「さよなら」
LINEの音で起こされ、理佐からのたった一言だけのメッセージ。
その意味が分かった私は慌てて私服に着替えてマンションの屋上へと駆け出した。
息を乱しながら屋上に辿り着くと、日が沈み出した空と理佐の姿がフェンスの向こう側に重なっていた。
初めて会った日から私の心を全て奪った理佐。
きっと一目惚れのようなものだった。
当時私は14歳だったのに。
綺麗な顔立ちで、スラッとした美しい体型。
憧れ続けて18歳で告白したら、理佐も実は私も。と言ってくれてそこから同棲生活が始まった。
でも最近の理佐はどこか儚い空気を纏って私を見ては寂しい目をしていた。
私が迎えに行くまでフェンスの向こう側に立っているのは(助けてほしい)となげかけているのかも知れないと思った。
だから私は今夜もこうやってマンションの屋上に来る。
「理佐、待って!」
フェンスを乗り越えて、理佐の手を握る。
ありきたりな喜びをきっと理佐とだったら見つけられると思っていた。
でもSNSには心無い言葉、うるさい声に理佐は何度も涙が溢れそうな表情をしていた。
騒がしい日々に笑えない理佐に、思い付く限り眩しい明日をと思っていても理佐は一向に笑ってはくれなかった。
「はなして」
私の手を振り解き、明けない夜に落ちて行く前に戻ろうと促す。
「手、掴んで、ほら」
そう言うと手をゆっくり握ってきてほっとした。
フェンスの内側へと二人で戻ると理佐を強く抱きしめた。
忘れてしまいたくて、閉じ込めた日々も抱きしめた温もりで溶かしてあげたい。
怖くないよって優しく言って、いつか日が昇るまで二人でいようと言った。
でも今の理佐は嫌いだ。
理佐にしか見えない何かを見つめる理佐が嫌い。
それはまるで少女のようで。
信じていたい、信じれないこと。
そんなことどうしたってきっと、これからだっていくつもあって、その度に怒って泣いていくの?
それでも私は信じてる。
いつかはきっと、私達はきっと分かり合える。
「さよなら」
まただ。
私は息を切らしながら屋上に走っていく。
フェンスを乗り越えて、理佐の手を握るが、
「もう嫌だ、疲れた」
そう言ってがむしゃらに差し伸べた私の手を振り払った理佐。
もう嫌だ、疲れたんだよって本当は私も言いたい。
何度だって理佐の為に用意した言葉はどれも届かなかった。
「終わりにしたい!私だって!」
勢い余って口に出した時、理佐はどこか懐かしい、あの綺麗だった笑顔を浮かべた。
理佐は、本当は私を連れて行きたかったんだってようやく分かった。
さわがしい日々に疲れて笑えなくなっていた私の目に映る理佐は綺麗だ。
明けない夜に溢れた涙も理佐の笑顔に溶けていった。
変わらない日々に泣いていた私を理佐は優しく笑って終わりへと誘う。
沈むように、溶けていくように、私の中の染み付いた霧が晴れた気がした。
忘れてしまいたくて、自分の心の中で閉じ込めた日々に、差し伸べてくれた理佐の手を取る。
涼しい風が空をおよぐように私達を吹き抜けていく。
繋いだ手を離さないで、二人今、夜に駆け出していった。
友梨奈、私と出会ってくれてありがとう。
でも、ごめんね。
友梨奈と一緒に逝きたかったの。
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お読み下さりありがとうございました。