朝、目を覚ますと温かいぬくもりがそこにはあって足で身体をがっちりホールドされていた。


見上げると理佐の綺麗な寝顔。


...あれ?何で理佐がいるの?


とりあえず理佐の足を退かすと理佐が目を覚ました。


起き上がって理佐を見る。


「あれ、理佐、今日仕事は?」


理佐は大きく伸びをして私に微笑んだ。


「今日は休みだよ?友梨奈は?」

「私も休み」


ごろんとまたベッドに寝そべると理佐が腕に抱きつく。


「んふふ。最近お互い忙しかったからね」

「そうだね。すれ違いばっかりだったもんね」

「んー。友梨奈と一緒にいられる」


頬を腕につけてすりすりしてきた理佐が可愛くて髪を撫でる。


「理佐髪伸びたね」

「友梨奈もじゃん。観てたよ楽屋のテレビで」

「え、櫻坂って出たの最初の方じゃない?」

「そうだけど、みんな観たいって言ってマネージャーにお願いして」

「やだ、恥ずかしい」

「かっこよかった、友梨奈。それに楽しそうに踊ってて良かった」

「理佐...ありがとう」


理佐の顎を上げて軽くキスをした。

額と額を当てて二人で微笑む。


「理佐、今日なにする?」

「んー...二人でイチャイチャしよっか」

「良いね。じゃあー...溜まってるテレビ観ようよ」

「うん。まずは先に...」

「「ジャンケンポンッ!」」

「勝った。じゃあ私から顔洗うね」

「負けた...」


私はベッドから下りて、理佐は蹲って悔しそうにしているのを見てクスクスと笑って洗面台へと向かった。


顔と歯磨きをし終わり、理佐を呼ぶと寝室から理佐が出てくる。


「負けたー」

「まだ悔しがってるの?」

「嘘だよ。うーん友梨奈ー」

「甘えん坊理佐だ。ほら、早く顔洗って」

「はーい」


私から離れてヘアバンドで髪を上げて顔を洗う理佐を見届けて私は朝ご飯の支度に取り掛かる。


ドライカレーの素があったからそれを二人分作ってお皿に盛り付けていると理佐が背後から抱きしめてきた。


「すっごく良い匂い〜」

「これドライカレーの素だよ?」

「素でもいいの。友梨奈が作ってくれるっていうのがいいの」

「んー...そうなの?」

「そうなの」

「ふーん」


フライパンは後で洗えばいいやと水を張っておく。


「理佐、座ってて」

「嫌」

「もう、料理作れないじゃん」

「何作るの?」

「お味噌汁」

「やった。友梨奈のお味噌汁大好き」

「理佐、毎回言うね」

「だって、美味しいもん」


私の恋人は甘え上手。


豆腐と乾燥したわかめでお味噌汁を作る度にずっと腰に絡みついてくる。


「理佐、もう出来るから座って」

「はーい」


理佐はお箸とスプーンを用意してカーペットの上に座った。


お味噌汁をお碗に入れて並んでテーブルに置く。


私も理佐の隣に座ると二人で手を合わせて、いただきます、と言って食べ始める。


「うーん、美味しい」

「ならよかった」


理佐は簡単な料理でも美味しそうに食べてくれるからそれだけでも嬉しい。


ゆっくりと食べ終わると理佐はなにも言わずに私の食器も片付けてくれた。


「理佐ありがとう」

「いいよ、お礼なんて。座ってて」


私を見つめて微笑み、食器を洗ってくれる理佐の後ろ姿をソファーに座って眺める。


スタイルいいなぁ。そうだよね。モデルやってるんだから。


いつもはスカートとかお洒落な服着てるけど、部屋着がTシャツにジャージって私しか知らない。


ふふっと微笑んでいると、洗い物を終えた理佐がキョトン顔で隣に座る。


「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ?」


にやけるのを必死に堪えているとソファーに押し倒され、くすぐられて身を捩りながらけらけら笑った。


