俺の風邪も友梨奈の献身的な看病のおかげで良くなって、月曜日一緒に車で学校へと向かった。教師専用の駐車場に車を停めて二人別々に校舎内に入って職員室へと向かう。友梨奈が職員室に入ると教頭が話しかけてきて友梨奈はご心配をおかけしました、と頭を下げるのを見て自分のデスクに座った。遅れて志田も入って来て「おざまーす」と言って志田も自分の席に座る。友梨奈がデスクに座ると志田が友梨奈に近づく。


「平手ちゃん、風邪良くなった?」

「うん、おかげさまで」

「良かったぁ〜。平手ちゃんいなかったから寂しかったよ〜」

「志田先生はいつもそうやって女の子口説いてるんですか?」

「違う違う。んな訳ないっしょ。平手ちゃんだからだよ。同期だしね」


と言って俺の方をくってかかるような目線を向けて呟いた。俺も志田の態度にムカついて睨み返す。


「ねー、平手ちゃん今度ご飯食べに行こうよ」

「行きません。っていうか志田先生も授業の用意して下さい」

「平手ちゃんのケチ」

「ケチじゃないです」


べたべたくっつく様な志田の行為に眉を寄せて俺も授業の用意をする。先生方が揃った所で朝の朝礼が始まった。立ち上がって校長室から出てきた校長に挨拶をする。そしていつも通りの挨拶から始まり、話が終わると頭を下げて教師全員各自の教室へと向かった。俺が教室に入ると生徒達は普通に挨拶をしてきたが、小林だけが俯いているのに気がつくが普段通りに点呼を取る。そして点呼が終わると授業を始めた。


授業が終わり、次の教室へと向かう途中で小林に声をかけられて立ち止まる。


「どうした、小林」

「...私、やっぱり、」

「なぁ、小林」


言いたいことは分かっていたので真っ直ぐに小林を見つめた。


「俺じゃない奴を見つけて幸せになれ」

「っ...」

「それが先生としての答えだよ」


小林の頭をぽんぽんと優しく叩いて教室へと向かい、小林は涙を溢しているのを志田は見ていた。




お昼休憩になり、続々と教師達が職員室に戻ってくる。友梨奈は売店で買ったサンドイッチを食べ、俺も売店で買ったパンと牛乳を食べていると友梨奈と目線が合う。二人で微笑み合いながら昼休憩をとっていると志田がパンを頬張りながらまた友梨奈の近くに座った。


