仕事仲間との飲み会が終わり、深夜0時を回っていた。同僚に車で送るよと言われ、その言葉に甘えさせてもらって助手席に座った。

それがいけなかった。

マンションに着いてくだらない話をして楽しげに笑ってシートベルトを外した時に「渡邉」と呼ばれて不意に相手の方を見た瞬間キスをされた。一瞬なにが起きたのか分からなかった。

「っ!やっ!」

相手の身体を突き放して助手席から外に出ると、たまたま車の正面に友梨奈がコンビニ袋をぶら下げこっちを見て立っていて唖然としていたがズカズカと歩み寄って運転手側のドアを強く蹴った。

「うわっ!なんだこいつ!」

私は慌てて友梨奈の手を引っ張ってマンションのエントランスへと走り、部屋の前まで来ると鍵を開けて友梨奈と一緒に部屋の中に入って施錠する。だけど掴んでいた手を友梨奈は振り解き、乱雑にコンビニの袋をテーブルに置いてソファーに座った。

「友梨奈...」
「...」

口もきかずに友梨奈は立ち上がってお風呂を張りに行き、再びソファーに座る。私はとりあえずスーツを脱ぎに寝室に行って部屋着に着替えたが、いつもなら側にいるはずの友梨奈はソファーにずっと座っていた。私はソファーに近寄ってフードを被ったままの友梨奈を見つめる。

「...友梨奈...ごめん...」
「何が?」

明らかに怒っている友梨奈に何にも言えずにいると友梨奈は目線を合わせてはくれなかった。どうしたら良いのか分からず立ち尽くしていると「座れば?」と言われて友梨奈の隣におずおずと座った。無言の中で気まずい空気の中で最初に口を開いたのは友梨奈からだった。

「気持ち良かった?」
「ぇ...?」
「男とのキス」
「...なんで、そんな事言うの」
「本来なら男と付き合うのが当然だもんね。楽しげに笑って話して」
「友梨奈、違、」
「なにが違うの...私は17だし、お金もないし力もないし、大人の男みたいに地位も名誉もなにもないし」

嘲笑うように笑って言葉を紡ぐ友梨奈を茫然としてじわじわと目が潤んできてなにも言えなかった。すると友梨奈は立ち上がり玄関先に向かってスニーカーを履いて家から出て行ってしまうのを引き止められなかった。ぽたぽたと頬に涙が伝う。

私が甘かった。タクシーで帰ってくる事もできたのに。

友梨奈を深く傷付けて。

まだ外は寒いのにお風呂のお湯を止めて友梨奈を探しに家から飛び出した。

辺りを探し回るが見当たらない。

「友梨奈っ、何処に行っちゃったの...っ」

白い息を吐き泣きながら再び友梨奈を探した。

友梨奈、友梨奈、お願いだから戻ってきて。

やがてしとしとと雨が降り出してきて濡れるのも構わず、必死に友梨奈を探すと初めて出会ったコンビニの隅の方で見覚えのある黒いフードを被って膝を抱え座り込んでいる人を見つけた。思わず駆け寄って震える声で名前を呼ぶ。それでも顔を上げない。友梨奈だ。

「友梨奈...」

しゃがみ込んで友梨奈を見つめる。
肩を震わせて更に身を縮める友梨奈の冷たい手に手を重ね握った。

「...家に帰ろう?」

首を左右に振る友梨奈を抱きしめた。

「友梨奈...話そう?」
「...話す事なんて、ない...」
「友梨奈、お願いだから...」

抱き締めて肩に額をつけて涙を溢す。
こんな事で友梨奈との関係をだめにしたくない。

「友梨奈...話したい。だからお願い、家に帰ろう?」
「...」

重ねた手を握ると友梨奈がきゅっと握り返してくれた。私が立ち上がると友梨奈も立ち上がる。そしてマンションへと歩き出す。ずぶ濡れになった私に友梨奈は自分のジッパー付きの服を肩にかけた。

「友梨奈が濡れちゃ、」
「私は濡れても平気だから」

視線を逸らされたまま呟く友梨奈に胸が高鳴る。
相手を思いやれる優しい子なんだ。だから私は好きになった。

「ありがとう...」

長い黒のロングTシャツを着ている友梨奈は袖で自分の涙を拭って鼻を啜る。やっと見えてきたマンションに早足で歩き、エントランスを通って部屋の中に友梨奈と入り施錠をした。

「...理佐...家の鍵かけないできたの...?」
「うん...友梨奈の方が大事だから...」

そう言って手を繋いだまま脱衣所に行き、濡れた服を洗濯機に入れていく。友梨奈も服を脱いで入れると私はブラジャーを着けてなかったから寝室からナイトブラと下着と部屋着を持つと友梨奈もやってきて部屋着と下着を箪笥から出す。と、くしゃみをする私の手を引いて再び脱衣所に向かって台に私の服と友梨奈の服を置き浴室に入った。
シャワーを取って温かくなると友梨奈にかけようとするけど、逆に椅子に座らせられて頭からお湯をかけられる。

「風邪引かれちゃ困るから」

言葉は冷たくても友梨奈の優しさに目を潤ませて閉じると私がいつも友梨奈の髪を洗う様に洗ってくれた。







ーーーーーー
二人で温かい湯船に浸かり、でも友梨奈は視線をまだ外したままでいつもの友梨奈じゃなかった。

「ねぇ、友梨奈...私が最初に言った事、覚えてる?」
「...最初...?」
「...男性は恋愛対象じゃないって」
「...覚えてるよ」
「じゃあ...なんであんな言葉、言ったの...?」

友梨奈は目を伏せて唇を噛み締める。でも、言葉を紡ぎ始めた。

「大人の男と楽しげに笑って話してる姿、初めて見て、悔しくて、ムカついて...私は、あんな顔させられな、」
「友梨奈、私友梨奈といると楽しいよ?それに笑ってるでしょ?」
「...でも、」

お湯を波立たせて友梨奈に近付くと言葉を塞ぐ様に唇にキスをする。角度を変えてゆっくり何度も唇を重ねた。キスを止めるとやっと友梨奈が私を見て抱き締めてくる。

「理佐、理佐」
「うん...」

私も抱き締めて微笑んだ。啜り泣く友梨奈が愛しくて顔を覗き込む。

友梨奈の涙は綺麗だった。

「ごめんね...不安にさせちゃって...」
「んっ、ひっく、理佐ぁ...」

強く抱きつく友梨奈に困った様に微笑んで包み込む様に抱き締めた。しばらくそうしていると友梨奈は泣き止み、身体を離す。

「私は友梨奈の事、手放す気なんてないよ」
「...理佐...」
「それよりも、男の人のキス、忘れさせて?」
「...うん」

私達はまた唇を重ねた。

何度も何度も。
















ーーーーーー
「このエロガキ」
「んふふ、でも理佐だって嫌がってなかったじゃん」

お風呂で身体を重ねるなんて思ってなかったから顔を真っ赤にさせて二人でベッドに寝そべって呟いた。でもいつものクソガキ友梨奈に戻ってくれて嬉しかった。

「明日休みだから二人でずっといよう?」
「うん」
「友梨奈...好きだよ」
「私も、理佐が好き」

リモコンで電気を消し、腕枕をして、友梨奈を抱き締めて鼻先を髪に埋めた。友梨奈もしっかりと私に抱きつく。
そして二人で眠りについた。










笑って泣いて見つめ合って、抱き締め合って愛し合って。


そんな二人でいよう。

ね?友梨奈。

私が守っていくから。





















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リクエストして下さった方、お待たせしてしまいすみません!
お読み下さりありがとうございました。