私は天涯孤独だ。

両親の顔も知らないし、保護施設で育ったから愛情なんてものは分かるはずもなかった。
でもそんな私を好きと言ってくれる人がいた。
しかも今付き合ってる。それが高二の先輩。

齋藤飛鳥さん。

今日もまた一人、学校の屋上に出て建物の階段を登り制服の上にジッパー付きのパーカーのフードを目深に被って寝そべっていると階段を登る音がする。

「友梨奈ちゃん、またこんなとこ居て」
「...飛鳥さんこそ...何でいつも来るんですか」
「付き合ってるんだから来るに決まってるでしょ」

フードを目深に被ったまま寝そべっていると頭を持ち上げられて膝枕をされた。

「...飛鳥さ、がふっ!」

口を開けた瞬間にサンドイッチを強引に入れられてしばらく固まる。毎度の事だ。優しいのか優しくないのか分からない。

「友梨奈ちゃんご飯食べないからいけないんだよ」
「...」

そう言って飛鳥さんもサンドイッチを食べていて、仕方がないから頬をぱんぱんにして咀嚼しているとフードを下げられて飛鳥さんが微笑んで見下ろしていた。

「友梨奈ちゃん可愛い〜」
「かふぁいふないでふ..,」

もぐもぐと口を動かして言うと更に可愛い〜と言われ、まるでチョークスリーパーをかけられているかのように首を締め付けられて顔を抱かれ、サンドイッチが飲み込めずジタバタともがいて飛鳥さんの腕を叩く。離れた腕にやっとサンドイッチを飲み込んで起き上がった。

「あ、ごめん」
「っ、けほっ、...飛鳥さん...殺す気ですか...」
「わざとじゃないよ。ほんとごめん」

手を合わせて謝る飛鳥さんに苦笑すると飛鳥さんが抱きついてくる。

「もう良いですよ...」
「友梨奈ちゃん大好き」

身体を離して私の顔をにこにこと笑って見つめる。綺麗な顔立ちしてるのに私のどこが良いんだろう。なんて思っていると、顔の前に影が出来て飛鳥さんの唇と私の唇が重なる。呆然としている私の表情を見て飛鳥さんはふふっと微笑んだ。
きっと今の私の顔は真っ赤になってるだろうな。
でも私にはまだ好きという感情が分からないままだった。

「今日家に来る?」
「え...あ、はい...」

まだ数えるくらいしか行ってない飛鳥さんの家。

「あの...遅く、」
「泊まってく?」
「えっ、...でも...」
「迷惑じゃないかって思ってる?」
「...はい...」
「友梨奈ちゃんと飛鳥は付き合ってるの。だから泊まりに来て?」
「...はい......あの、電話かけても良いですか?」
「うん、いいよ」