「ねー平手ちゃん」

「なんですか?志田先生」

「平手ちゃんの好きな人って誰?」

「っ、え?」

「まさか渡邉先生じゃないよね?」

「っ、...志田先生...私に何を言わせるつもりですか?」

「いや〜?生徒の頭ぽんぽん叩く奴のことが好きなのかと思って」


まさか志田に見られていたとは。思わず眉間に皺を寄せて立ち上がる。


「おい、志田。ちょっと来いよ」

「お〜なになにお怒り?」


クスクス笑って俺の後を付いてくる志田に嫌な予感がしたのか友梨奈も後を追いかけてきた。屋上の扉を開けて生徒が居ない事を確認すると何も言わずに志田をぶん殴った。


「てめぇ、俺に恨みでもあんのか」

「ってぇなぁ...!!」


志田は切れた口端を親指で拭い、俺に向かってぶん殴り返してくる。殴っては殴り返してきて友梨奈の声も聞こえない程に殴り合いの喧嘩をした。

お互いに息を切らしながらも志田を押し倒して殴り続けると志田も負けじと俺を形勢逆転で俺を押し倒すと殴られ続けられた。


「やめてっ!!」


ようやく我に返った時に友梨奈の叫び声が聞こえる。思わず志田の手が止まると友梨奈は泣いていた。


「やめてよっ...何でっ、何で、こんな事するの...っ

「平手先生の、事が、好きだからだよ。そうなんだろ...志田...」

「そうだよ、お前はちゃんと平手ちゃんを守れよ!風邪まで引かせて、生徒達に誤解されて、平手ちゃん泣いてたんだぞ!!」

「っ...」

「好きならとことん守れよ。お前見てると腹立ってしかたねぇよ...っ!」

「退け...っ!」


胸ぐらを掴む手を振り払うと身体を跨ぐ志田を退かして二人して地面に寝そべる。息も絶え絶えに荒い呼吸を整えると友梨奈は泣いて俺の頭を膝に乗せて抱きしめてきた。


「何が...俺じゃない奴を見つけて幸せになれ、だよ」

「...」

「お前が平手ちゃんを幸せにしてやれよ...ちゃんと守ってやれよ...」

「志田...っ」

「...本当お前ってお人好しだな...」

「...お前もな...志田...」


そう言って志田は起き上がり、殴られた頬を摩った。まるでボクシングでもやったかのように二人して顔が腫れている。


「平手先生、ごめんね?」

「ううんっ、私なら大丈夫だから、二人とも保健室に行こ」


そう言って友梨奈は涙を拭い、俺と志田は立ち上がる。


「平手ちゃん、大した怪我じゃないって」

「だめ。志田先生も行くの」

「...平手ちゃんにそう言われちゃったら行くしかないじゃん...」

「渡邉先生も行くよ」

「ん...」


友梨奈が俺達を引き連れて保健室に行くと守屋先生が二人の顔を見てびっくりした表情を浮かべ、椅子に座らせた。


「いってっ!ちょっと守屋先生もっと優しくして下さいよ〜」

「教師二人が殴り合ってどうすんの。全く。平手先生は渡邉先生処置してあげて」

「はい」


友梨奈はオキシドールを染み込ませたコットンをピンセットでつまみ、切れた口端にぽんぽんと当てられると染みて思わず眉を寄せる。そして絆創膏を貼られた。


「ありがとう、平手先生」

「はい...」


また泣きそうになる友梨奈に優しく笑ってこっそりと手を握って安心させる。すると涙を堪えて小さく微笑んだ。


「はい、終わり」

「守屋先生あざーす」

「ありがとうございました」

「守屋先生、ありがとうございます」

「いいよそんなの。私の仕事だし。さ、職員室に戻って教頭に怒られてきな」


ふふっと笑って守屋先生は俺達を保健室から追い出す。職員室に戻ると教頭先生に俺と志田の顔を見られて驚きながらも案の定こっぴどく怒られた。そして今日はそんな顔で教室には行ってはいけないと言われ早退を余儀なくされる。仕方ないと鞄を持ちデスクに座っていた友梨奈に近寄って耳元で囁いた。


「友梨奈が仕事終わったら迎えに来るから」

「大丈夫...?」

「ん...じゃあまた後で」


微笑んで教頭先生に頭を下げて職員室から出ると志田も一緒に出てくる。


「お前が喧嘩ふっかけなきゃ平手ちゃんとまだいれたのになぁ〜」

「お前な...友梨奈は俺の女だから手ぇ出すんじゃねえぞ」

「分かんね〜ぞ。お前のこと嫌いになって俺のとこに来てくれるかもしんねー、いでっ!!」


頭を思い切り叩いて靴に履き替えると停めてある自分の車に乗り込んだ。志田も自分の車に乗り込むと俺に向かって舌を出して笑うと先に出て行く。


「あいつ...マジでムカつくな...」


ボソッと呟き、エンジンをかけると車を発進させた。



自分の家に帰って、スーツを脱いでソファーに寝そべる。友梨奈の膝枕が恋しくて目を閉じた。志田に言われた事が頭の中で響く。そうだ。全部俺のせいなんだ。なにひとつとして友梨奈を守ってやれなかった。風邪を引いた事も、生徒達の言葉を鵜呑みにして傷付けて。友梨奈に会いたい。今すぐに。抱きしめて好きだよって伝えたい。そう思って眠ってしまった。目が覚めた時には身体にブランケットがかけられていて、キッチンに友梨奈が立っていた。


