今日は他校の研修会で親睦会という名の飲み会で居酒屋に俺達は現在いる。


目の前に座る彼女はちょっとしかお酒を呑めないのに他校の先生達は既に出来上がっていて、俺の彼女の周りを囲んでお酒を勧めてきては可愛いだの、綺麗だのと連呼していた。


「平手先生〜、可愛いね〜」

「あ、ありがとうございます...」

「欅学園から櫻高等に来ればいいのにー」

「いや、それはちょっと...」


彼女は苦笑いを浮かべてちびちびとお酒を呑んでいる。


「平手先生、呑みが悪いよー?ほら、もっと呑んで」


注がれたお酒に困った様子でお礼を言いながらまたちびちびと呑んでいた。


だから友梨奈はお酒が苦手なんだって。


俺はそれをイライラしながら見ていた。


「平手先生〜俺と付き合って〜」

「藤吉〜平手先生は俺と付き合うんだよね〜」

「平手先生は俺のもんだぞ〜」

「森田は黙ってろよ〜。平手先生、俺と付き合って」

「お前こそ黙ってろよ〜武元〜」


他校の先生達は言いたい放題で彼女をあの手この手で口説いている。


俺の彼女ってこんなにも可愛いんだと再認識するがうざ絡みしてくる先生達に隣に座っていた志田がこそっと「助けてやれよ」とお酒を呑んで俺にそう言った。


「他校の先生だぞ...下手に手を出したら校長が困るだろ」

「そうだけどお前が助けてやらないなら俺が助けるぞ」

「志田、俺の彼女ってこと忘れてないだろお前...」


他校の先生達にイライラして机の下で拳をぎゅっと握って耐える。


「渡邉先生、お酒注ぎましょうか?」

「あ、いえ俺お酒弱いので。ありがとうございます」


...本当は強いんだけどな。


なんて思いながら笑みを浮かべて丁重にお断りした。


すると、彼女が困った様子で俺を見てヘルプを出してきて何気なく物を取るフリをして下を見ると他校の先生一人が彼女の太腿に手を置いて撫でている。


それには堪らず俺は立ち上がると彼女の傍に近付き、微笑んで彼女の腕を掴むと立ち上がらせた。


「平手先生、呑み過ぎですよ」

「渡邉先生...」

「トイレ行きましょう」


二人でスリッパを履いてトイレへと連れていく。


男女兼用のトイレに入ると彼女が目に涙を浮かべて抱きついてきた。


「理佐竣...怖い...」

「ん...気持ち悪いフリして帰ろう。出来る?」

「うん...っ」


髪を撫でて微笑むとトイレから出てわざと演技をして彼女の背中を撫でて戻った。


「すみません。彼女、具合が悪くなって吐いちゃったので俺が送ってきます」

「俺も彼女に遅くなると怒られるんで帰りまーす」


彼女と俺の鞄を持って靴に履き替えると「え〜」と言う声が複数上がる。


「渡邉先生、平手先生をよろしく頼むな」

「はい。校長、他校の先生方すみません」


頭を下げて微笑むと、一人の男が彼女を見ていて「友梨奈?」と声をかけてきた。その人物に彼女は驚いて「土生君...?」と呼ぶが志田が既にタクシーを呼んでくれていて、店員に「ごちそうさまでした」と言って彼女を支え、お店を志田と共に出て、待っていたタクシーに「志田です」と言って三人で乗り込んだ。


「平手ちゃん大丈夫?」

「うん...」

「アイツら悪酔いし過ぎだろ...」


彼女の手を握って安心させるとようやく友梨奈の表情に笑顔が戻る。


「理佐竣、ありがとう。志田君も」

「良いよー。俺もくそつまんねー飲み会にウンザリしてたし」

「てか志田、お前本当に彼女出来たのか?」

「おう。平手ちゃんと同等に可愛い彼女ー」


志田が携帯を弄って俺達に見せてきた。

そこには笑顔でピースした志田と志田の彼女が映っている。


「わ、綺麗な人...」

「志田にはもったいねぇな」

「悪いかよ。ねるっていうんだー」

「ねるさん...可愛い名前」

「平手ちゃんも可愛いよー」

「お前...チャラ男だな」

「失礼な奴だなー。相変わらず」


三人で笑いながら色んな話をしていると自宅前に着いて俺は志田にお金を渡そうとすると「いらね〜よ。じゃあな、理佐竣、平手ちゃん」と言って笑顔で手を振ってそのままタクシーで帰っていった。