携帯を取り出し、飛鳥さんから離れて施設に電話をかける。すると職員さんが出てその旨を伝えるといいよと言ってくれてほっとした。

「施設の人、なんて?」
「いいよって言ってました」

飛鳥さんには私が保護施設にいる事を話してあって、理解してくれている。

「友梨奈ちゃん、今日パジャマ買いに行こ」
「ぇ...いいですよっ、そんな...」
「だめー。行くの」
「...はい...」

強く断れずに渋々頷くと飛鳥さんは私に近寄って頭を撫でた。

「友梨奈ちゃん可愛い〜っ」
「...可愛くないです...」

伏し目がちに呟くと顔を覗き込んでくる。

「飛鳥さんの方が可愛いです...」
「そう?飛鳥は友梨奈ちゃんの方が可愛いと思うよ?」

可愛いなんて言うの、飛鳥さんくらいだ。
すると、チャイムの音が鳴り、戻ろう?と飛鳥さんが言ったので二人で階段を降りて屋上の扉を開けて屋内に入った。

「じゃあ友梨奈ちゃん、後で迎えに行くからね」
「はい」

階下を下りて微笑んで手を振る飛鳥さんにつられて手を振って自分の教室へと戻った。











放課後、パーカーのフードを被り机に突っ伏しているとガラッと引き戸が開く方を見つめる。飛鳥さんが私を見て微笑んで立っていた。

「友梨奈ちゃん、パジャマ買いに行くよ」
「...はい」

身体を起こして立ち上がり、リュックを背負って飛鳥さんに近付くと手を握られた。

「行こ?」

可愛らしい笑顔で見つめられて一瞬ドキッとした。それが恋とも知らずに。

上履きをスニーカーに履き替えて飛鳥さんがまた手を繋いできて恥ずかしさで足元を見つめながら歩く。何度も手を繋いで歩いているけど未だに慣れない。

すると、3階から飛鳥さんを呼ぶ声が聞こえてきて見上げた飛鳥さんは気まずそうな顔をして逃げる様に私の手を引っ張って早足で校門を出た。

「あーあ、逃げちゃったー」
「飛鳥、手繋いでたよね?今」
「うん、女の子だよね?」
「いくちゃん...ここ女子高だよ」
「...あ、そうだった」

上級生がそんな会話をしているとは知らず、私と飛鳥さんは洋服屋に行ってパジャマを選んでいた。

「...飛鳥さん...何でも良いですから...」
「だめ。友梨奈ちゃんの似合うお泊まりセット置いておきたいの。あ、下着も買わなきゃ」
「...」

もこもこのコツメカワウソのパジャマとハリネズミのパジャマを私に当てながらうーん...と飛鳥さんは迷ってたけどすぐにカゴの中に入れて今度は下着コーナーに向かう飛鳥さんを追いかける。

「友梨奈ちゃん黒似合うよね」
「いや...それは、ちょっと...」

セクシーなショーツに思わず目のやり場に困ってしどろもどろになってしまう。

「ふ、普通の黒で良いですから...っ」
「やだ。飛鳥はこれがいいの」

私に決定権は無く、飛鳥さんはカゴにポイポイと下着やブラジャーを入れていく。部屋着もいるよね、と言われてどんどん服やズボンも入れていき大量の荷物になってしまった。それを飛鳥さんはレジに持っていき、私は慌てて背負っていたリュックを下ろして財布を出すと飛鳥さんが止める。

「飛鳥からのプレゼント」
「ぇ...っ、でも...、」
「良いの。友梨奈ちゃんは気にしないの」
「...はい...ありがとう...ございます...」

財布を戻してリュックを背負うとせめて荷物だけは、と会計が終わって詰められた袋を両手で持ってお店を出た。

「友梨奈ちゃん一個ちょうだい?」
「私が持ちますから大丈夫です」
「いいのに。気にしなくて」
「気にします...っ」

両手に大荷物を抱えながら飛鳥さんのマンションへと歩いていると、そんな私を見て飛鳥さんはふふっと笑う。

「...どうかしました...?」
「ううん、可愛いなぁ〜って思って」
「...可愛いって言うの、飛鳥さんくらいですよ」
「そうなの?だとしたら嬉しいな」
「...なんでですか?」
「だって可愛いって思ってるの飛鳥だけだなんて、独り占めしてるって事だから」
「......よく、分からないですけど...」
「飛鳥だけ分かってれば良いの」

嬉しそうな飛鳥さんにどう反応すれば良いのか分からず、先を歩く飛鳥さんの背中を見つめた。


数分後、マンションに着いて鍵を開けてドアを支えてくれる飛鳥さんにお邪魔します、と言って中へと入った。リビングに続く扉を開けると、いかにも女の子らしい感じの部屋に落ち着かずどこに座ったらいいのか分からなくて立ち尽くしていると飛鳥さんがソファーに座って?と言ってくれたので荷物とリュックを置いて大人しくソファーに座る。

「友梨奈ちゃん、勝手に冷蔵庫からジュース出して飲んでて」
「...はい...じゃあ、頂きます...」

立ち上がって冷蔵庫を開けると紙パックのリンゴジュースがあって、それを手に取ると再びソファーに座った。その間、飛鳥さんは袋から出した服のタグを切って畳んでいくのをリンゴジュースを飲みながら眺める。

「これでいつでも友梨奈ちゃん泊まりに来れるねっ」

タグを切りながらどこか楽しげにしてる飛鳥さんに私も自然と笑みが溢れる。

「飛鳥さん」
「ん?」
「友梨奈で良いですよ。私、後輩だし...」
「友梨奈ちゃんは友梨奈ちゃんのままがいいの」
「...でも...」
「じゃあ、飛鳥の事あしゅって呼べる?」
「...呼べません...」
「ふふっ。でしょ?」