「友梨奈...」

「ぁ...起きた?」


優しく微笑んで振り向く友梨奈に近寄って背後から抱きしめる。


「迎えに行くって行ったのにいけなくてごめんな」

「良いよ。そんな事」

「友梨奈...」

「ん?」

「大好きだよ...」

「なに、急に」

「んー?言いたくなっただけ」

「変な理佐竣」


クスクス笑って料理を作る友梨奈の手元を見ながら肩に顎を乗せた。


「理佐竣ー、ソファーに座ってて」

「えー、なんでー」

「料理作れないから言ってるの」

「...はぁーい」


友梨奈から身体を離して大人しくソファーに座って背中を眺める。付き合って3カ月。友梨奈との同棲も考えてる。友梨奈はどうだろうか。頷いてくれるのかな。そう思っていると、出来上がった料理をテーブルに置いていく友梨奈に手伝って箸とかご飯を盛ったりして隣で並んで座った。二人で「いただきます」と言ってからご飯を食べ始める。おかずを食べながら聞いてみた。


「友梨奈」

「ん?」

「まださ、付き合って3カ月くらいだけど」

「うん」

「俺達、同棲しない?」

「っ?!けほっ。どうしたの、急に」


友梨奈はひどく驚いて思わず二人の箸が止まる。まだ早過ぎたか。でも真剣に友梨奈を見つめた。


「...理佐竣...本気...?」

「本気じゃなかったら友梨奈に言ってないよ」

「...」


黙り込んだ友梨奈をじっと見つめて返答を待つ。


「...良いの?私で...」

「うん。友梨奈が良い」

「飽きちゃうかもよ?」

「そんな事ないよ」

「......じゃあ、同棲したい...一緒に居たい」


伏し目がちに友梨奈の頬が赤くなったのは気のせいだろうか。


「理佐竣...」


俺の方を見て殴られた顔をそっと触れてキスをしてきた。友梨奈からのキスはあんまりないから俺は目を丸くして、でも嬉しくてふふっと微笑んでキスを受ける。


「...どうして笑ってるの」

「いや?嬉しいなぁって思って」

「殴られておかしくなった?」

「ひど」


クスクスと笑う友梨奈に目を細めていると、「ご飯食べるよ」と再び二人でご飯を食べ始めた。


「引っ越し、いつにするの?」

「早い内にしたいなぁ」

「じゃあ、今月中にする?」

「そうだなぁ。引っ越し代は俺が出すから友梨奈は気にしなくていいよ」

「やだ。それじゃ悪い」

「いいの。気にしなくて」

「やだ」

「友梨奈は頑固だな」

「頑固じゃないの。私が嫌なだけ」

「じゃあ割り勘にしよ?」

「割り勘?んー...分かった」


やっと納得してくれた彼女に微笑んでしばらくしてから「ごちそうさまでした」と言って自分の食器をシンクに持って行って洗っていると友梨奈も食べ終えて持ってくる。


「友梨奈、置いといて。俺洗うから」

「いいよ。私が洗うから」

「いいの。だから置いといて」

「...分かった。じゃあお願いします」


すると友梨奈は俺の背中にぴったりと抱きついてきた。


「んー?甘えん坊?」

「うん」

「ふふっ。可愛いなぁ」

「可愛いくないよ」


食器を洗い終わり、手を拭くと友梨奈の腕の中でくるりと回って抱きしめる。


「あー友梨奈と早く一緒に暮らしたい」

「...私も早く理佐竣と暮らしたい」

「友梨奈、愛してるよ」

「私も...」


擦り寄る友梨奈の髪を撫でてぎゅっと強く抱きしめた。早く友梨奈と暮らしたい。そしていずれは結婚したいけど友梨奈はきっとまだ早いって言いそうだな。なんて思いながらキスをしてまた抱きしめた。





















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リクエストして下さった方、遅くなってしまい申し訳ありません!

お読み下さりありがとうございました。