季節は変わり、友梨奈のお腹はぽっこりと大きくなっていた。先生にいつ産まれてもおかしくないと言われ、友梨奈は通っている病院に入院した。私は産まれてくる赤ちゃん用のおもちゃや服を買って用意し、仕事の合間に着替えやタオルなどを鞄に入れて毎日お見舞いに行く。


「友梨佐ー。...聞こえてるかな?」

「聞こえてるよ。もう、理佐親バカになってる」

「だって私と友梨奈の子供だよ?親バカになるに決まってるでしょ?」


友梨佐という名前は二人で考えて名付けた。友梨奈は二人の名前が入っていると嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。私はクスクス笑って上体をおこしたベッドに横たわっている友梨奈のお腹を撫でる。


「あ、秘書の高梨さんから無事に産まれてきますようにって安産祈願のお守りもらったよ。私からも」


友梨奈にお守りを渡すと嬉しそうに微笑んで二つのお守りを胸に当てた。


「理佐、高梨さんにお礼言っておいてね?あと理佐もね。...もう行く時間じゃない?」

「うん...頑張ってくるからね?」

「ん」


額にキスをして髪を撫でると名残り惜しそうに個室から出て病院を後にすると駐車場に停まっていた車に乗って会社に戻る。車内の中で高梨さんの方を向いた。


「高梨さん、友梨奈がお守りありがとうって」

「いえ、社長と友梨奈さんのお子様ですから」


眼鏡を上げて微笑む高梨さんに私も微笑んだ。会社に着くや否や社長室に閉じこもり、仕事に励む。産まれてくる友梨佐の為、友梨奈の為により一層頑張ってバッグの企画や衣装の企画も部下達とディスカッションしながらやっていく。そして毎日友梨奈のお見舞いに行って、今こんな仕事をしているとか話して友梨奈はにっこり微笑んで話を聞いてくれていた。そんなある日、いつものように仕事をしていると病院から連絡があり、友梨奈が破水したという報告を受け、慌てて会社の車で病院へと駆けつけた。個室に入ると友梨奈が苦しそうに顔を歪め、陣痛に耐えていた。


「友梨奈っ」

「っ、理佐...っ」


友梨奈の手を強く握って助産師さんが友梨奈の腰を何度も何度もさすっている。


「友梨奈ちゃん、大丈夫だからねー」

「は、い...っ」


時間が経つにつれて陣痛の感覚も狭まり強くなっていく。それでも友梨奈は涙一つ流す事なく、私の手を強くぎゅっと握った。どれだけ時間が経っただろうか。そんな事も忘れるほどに時間が経過していた。


「友梨奈ちゃん、じゃあ分娩室に行こうか」

「っ、はい...っ」


お腹を支えて辛そうにゆっくり歩く友梨奈の後をついて行く。私立ち合いの元、分娩台に座る友梨奈の手を握ってあげる事しか出来なくて歯痒い。子宮口が全開になるとラマーズ法で先生が「いきんでー」、「はい、休んでー」と繰り返し、時計を見るともう14時間経過していた。


「頭見えてきたよー、じゃあ最後にいきんでっ」

「ーーっ!!」


友梨奈が最後にいきむと友梨佐が産まれ、小さな産声をあげて先生が「可愛い女の子だよー」と友梨佐を取り上げて友梨奈の腕の中に抱かせてくれた。初めて対面した友梨佐に私達は嬉しさでいっぱいで友梨奈の髪を撫でる。


「じゃあ理佐さん、廊下で待っていて?」

「はい...っ」


廊下に出ると数分後、友梨奈は車椅子に乗せられて分娩室から出てきた。私は立ち上がり友梨奈と一緒に個室に入る。


「じゃあこれから赤ちゃんの体重とか測って、友梨奈ちゃんその間ご飯持ってくるね」


と、助産師さんは微笑んで部屋を後にした。


「友梨奈、着替える?」

「ん...」


鞄から下着と着替えを出して一度立たせて着せていくと車椅子から抱き抱えてベッドに寝かせる。私はベッド傍に座って髪を撫でた。


「友梨奈...頑張ってくれてありがとう」

「だって、理佐との赤ちゃんだもん...」


疲れているのに私の手を握ってふんわり微笑む友梨奈の頬にキスをする。二人の時間を過ごしていると扉が開いてトレーに乗った豪華な食事を配膳係の人が持ってきてテーブルに置いてくれた。