「友梨奈、家入ろう?」

「うん」


手を繋いで鍵を開けると彼女を先に上がらせて施錠をする。


ソファーに深く座る彼女に水の入ったコップを渡すと一口二口飲んでテーブルに置いた。


俺は寝室に入って彼女と俺の鞄を置いてリビングに戻ると彼女の隣に座ってネクタイを緩める。


「友梨奈具合悪くない?」

「ん、大丈夫。だけど...」

「ん?」

「撫でられたところが気持ち悪い...」

「...だよな...ていうか...店出る前に話しかけてきた男って誰?」

「...元カレ...」

「...そっか...」

「...理佐竣...怒らないの?」

「怒んないよ。ただ名前呼んでたくらいで」


肩に頭を乗せてくる彼女の肩を摩った。


「お風呂入ってもう寝よう?」

「うん...」


一緒に立ち上がると寝室に入ってスーツを脱いで、彼女も同じくスーツを脱ぐと着替えを持ってお風呂に入りにいった。















ーーーーーー

天井からぽちゃん、と水滴が落ちてくる静かな空間で湯船に入って背中越しで彼女を抱きしめる。


「理佐竣...助けてくれてありがとう」

「当たり前だろ。俺の大事な彼女なんだから」

「...うん」


嬉しいのかお腹に腕を廻して抱きしめる俺の手に手を重ねた。


可愛くて堪らず首の後ろにキスをして強く吸う。


キスマークがついたことに満足して強く抱きしめる。


「はぁー...でも嫉妬した...」

「...なんで?」

「友梨奈、モテモテだったじゃん...」

「そう、かな...自分じゃよく分かんないけど...」

「でも、自分の彼女が可愛いし、綺麗だったこと、再確認した」

「なにそれ」


クスクス笑いながら俺に身を預ける彼女の良い匂いがする髪に鼻先を埋めた。


「もう上がる?」

「まだこうしてたい」

「ふふっ。甘えん坊...」


至福なひと時に微笑んでしばらく友梨奈を抱きしめていた。


















ーーーーーー

翌朝、携帯のアラーム音に目を閉じたまま手探りで携帯を取り、アラームを止めて起き上がると彼女も目をうっすら開け、俺は彼女の髪を優しく撫でる。


「友梨奈...起きて」

「うーん...もう朝...?」

「うん、学校行く準備して」

「はーい...」


彼女も同じく起き上がり、眠たい目を擦った。


俺はベッドから下りて、洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨いていると彼女もやって来てヘアバンドで髪を上げて顔を洗う。


