翌朝目を覚まして横を見ると理佐がいなかった。
まだ眠たい目を擦りながら眼鏡ケースを取って眼鏡を掛けるとベッドから下りてリビングに向かう。
「あ、起きた?」
「うん...」
キッチンで理佐は朝ご飯を作っていた。
いい匂いがする。
「友梨奈、顔洗っておいで」
「うん...」
洗面台に向かって眼鏡を外すとヘアバンドで髪を上げ、顔を洗って歯を磨く。
戻った頃にはもうご飯が並べられていて、眼鏡を掛けてカーペットの上に座った。
「ごめんね、冷蔵庫の中の食材勝手に使っちゃった」
「う、ううん大丈夫...」
私の大好きなオムライスが目の前にあって嬉しさが込み上げてくる。
「友梨奈?」
「っ、ん...?」
「オムライス見て嬉しそうにしてるから...オムライス、好き?」
「あー...ん...大好き...」
子供みたいだなって思われてるかな、なんて思って恥ずかしくて眼鏡を直す。
理佐が隣に座るとドキドキしてる自分がいる。
でもまだ詳しくは知らないしどうしたらいいのか分からなかった。
「友梨奈、食べよ?」
「っ、うん...いただきます...」
手を合わせてスプーンでオムライスを食べるとあまりの美味しさに目を輝かせる。
手が止まった私の顔を理佐が覗き込んできた。
「もしかして、不味かった...?」
「っ、ううん、とっても美味しい」
「良かったぁ〜」
安堵したらしい理佐もオムライスを食べ始めると「我ながら完璧」と微笑んで食べる横顔を見つめる。
口端についたケチャップをぺろっと舐める理佐にドキッとして慌てて視線を逸らし、自分のオムライスを食べたが、急いで食べたせいでむせて手で口を覆う。
「友梨奈っ、大丈夫?」
「けほっ、けほっ、だ、大丈夫...っ」
「慌てて食べるからだよ」
背中をぽんぽんと叩かれて小さく「ご、ごめん...」と呟き、理佐が立ち上がってコップに水を入れて持って来てくれて、それを受け取るとごくごくと水を飲んだ。
「けほっ、ん...ありがとう、理佐...」
「ふふっ、可愛い」
「っ...」
顔に熱が集中するのが分かる。
頬を赤くさせながら今度はゆっくりと食べて完食すると理佐も完食して空いたお皿を私の分までシンクに持っていく。
「理佐っ...私が...」
「いいから。友梨奈は座ってて」
「...ありがとう...」
お言葉に甘えてソファーに座ろうとするが、読みかけの小説を読もうと寝室に向かい、ベッドに置き去りにされた本を手に取り、またリビングに戻ってソファーに座って挟んだままのしおりを取って読み始めた。
(恋という気持ちは相手がどんな人であれ、気になったらいつの間にか好きになってしまうものだ)
...そういうもの...?
洗い物を終えた理佐に気付かず小説を読み耽っていると膝に理佐の頭が乗ってきてビクッとして理佐を見下ろす。
「友梨奈、読んでていいよ」
「っ...う、うん...」
それどころじゃないけど、と思いつつも小説を読み始めた。
(恋愛は何も一つの形だけではない。同性愛という形もある)
同性愛...。
愛佳さんやねるさん...理佐や、私だ...。
(好きな気持ちは普遍的だ。それが異性であれ、同性であれ)
ふと、理佐を見下ろすと綺麗な横顔で眠っていた。
たったそれだけで鼓動が早くなる。
理佐の事、まだ何もよく知らないけど、でも、私は...恋をしてるって事...?
(恋に臆病になる必要はない。好きな気持ちに変わりはないのだから)
静かな部屋で一人、悶々としていた。
すると、理佐は身じろいで私の膝を抱きしめて、また眠りに入る。
すやすやと眠る理佐は、まるで眠り姫のようで美しかった。
理佐の笑った顔。
眠った顔。
嬉しそうに笑った顔。
どの表情も、私をドキドキさせる。
そうか。
私は、いつの間にか理佐に恋をしていたんだ。
内面ばかりを気にしてたけど、理佐はいつだって優しくしてくれた。
(年上だから、年下だから。なんてものは関係ない。愛情には変わりはないのだから)
私は、理佐の事が好き。
そう。
好きなんだ。
それに気付いた時に、ぽたぽたと自然に涙が出て理佐の頬を濡らす。
涙の雫が頬に当たって理佐は目を覚ますと起き上がって私を見つめた。
「友梨奈...?」
小説をソファーに置き、眼鏡を外して溢れてくる涙を何度も拭う。
そんな私を理佐は何も言わずに抱きしめてくれた。
内面ばかりを見ようとして、恋だと認識した時、理佐の気持ちを受け止めようとしなかった私は馬鹿だ。
「友梨奈...どうしたの...?何か辛い事あった...?」
「っ...」
首を左右に振り、初めて理佐に強く抱きついた。
「理佐っ...理佐...っ」
「ん?なあに...?」
「っ、好き...っ」
「...友梨奈...」
「私っ、理佐が、好き...っ」
「...友梨奈」
身体を離されて両頬を包み込まれる。
しとどに涙を溢す私を理佐はふんわりと微笑み、ゆっくりとキスをしてきた。
唇が離され親指で涙を拭われる。
「泣かなくていいのに」
「っ、私...理佐の事、よく知らないしって、言ったけど、本当はね、ようやく好きだって気持ちに気が付いた」
「うん」
「内面ばかりを気にして、どうしたらいいのか分からなくて...っ、でも、私いつもドキドキしてた」
「うん」
「ごめんなさい...っ、理佐...っ」
両頬を包む理佐の手に自分の手を当てて俯く。
「友梨奈、顔上げて?」
「っ...」
「恋って、いつの間にか好きになるものなの」
小説と同じだ。
「私も、友梨奈の内面をよく分からなくても、それでも私は、友梨奈が好き」
「...理佐...」
「ね?だから、もう一度私と、付き合ってくれませんか?」
「っ...はい...」
涙目で理佐を見つめて微笑むと額を合わせて二人で微笑み、またキスをした。
「じゃあ友梨奈、明後日迎えに来るからね」
「うん」
私の部屋着を着たまま、理佐はスニーカーを履いて解錠するが思い出したように見送る私の首を引き寄せて頬に口付けた。
まだちょっと恥ずかしかったけど微笑んで理佐を見送った。
扉が閉まると施錠してリビングに行くと理佐が忘れていったコンビニの袋の中身をソファーに座って覗き込んだ。
チョコレートのお菓子ばっかりで、理佐の新たな一面を知れてふふっと微笑んだ。
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