「理佐っ、くすぐったいっ!ふふっ」

「なに考えてたか言ったらやめてあげる。ほら、なに考えてたの?」

「言うからっ!ふふふっ!」


理佐の手が離れて、身体を起こされると顔を覗き込まれる。


私は、はぁーと息を整えながら目尻に溜まった涙を拭いた。


「で?なに考えてたの?」

「...いや、理佐、モデルやってる時はお洒落な格好してるけど...部屋着はTシャツとジャージなんだもん」

「だってこの方が楽だもん」

「分かるよ、分かる。でもそういう姿知ってるの私だけなんだなぁって。思わずにやけちゃった」

「っ〜、可愛いーっ!」


ぎゅっと抱きしめられて頬に何度も口付けされる。


くすぐったくて肩を竦めながら好き勝手されていた。


「理佐ってば。ほらテレビ観よう?」

「友梨奈が可愛いこと言うからいけないんだよ?」


悪戯っぽく笑ってる理佐を見て、私も笑う。


理佐がテレビのリモコンを手に取って電源を入れ、録画していたものの一覧を観るとほぼ同じくらい録画したものが溜まってた。


「え、理佐、ドラゴン桜録画してたの?」

「当たり前じゃん。友梨奈だってそこさく録画してる」

「だってそこさくの理佐可愛かったんだもん」

「え、録画して観てたの?」

「うん。理佐の、わかんない!が可愛くて、面白かったからこの回神回だなって。だって理佐の口から、うんちにしか聞こえないって。言わないじゃん、当たり前に」


思い出してしまって笑うと理佐がもうっ!と言って自分の両頬を包み込んで恥ずかしそうにしている。


「ぽんぽんも可愛くて面白かったけど」

「...友梨奈、可愛いのは私だけにして」


まだ理佐は両頬を包み込んだまま私の方を見て口を尖らせていた。


それに私はふふっと微笑んで尖った唇にキスをする。


と、聴き覚えのあるCMが流れて理佐が食い入るようにそれを見つめて、終わると両頬を押さえていた手を下ろし、


「ハロー、しあわせ」


と、にっこり微笑んで私を見つめた。


「もうっ、理佐」

「だって可愛いんだもん、ハーゲンダッツのCMの友梨奈」

「だからって言わなくていいのっ」

「ハロー、しあわ、」


言わせないように唇を重ね合わせる。


ゆっくり唇を離すと二人して微笑み合った。


「そうだ。テレビより映画観ようよ」

「うん。そうしよ」

「友梨奈なに飲む?」

「サイダーがいい」

「じゃあ私は紅茶飲もうっと」


理佐が紅茶を作ってる間、私は映画を選ぶ。


「はい、サイダー」

「ありがとう。理佐、何が観たい?」

「うーん...悲恋物?」

「好きだねぇ、悲恋」

「うん。泣く事って大事なんだよ?」

「そうなの?」

「うん」


へぇーと思いながらサイダーのフタを開けて、理佐は紅茶を一口飲む。


日本映画を選んで二人ソファーに深く座って見始めた。


最初の内はいけすかない二人だったけど、お互いに意識するようになって恋人同士になった二人。


でも突然彼女から別れを切り出されて、男の人は一人、部屋で大暴れして洗面台のガラスを殴りつける。


血塗れの手で泣く。


ある日、男の人と楽しげに歩く彼女を見かけ、それが仲間の一人だった事にショックを受けてズカズカと歩み寄ると彼氏だった男の人は仲間の男を包帯で巻かれた拳でぶん殴った。


彼女は何も言えずに立ちすくんでいる。


両肩を押して睨み合う二人。


「俺を忘れて幸せになれ」


そう言い残して彼氏だった人は彼女だった人に言ってその場を立ち去った。


彼女を忘れたくても忘れられない彼氏は仲間とも喧嘩して自我を失う。


そして季節は変わり、今でも忘れない彼女を想いながらいると仲間の一人から電話がかかってきて電話に出ると、彼女は白血病で今危篤状態だと知らされ、思わず病院へと息を切らしながら走った。