彼女の洗顔が終わると代わりばんこで今度は俺がうがいをして歯磨きを終えると彼女もまた歯を磨く。


朝ご飯の準備をしてテーブルに並べ、彼女を待って床に座ると軽く化粧をした彼女がやってきた。


「わ、バナナトーストだ」

「友梨奈好きだもんな」

「うん、だって美味しいんだもん」

「メープルシロップかける?」

「うん、ちょっとだけ」


彼女は俺の隣に座り、少しだけメープルシロップをかけてフタをして食べ始める。


「ん〜、美味しい」

「ふふっ。本当に好きだなぁ」

「んっ」


もう食べ方をマスターにした様でバナナを落とすことなく、小さな口でもぐもぐと食べているのを見て微笑みながら俺も食べる。


食べ終わると俺は皿を友梨奈の分も持ってシンクに持っていくと彼女も傍に寄って来てべたべたした手を洗う。


「理佐竣、ありがとう。ごちそうさま」

「いいよ、そんなの。着替えておいで」

「うん」


笑いながら皿を洗ってかごに置くと手を拭いて寝室に向かった。


彼女は下着姿になっていてすらっとした体型に目を細め、自分も下着姿になるとスーツに着替える。


ネクタイを絞めて上着を着ると鞄を持つと彼女を見つめた。


「友梨奈準備出来た?」

「うん、出来た」

「よし、じゃあ行こっか」

「うん」


玄関に向かい、革靴を履くと彼女はパンプスを履く。


鍵を開けて二人で外に出ると施錠し、駐車場に向かう。


キーで鍵を開け、乗り込むと助手席に彼女も乗り込む。


シートベルトをしてエンジンをかけると学校へと車を走らせた。


数十分後学校の専用駐車場に着き、車を止めるとシートベルトを外して彼女と共に車から降りて鍵を閉める。


職員専用の出入り口から中へと入り、革靴からスリッパに履き替える。


彼女もまた同じようにスリッパに履き替えて一緒に職員室へと入ると他数名の先生達が思い思いに頭を抱えてたり、机に突っ伏していたりしていた。


俺と彼女はデスクに鞄を置いて思わず顔を見合わせふふっと笑う。


次の日も学校だというのに呑んだくれた先生達が悪い。


「おざまーす」


志田が鞄を肩に背負って中に入って来るとびっくりした表情をしていた。


「みんな呑んだくれ?」

「みたいだな」


小声で話をしながら二人してクスクスと笑う。


「平手ちゃんおはよー。昨日大丈夫だった?」

「うん、私そんなに呑んでないし」

「おい志田、俺には挨拶しねーのか」

「あ、理佐竣おはよ」

「てめぇっ」


脚を蹴ろうとした時、彼女が座った首に付いてるキスマークに気付いて逆に蹴られた。


「おまっ、平手ちゃんにキスマーク付けてんじゃねぇよっ」

「えっ!?嘘っ!?」


彼女もひそひそと話す俺達の会話が聞こえたのか目を見開いて首に触れる。


「ちょっと!渡邉先生!」

「友梨奈っ、声がでかいっ...」

「ざまぁ〜」


志田は口に手を当てて笑うので思いきり脚を踏んづけてやった。


「いっ!!」

「渡邉先生っ...ちょっと...」

「平手先生っ、落ち着いてっ...」


ネクタイを引っ張られて職員専用のトイレに連れて行かれると個室に押し込められて鍵を締められる。


「どういう事?」

「いやっ...その...」

「生徒にバレたらどうしてくれるのよ!」

「蚊に刺されたっていいわ、」

「そんな言い逃れ出来る訳ないでしょ!」

「友梨奈っ...そんなにおこら、」

「怒るに決まってるでしょ!」


ネクタイをキュッと握られて彼女は憤慨している。


「...ちなみにどこにキスマーク付けたの...」

「こ、ここに...」


背中を向く彼女の右の首後ろを触ると振り向いて頬を叩かれた。


「もう!バカ!」


鍵を開けて出て行く彼女に、やってしまったと叩かれた頬を摩って片手でネクタイを直す。


職員専用トイレから出て職員室に戻ると、志田が悪戯っぽく笑って俺を見つめ、彼女はデスクに教材をドン、ドンッと置いて俺を冷めた目で見つめてくる。


友梨奈...怒らすと怖い...。


すると教頭先生がデスク前で立ち上がり、先生全員が立ち上がって朝の朝礼が始まった。


毎度の如く話が始まり、校長先生が出てきて「本日も頑張りましょう」と簡潔に話が終わると先生全員が頭を下げて自分達のクラスへと職員室を出て行く。


俺達も出て行くと彼女は俺を無視して教室へと向かってしまった。


「...平手ちゃんって、怒らすとこえ〜のな」


クスクス笑う志田の頭頂部を教材の角で殴り、痛がる志田を放っておいて俺は自分のクラスへと向かった。







ーーーーーー

教室へと向かった私はどうにかキスマークを隠そうとスーツを首の後ろまでやるが隠せない位置にあるから、絶対生徒達に揶揄われると目を閉じてがっくりと首を垂れた。


と、後ろから私を呼ぶ声がして振り返ると小林さんがいた。


「平手先生...」

「あ...小林さん、おはよ、」

「それってキスマーク?」


ズバリと当てられ、心臓がバクバクとして眉を下げて終わったと思った。が、ちょっと来て、と言われて屋上に続く階段に付いて行った。


「座って」

「...え?」

「良いから座って」

「う、うん...」


小林さんの前に座ると何やらスクールバッグを漁って何かを首に貼られた。


「小林さん...?」

「絆創膏」

「え...?」

「鈍いよね平手先生って」

「...ごめん」

「そこ謝るところ?」


どうして...と思っていると小林さんは階段を降りて行く。


「小林さん!」

「...なに?」

「...ありがとう」

「...そんなのどうでも良いから教室行くよ」

「...うん」