悪戯っぽく微笑む飛鳥さんに私は完全に振り回されてる。でも...嫌いじゃない。
飛鳥さんが笑う姿が好きだ。
(...ん...?...好き...?)
一人ぼんやりしているといつの間にか飛鳥さんが前にしゃがんでいて驚く。

「どうしたの?友梨奈ちゃん。お腹空いた?」
「あ、いや...何でもないです...お腹も特に空いてないです...」
「あーまた始まった。だめだよ。ご飯食べなくちゃ。服片付けたらご飯食べよ?友梨奈ちゃんも手伝って?」
「はい」

買ってくれた服を持って飛鳥さんの後を追いかけ、寝室に入るとクローゼットを開ける飛鳥さんが今日着る物と分けてくれて私が抱えていた服を収納ボックスに入れて扉を閉めた。

「友梨奈ちゃん、今日これ着てね?」

セミダブルのベッドに置かれたもこもこのコツメカワウソのパジャマと黒い下着をぽんぽんと叩いて私を微笑んで見つめる。

「...はい...ありがとうございます」
「じゃあご飯食べよっか」
「あ、私も手伝います」
「本当?ありがとう〜」

抱き締められて背中に腕をまわしたらいいのか手が彷徨うと顔を見上げてくる飛鳥さんは背伸びをしてキスをしてきた。

「っ...」
「友梨奈ちゃん大好き」
「...ありがとう、ございます...」

可愛らしい表情で微笑む飛鳥さんに胸が高まる。
(好きって、ドキドキする事?)
考え込む私の手を引っ張って二人でキッチンに立って一緒に料理を作り始めた。






ほぼ私が料理を作ったけど飛鳥さんは美味しい美味しいと言って食べてくれて嬉しかった。
後片付けをしてお皿を洗っていると飛鳥さんが背後から抱きついてくるのに心臓の辺りがキューッとなる。恥ずかしくてなにも言えずに黙々と洗って最後のお皿を水切りカゴに入れた。

「友梨奈ちゃんちょっと待っててね」
「はい」

私から離れて壁に付いたボタンを押すと機械音のアナウンスがする。

「友梨奈ちゃん、おいで?」

ソファーに座った飛鳥さんは隣をぽんぽんと叩くので大人しく隣に座ると肩を抱かれてそのまま飛鳥さんの膝に頭を乗せる恰好になった。

「...飛鳥さん...聞いてもいいですか...?」
「うん?なあに?」
「...好きって、どんな気持ちですか...?」
「うーん...ドキドキしたり、心臓がキューってなったり、あとはー、一緒にいて楽しいなって思ったり」

優しく微笑んで髪を撫でながら私を見つめる。
(私...飛鳥さんの事、好きなんだ)
高鳴る胸の鼓動にようやく気付いた。

「飛鳥さん...、...きです...っ」
「ぇ?もう一回言って?」
「だから......好き...です...」

飛鳥さんは私の身体を起こしてじっと見つめる。
私は顔を真っ赤にさせてチラッと飛鳥さんを見た。

「飛鳥の事、ちゃんと見て言って?」
「っ...、飛鳥さんの事、...好きです」

眉を下げて飛鳥さんの顔を見つめて震えてる声で呟くと飛鳥さんは嬉しそうに微笑んでぎゅっと抱きついてきた。

「やっと言ってくれた...」
「...ごめんなさい、飛鳥さん...気付くのが遅くなって...」
「ううん、いいの。飛鳥、待ってるって言ったじゃんっ。それだけでも嬉しいっ」

身体を離した飛鳥さんはにっこりはにかんでゆっくりと唇を重ねてくる。
(...飛鳥さんの表情、可愛い...)
なんて思いながら私も唇を押し当てた。




唇を離し二人して額を合わせて微笑んでいると機械音のアナウンスが鳴り、飛鳥さんは立ち上がって私の手を取る。

「友梨奈ちゃん、一緒にお風呂入ろ」
「っ、え!?」
「ほら、行くよっ」

飛鳥さんは半ば強制的に寝室に私を引っ張って連れて行き、制服を脱ぎだす。

「友梨奈ちゃんも脱いで」
「っ、...はい...」

いっときの恥だと思い、制服を脱いで下着姿になった。飛鳥さんは自分の制服と私のをハンガーに掛けてぶら下げると私にパジャマと下着を渡して
、飛鳥さんも自分のパジャマと下着を抱えた。

