今日は理佐の23歳の誕生日。


有名なケーキ屋さんに行って、予約していたケーキを取りに行って家へと帰り、早速冷蔵庫にしまった。


お酒も冷蔵庫に冷やして用意し、壁にHappy Birthdayと書かれた垂れ幕を画鋲で止めて理佐にLINEを打つ。


(今日何時に帰ってくる?)


送信するとすぐに返ってきた。


(今日は0時過ぎちゃうかも)


え、それじゃあ誕生日過ぎちゃうじゃん。


私は再度メッセージを送る。


(もっと早く帰って来れない?)


またすぐに返事が返ってくる。


(櫻坂のみんながお祝いしてくれるって言うから早くには帰れそうもない)


私なんかより櫻坂のみんなをとるんだ。


そう考えただけでイライラして、


(じゃあもういい)


と、打って携帯をソファーに放り投げた。


せっかくのお祝いがダメになってしまった。


いいよ、別に。


私は寝室に向かってベッドに寝そべると寝に入る。


理佐にとっては、もう欅坂を脱退した私のことなんかどうだっていいんだ。


そう考えている内に寂しくなって枕を抱えて目を閉じて眠った。


携帯が虚しくなっているのにも気付かずに。







目を覚まして時計を見ると22時になっていた。


お腹が空いて起き上がり、冷蔵庫に入っていたある物で晩ご飯を済ませた。


そして着替えを持ってお風呂に入る。


出た頃には23時になっていて、溜め息を吐いて髪をぐしゃぐしゃにしてドライヤーで乾かした。


もうどうだっていいや。


Happy Birthdayの垂れ幕も外して、ゴミ箱に捨ててむしゃくしゃするからどうせ食べないせっかくの誕生日ケーキも食べ、冷やしておいたお酒を飲みながら、放り投げていた携帯を手に取ると理佐からのLINEの着信が何件も入っていた。


私はそれを無視してケーキを食べていたが、虚しくなって手を止める。


なにしてんだろ、私。


櫻坂の歌で二期生が乗る自転車の裏に立って乗ったり、楽しんで踊る理佐の姿を観た時、ああ、私が欅坂にいた時はああいう顔、させてあげられてたのかなって思った。


でも、あの時は苦しかった。辛かった。逃げ出したかった。


でも、それを救ってくれてたのはいつも理佐だった。


目の前が涙で潤んで気付けば、私は泣いていた。


理佐の為に用意したケーキ、お酒、垂れ幕。


どれもダメにしてしまった。


頭を冷やそうと涙を拭い、上着を羽織って、携帯を持ち、家を出て施錠すると近くの誰もいない公園のブランコに乗ってゆっくりと漕いだ。


「またねと笑って見せてくれた...」


あぁ、切ない曲ばかりが頭をよぎる。


鼻歌混じりに歌いながら真っ暗な空を見上げる。


こんな都会じゃ星さえも見えない。


ブランコをゆっくり漕ぎながら空を見上げているとLINEの着信音が鳴って、ポケットから携帯を取り出して画面を見る。


理佐からだった。


一瞬出ようか迷ったが通話のボタンを押して電話に出る。


「友梨奈...」


「...」


「...今どこにいるの?」


「...公園」


「早く帰ってきて」


「...もうちょっとしてから」


「いいから今すぐ帰ってきて...」


「...分かった...」


携帯を切って少ししてからブランコから立ち上がっり、ポケットに携帯と手を突っ込んで重い足取りで家へと帰ると、施錠してないドアを開け、理佐の靴が乱雑に置いてあった。


リビングに続く扉を開けると、理佐がソファーに座っていた。


ゴミ箱に捨てたはずのHappy Birthdayの垂れ幕がテーブルに置かれていて何も言わずに寝室へと向かう時だった。


後ろから理佐に抱きしめられた。


「ごめん...遅くなっちゃって...」


「...別に」


言葉とは裏腹に冷たい態度をとって、抱きしめる理佐の手を離そうとするが強く抱きしめられて思わず泣きそうになる。


「良かったね、櫻坂のみんながお祝いしてくれて」


違う。そういうことが言いたいんじゃない。


「友梨奈...」


「...もう眠たいから離して」


理佐を傷つけたくないのに。


「友梨奈...待っててくれたのに...ごめん...」


「...」


「こっち向いて?」


「嫌...」


頑として振り向かない私を理佐は強引に振り向かせた。


両頬を包まれて唇と唇が重なる。


唇が離れると吐息を漏らした。


「友梨奈、今から...お祝いしてくれる...?」


「...でも、ケーキも食べてお酒も飲んじゃったし」


「それでもいい。友梨奈と一緒にお祝いしたい。ていうか、されたい」


「いいじゃん。もう。お祝いされたんでしょ。私のことなんか放っておいて!」


「友梨奈...」


離された手に涙を溜めて寝室に向かうと理佐を置いて扉を閉める。


携帯を見るともう1時半過ぎだった。


上着を脱いでクローゼットにしまうとベッドに横になる。


涙を拭いて目を閉じようとした時、ドスンッと何かが落ちる音がして起き上がって寝室から出ると理佐が床に倒れていた。


慌てて理佐に駆け寄る。


「理佐っ、なにしてんの!」


「これ、付けようとしたら転けちゃった」


苦笑した理佐の手には、Happy Birthdayの垂れ幕が握られてた。


「なんで...もう1時半過ぎだよ。理佐の誕生日はもう終わった、」


「終わってない」


「?」


「友梨奈がお祝いしてくれるまで終わってない」


「理佐...」


涙を溢して理佐を抱き起こすと理佐が握っていた垂れ幕を持ってソファーに登り、画鋲で止めてソファーに座る。


「理佐って案外鈍臭い...」


「そうだね...」


苦笑して涙を拭うと、ケーキに23のロウソクを立てると火を着けて電気を消す。


「友梨奈、お祝いして?」


「...ハッピバースデートゥーユー...」


小さな声で歌ってお祝いすると理佐は火を消して電気を付ける。


理佐は嬉しそうに手を叩いて私が食べてしまったケーキを気にせずフォークでケーキを食べ、美味しい!と口元に手を当てて私を見つめた。


それだけで、意地を張っていた私は、ぱくぱくと食べる理佐を見て嬉しくなる。


不意に理佐はケーキを食べる手を止めて私を抱きしめ、顔を覗き込まれると頬にキスをされて、


「友梨奈、お祝いしてくれてありがとう」


「...うん...」










あまりにも綺麗に笑うから、私もつられて俯きながらはにかんだ。


「でも今度遅れたら、ケーキもお酒もないから」


「出た。意地悪友梨奈」


二人してクスクスと笑って一緒にケーキを食べた。
















ねえ理佐、次は一番最初にお祝いさせてね。






















END

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りっちゃんお誕生日企画でした!
りっちゃん二十三歳のお誕生日おめでとう!
実りある、幸せな一年でありますように。
お読み下さりありがとうございました。