病院に着くや否や、今の彼氏から腕を掴まれてポケットに入っていた指輪を手の平に置いて、


「彼女は今でもお前の事を愛してる」


と言われて、指輪を握り締めてICUの扉を叩いて名前を何度も呼んで泣き叫ぶ。


仲間達が止める中、彼女の心電図は虚しく鳴り響いて息を引き取った。


ICUから出てきた彼女の目には涙が伝っていて二度と目を覚ます事はなかった。


白血病だったから彼氏だった男の人を敢えて突き放した彼女に声を上げて泣き崩れる。


そして、震える手で彼女の左手の薬指に指輪をはめた。


「俺を思い出して幸せに天国に行ってくれ」


それで物語は終わった。


私もうるっときたけど、理佐の方を見たら号泣していた。


苦笑して理佐の髪を撫でる。


「理佐、泣きすぎ」

「だ、だってっ、友梨奈ー」


鼻をすんすんとさせながら抱きついてきたので抱きしめ返した。


「友梨奈ぁ、白血病にならないでね」

「理佐、感情移入し過ぎ。なる訳ないじゃん」


ぽんぽんと背中叩いてあやすと理佐は身体を離して涙を拭う。


「はぁー、すごく良い映画だった」

「うん。私もうるっときた」

「やっぱり?」

「うん」

「涙活っていいね、すっきりする」

「るいかつ?なにそれ」

「心を綺麗にする活動のことを涙活っていうの」

「へぇー。そうなんだ」


すっかりぬるくなったサイダーを飲んで、理佐も冷めてしまった紅茶を飲む。


「さてと、次はなにしよっか」


ごろんと私の太腿に頭を乗せて寝そべる理佐の髪を撫でた。


「友梨奈」

「ん?」

「ちゅー」

「ふふ。はいはい」


ちゅっと口付けて微笑むと理佐も満足気にはにかむ。


「あ、そういえば3rdシングルのカップリング、センター理佐なんだね」

「え、誰から聞いたの?」

「保乃から」

「もう、保乃ちゃんってば...!」

「なにその反応」

「私から言いたかったのに!」


理佐は両手で顔を覆って呟いた。


どうやら驚かせたかったみたい。


「理佐、私嬉しいよ?」

「へ...?」

「理佐がセンターになるって聞いた時、すっごく嬉しかった」

「友梨奈...」

「すごく頑張り屋で、ダンスも上手だし、何よりルックスが綺麗で...欅時代からそう思ってた」


目を細めて呟く。


「櫻にしか出来ない理佐になってね?」

「っ〜、友梨奈〜」


私の首を引き寄せてくる理佐の目には涙が滲んでた。


「泣かないの。...それとも不安?」

「うん...不安...っ。私にそんな大役出来るかなって」

「...今の理佐なら出来る。大丈夫」

「なんでそう思うの?」

「1stシングル、2ndシングル、どれもセンターより理佐に目がいってた。センターの後ろにはこばと理佐が固められてて安心して観ていられた」

「友梨奈...」

「だから大丈夫。理佐らしくやればいい」


優しく微笑むとこくこくと頷いてぎゅっとまた首を引き寄せられて、さすがに苦しくて理佐の手をタップすると腕を離してくれた。


「大丈夫だって。ね?」


苦笑して呟くと理佐は柔らかく微笑んで、


「ううん、違うの。嬉しかったの。理佐らしくやればいいって言われて」

「うん。欅で培ったものがあるでしょ?それを今度は櫻で活かせばいいの」

「友梨奈」


お互いに微笑んで口付けを交わした。




歩む道は違うけど、理佐らしく、私らしく、行けばいい。



「さてと、今度はどうイチャイチャしますか?」

「うーん...友梨奈の映画観よう!」

「それはだめです!イチャイチャとは関係ありませんっ」

「えーー...じゃあ〜このままイチャイチャしよ?」

「んふふっ。いいよ」


私は理佐の頬を撫でてキスをした。























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リクエストして下さった方、遅くなってしまい申し訳ありません。気に入って頂けると幸いです。

お読み下さり、ありがとうございました。