「しんどいと思うけどしっかり食べて体力つけてね」

「はい...ありがとうございます」


配膳係の人が出て行くと友梨奈はゆっくり起き上がり、一人掛けのソファーに座って、私は友梨奈の近くに座る。


「ぁ...グリンピース入ってる...」

「友梨奈ってグリンピースだめなの?」

「うん...」

「じゃあグリンピースだけ食べてあげる」

「理佐、好き」


ふふっと笑ってご飯を食べる友梨奈を優しく見守ると、沐浴を済ませて服を着せられた友梨佐が助産師さんに抱かれてやってきた。


「理佐さん、抱いてみる?」

「はい...っ」


友梨佐を大切に抱き抱えて寝顔を見つめると友梨奈そっくりで思わず目を細める。


「寝顔友梨奈にそっくり...」

「嘘...理佐似じゃない?」

「ううん、そっくりだよ?」


ベッドにそっと寝かせて友梨佐を見つめ、小さな手に人差し指を置くときゅっと握ってきてあまりの可愛さに微笑んで寝そべり、白い肌を撫でた。そんな姿を見た助産師さんはにっこり微笑み「あとは三人で幸せな時間を過ごしてね」と言って個室から出て行った。友梨奈はゆっくりとご飯を食べて私達を見ながらふふっと笑う。


「無事に産まれてきてくれて良かった...」

「理佐と高梨さんのお守りのおかげかも」

「そうかな...」

「きっとそう...理佐、グリンピース食べて?」

「ん、良いよ」


友梨佐を起こさないようにゆっくりベッドから下り、スープに入っているグリンピースを食べると今度は友梨奈がベッドに座って友梨佐を抱く。


「私達の元に産まれてきてくれてありがとう...」


母親の顔になって優しく友梨佐の頬を撫でる。その光景に目を細めた。


「友梨奈、グリンピース食べたよ」

「ありがとう、理佐」

「でも、これからはちゃんとグリンピース食べなきゃね?」

「えー...」

「友梨佐が食べなくなったらどうするの」

「...それは困る」

「でしょ?はい、スープ飲んで?」

「はーい」


友梨奈は友梨佐をベビーベッドに寝かせるとスープを飲み干す。すやすや眠っている友梨佐を携帯で撮ると私も後で撮ろうと言ってご飯を食べ終えた友梨奈を私は優しく抱きしめ、ベッドに寝かせて腕枕をした。


「久しぶり...理佐の腕枕...」

「そうだね...」


疲れたのか私に擦り寄り首筋に顔を埋めるとすぐに寝息をたて始める。私も友梨奈の髪に鼻先を埋め、久しぶりの友梨奈の香りに安心して目を閉じた。

翌朝、友梨佐の泣き声で目が覚めて友梨奈も目を覚ますと、扉がとんとんと叩く音がして扉を開けると助産師さんが微笑んで「おはようございます」と言って中へと入って友梨奈に授乳の仕方を教える為に友梨佐に近付く。


「友梨奈ちゃん、友梨佐ちゃん連れて授乳の仕方教えてあげるねー」

「はい」


友梨奈は友梨佐を抱き上げて助産師さんに連れられて部屋を出て行った。待ってる間、高梨さんにLINEをして「無事に産まれました」と報告すると「良かったです。社長、これからはより一層仕事に励んでくださいね。おめでとうございます」とすぐに返事が返ってきて思わず笑った。数十分後、友梨奈と友梨佐が戻ってきてベッドに友梨佐を寝かせる。


「授乳上手く出来た?」

「うん、あとげっぷのやり方とかおむつの仕方も教えてもらった」

「私にも教えてね」

「うん」


お腹もおむつも替えて、眠たくなったか欠伸をして身体にブランケットを掛けて優しくお腹を叩くとすぐに寝息をたて始めた。その姿にクスクスと笑った。


「友梨奈とそっくり」

「ん?なにが?」

「すぐ寝るところ」

「そうかな?」

「うん」

「...友梨奈と友梨佐を一生守っていくからね」

「理佐...」


友梨奈の頬を撫でて唇にキスをする。


「友梨奈、私達って赤い糸で結ばれてたんじゃないかな」

「?」

「初めて助けたことも、一目惚れしたことも。友梨佐が産まれたことも、意味があってのことだと思う」

「...理佐」

「だから、ずっと側にいてね」

「っ...うんっ」

「泣き虫...」






私の愛しい人は、赤い運命という糸で繋がれていた。


これから先、明るい未来が待っている。


だから友梨奈、何重にも括られた赤い糸が切れる事なく一緒に居よう。


私達の宝物と共に。
















ーーーーーー

リクエストして下さった方、ありがとうございます!遅くなって申し訳ありません!

お読み下さりありがとうございました。