本当は優しい子なんだと思って微笑んで小林さんの後を追った。


教室に入り、教壇に立つとみんなに挨拶をしてから点呼をとる。


それが終わると授業へと移った。


「未然、連用、終止、連体、已然、めいれ、」

「平手ちゃーん」

「ん?なに?」

「その絆創膏ってキスマーク?」


一人の男子生徒が尋ねてくるとクラス中がざわざわとしてくるのにごくんと息を呑んだ。


「違います!」

「え〜、そこに絆創膏貼ってあるっておかしくない?」

「平手ちゃんのえっち〜」

「意外にやるね〜平手ちゃん〜」


揶揄ってくる男子生徒達に顔を真っ赤にして誤魔化しているといきなり机をバンッと叩く音がしてそちらを見た。


「男子うるさい。首にただ絆創膏が貼ってあったからってキスマークとは限らないでしょ。それに勉強出来ねーから静かにしろ」


小林さんがそう言うと騒いでいた男子生徒達は大人しくなって小林さんは私を見つめる。


「先生、早く授業して」


気を取り直して小林さんに頷くと黒板に文字を書いていった。








授業をしている中でチャイムの音が鳴り、クラス委員が起立、礼を言って生徒達はそれに従い、私は教材を持ってクラスを出た。


すると小林さんが廊下で呼び止めてきて、足を止めた。


「平手先生、ほんっと鈍臭い」

「ご、ごめんね...」

「動揺してちゃ相手の思うツボ。しっかりしてよね」

「うん...」

「じゃあね」

「小林さんっ!」


教室に戻ろうとした小林さんを呼び止める。


「?」

「ありがとう!」


そう言うと小林さんは私に笑いかけて手を振った。


本当に優しくて良い子なんだ。と思って教材をぎゅっと抱えて微笑む。


元気をもらって一旦職員室へと戻って行った。











それから授業を淡々とこなして行って私はお昼休憩になって購買でサンドイッチとりんごジュースを二人分買って職員室へと戻る。


既に理佐竣が戻って来ていてデスクに突っ伏しているのを見てクスッと笑った。










ーーーーーー

きっと今日は友梨奈に口を聞いてもらえないとデスクに突っ伏していると横から笑う声がして、そっちを見上げると彼女が笑っていて思わずガバッと起き上がった。


「渡邉先生?はい、お昼ご飯」

「あ、ありがとう、平手先生」


サンドイッチとりんごジュースを受け取ってデスクに戻る彼女の首には絆創膏が貼られていた。


「あれ?平手ちゃん、それどしたの?」

「...優しくて可愛い生徒が貼ってくれたんです」

「ふ〜ん。ほら、なっさけない顔した奴がこっち見てるよー」

「うるせぇ。志田」

「二人とも喧嘩しないで。ご飯食べて下さい」


微笑んで俺と志田を見る彼女の顔は穏やかだった。


もう怒ってないのかな...。


もらったサンドイッチの封を開けて食べながら彼女を見るとどこか嬉しそうにサンドイッチを食べている。


「うわっ、くっそ甘〜」


お弁当箱を持ち、卵焼きを食べて悶絶している志田を見つめて彼女がクスクス笑った。


「どうしたの?志田先生」

「ねるの初めてのお弁当、嬉しいんだけど...卵焼きが砂糖いっぱいで...」


がっくりと項垂れている志田に思わず吹き出す。


「お前、彼女に作ってもらったお弁当にケチつけんなよ」

「うるせ。ねぇ〜平手ちゃん、俺のお弁当食べてー」

「最低、志田先生」

「うぐっ!!」


彼女の言葉が志田の心に突き刺さって背凭れに背中をつけてまたがっくりと項垂れているのを笑う。


楽しく三人で話ながらお昼休憩を過ごしているとチャイムの音が鳴り響いて先生それぞれが教材を持って職員室から出て行くのを俺達三人も各教室へと向かった。















ーーーーーー

授業が終わり、帰る時間になって職員室でテストの採点をしている彼女の横顔を見つめ、可愛いなぁ。なんて思いながら待っていると、採点が終わったのか、よしっと言って鞄を持つ彼女に立ち上がって近付いた。


「平手先生、もう終わり?」

「うん、終わりました」

「じゃあ帰ろっか」

「うん」


俺も鞄を持って、先生達がまばらな中で二人でお先に失礼します。と言って一緒に職員専用の出入り口へと向かう。


そして革靴に履き替えてスリッパを戻すと彼女も戻してパンプスを履く。


扉を開け、車に近付いてキーを押すと鍵が開き車に乗り込むと彼女も助手席に乗り込んだ。


「じゃあ帰りまーす」

「はーい」


エンジンをかけて職員専用の駐車場を出ると家へと向かった。


「その絆創膏誰に貼ってもらったの?」

「小林さん」

「え?小林って、あの小林?」

「うん」

「へぇー。あの子がねぇ...」

「一見怖そうに見えるけど、違った。言葉はきついけどすっごく優しい子だった」


彼女は優しく微笑んで呟く。どこか嬉しそうに。


それを感じながら俺も微笑んで運転に集中する。


「それよりも、理佐竣。家帰ったら覚えときなさいよ」


キスマークのことか。


「...あまり乱暴は...」

「私も恥ずかしい思いしたんだから仕返しね?」


苦笑して、


「分かりました」


と返事をした。


彼女を怒らせると後が怖いから大人しく甘んじて受けようと思いながら帰路へと就いた。

































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リクエストして下さった方、そしてネタ提供して下さった方々、ありがとうございます!そして遅くなってしまいすみません!

気に入って頂けると幸いです。

お読み下さりありがとうございました。