?」

「っ......はい...っ」


平手先生の言葉に嬉しくて両肩を掴むとそっと優しく唇を触れ合わせた。


平手先生は俺の背中に腕をまわして抱きついてくれた。




















ーーーーーー

「理佐竣っ」

「っ、...ん?」


膝の上に跨って座っている友梨奈の顔をキョトンとした顔で見つめると頬を膨らませて俺を見てる。


「もう映画終わっちゃったよ。なにもの思いに耽ってるの」

「ちょっとね」


俺は友梨奈を抱きしめて囁く。


「俺と、最初で最後の恋人になってね」













そう呟くと友梨奈は、


「当たり前でしょ」


と、俺を見つめて微笑んだ。















友梨奈、大切で愛しい恋人。


最初で最後の恋をしたのだった。




























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リクエストして下さった方、ずいぶんと長くお待たせしてしまい申し訳ありません!

気に入って下さると幸いです。

本当にお待たせしてすみません。

お読み下さりありがとうございました。