「友梨奈ちゃん行くよー」
「はい...っ」

脱衣所に着くと飛鳥さんはパジャマを置き、下着とブラジャーを鼻歌交じりで脱いで洗濯機の中に入れる。顔を赤くして飛鳥さんの置いたパジャマの上に自分のを置いて同じ様に下着とブラジャーを外して脱いだ。

「友梨奈ちゃんのも洗濯機の中に入れていいよ」
「ぁ、はい...」

失礼します、と心の中で思いながら下着類を入れて飛鳥さんと一緒に浴室内に入った。












ーーーーーー
二人でお風呂から出て、飛鳥さんが髪を乾かしてる間、私はタオルで髪をがしがしと拭きながらソファーに座って飛鳥さんを待つ。
(それにしても、飛鳥さんの身体...綺麗だったなぁ)
なんて思った自分が恥ずかしくなって頬を赤らめた。しばらく待っていると段々と睡魔に襲われてこっくり、こっくり、と頭が揺れる。そしてソファーにもたれていつの間にか眠ってしまった。

「ちゃん、友梨奈ちゃん」
「っ...?」
「髪乾かすよ。ソファーから下りてマットに座って?」
「ん...」

半分寝ぼけながらソファーから下りてマットに座ると飛鳥さんが代わりにソファーに座り髪に温風を当てて手ぐしで乾かす。その度に起きていなくちゃと思うけどあまりの眠たさに頭が揺れる。タオルである程度乾かしたからすぐに乾いてドライヤーの音が止むと飛鳥さんが濡れたタオルと共に片付けに行った。

「友梨奈ちゃん、ベッド行こ?」
「ん...はい...」

眠たい目を擦って飛鳥さんに支えられながら寝室に行くとベッドに横たわる。布団と毛布を身体にかけられてすやすや寝息を立て始めると飛鳥さんは私の顔を胸に抱いて、可愛い〜と抱き締めた。

「飛鳥さん...好き...」

無意識にそう言って抱きついて寝ると、飛鳥さんは嬉しそうに笑い、電気をリモコンで消して私を包み込む様に抱き締めて眠りについた。










翌朝、飛鳥さんと手を繋ぎ、片方の手をポケットに入れてフードを被って学校に着くと「あしゅ〜、ちょっときてー」と上級生に飛鳥さんが呼ばれ、手を離そうとするとぎゅっと手に力が込められた。



飛鳥さんと共に生徒会室に向かうと上級生2人が私と飛鳥さんを見てニヤニヤと笑いながら見つめている。

「飛鳥、どうして隠してたの?」

生徒会長の白石先輩が微笑んで私達を見て、副会長の生田先輩もにっこりと微笑んでいた。

「いつから?二人とも」
「やだ。言わない」

白石先輩の問いかけに飛鳥さんはぷいっと顔を逸らして答えない。

「確か、平手...友梨奈ちゃんだよね?」

生田先輩が私に近付いて尋ねてきて「はい...」と頷く。

「知らなかった〜。二人ともそんな関係だったなんて。ねぇねぇ、どっちから告白したの〜?」
「飛鳥がまさか平手ちゃんと付き合ってるなんてね〜」
「〜っ、違うってば!」
「じゃあその繋いでる手はなに?」

ニヤつく二人に私はおどおどして手を離そうとするが飛鳥さんは私の手を後ろに隠して膨れっ面をして白石さんを見つめた。

「飛鳥、言わないと質問責めにするよ?」
「〜っ、もう!だから二人にはバレたくなかったのに!」
「言わないあしゅが悪いんだよー」
「だって言ったら絶対からかうじゃん!飛鳥の事!」

顔を真っ赤にした飛鳥さんを初めて見て、ふふっと思わず小さく笑ってしまった。

「友梨奈ちゃんまで!」

頬を膨らませて怒る飛鳥さんにクスクスと笑うと
白石先輩達も笑って和やかな雰囲気の中飛鳥さんは顔を更に真っ赤にさせて、

「だから言いたくなかったのにー!!」

飛鳥さんの声が廊下中まで響き渡った。













その後、会長と副会長に質問責めにあったのは言うまでもなく、飛鳥さんにこんな一面があったとは知りもしなかったからびっくりしたけど更に可愛いと思う私であった。














END
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リクエストして下さった方、大変お待たせしました!イメージと違ってたら申し訳ありません!
お読み下さりありがとうございました。