友梨奈side
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午後の授業は身が入らなくて理佐に心配された。
私は安心させる様に微笑む。
するとボードを取られて(無理しないの)と見透かされていた。

「おい、渡邉ー何やってんだ」
「何もやってないですー土田せんせー」
「次何かやったら往復ビンタな」

クラスメイト達が笑っている。
そんな...理佐が往復ビンタされるのは、と思ったら(土田せんせーの冗談だよ)と書いて見せてきた。
ほっとしていると「平手ー」と土田先生に当てられた。

邑の連合体の現在確認できる中国最古の王朝といえば?分かるか?」

立ち上がって黒板に向かい、チョークを持ってすらすらと答えを書いた。

「やるじゃないか平手」

恥ずかしくて早々に席に戻った。
(やるじゃん友梨奈)
理佐はボードを見せてにっこり微笑む。
土田先生の授業は楽しくてクラスメイト達も笑っていた。




あっという間に時間は過ぎ、放課後になるとバッグを持つ。
理佐もバッグを持って手を握ってきた。

「あれ、今日は二人で帰るの?」

こばが握った手を見つめて呟いた。

「うん、友梨奈の叔父さんに会ってくる」
「あー、今日の事か。気をつけて帰ってね」
「こばもね

こばに手を振り、理佐と一緒に下駄箱に行くと靴に履き替える。

「友梨奈、今日家に帰る?」
「?」
「明日学校休みでしょ。だから泊まりに来ないかなぁって」
「っ」

こくこくと頷いて口パクで「泊まりたい」と伝えた。

「じゃあ叔父さんに許可を得ないとね」

また理佐と一緒にいられる。
はにかみそうになるのを堪えてとことこと付いていった。
理佐の手を引いて立ち止まると理佐が振り返った。

(理佐もう道覚えたの?)

口パクで伝えると「うん」と頷いて微笑み、行こう、とまた歩き出した。
しばらくして私の家が見えてきた。

「叔父さんいる?」
「っ」

歩みながらこくこく頷くと自宅に着いた。
鍵を開けて中に入ると理佐を招き入れる。
スリッパを用意してリビングに行くと叔父さんが私達に気付き挨拶をした。

「昨日友梨奈を泊めてくれた子かい?」
「っ」

こくんと頷いて微笑むと理佐が頭を下げる。

「友梨奈と同じクラスの渡邉理佐と言います」
「理佐ちゃん、どうも友梨奈の叔父です」

叔父さんも頭を下げて理佐に微笑む。
椅子に座って、と促されバッグを置いて理佐と隣同士で座った。

「コーヒー飲めるかい?ブラック?」
「はい」

コーヒーを入れたカップを理佐の前に置き、「友梨奈はこれな」とサイダーを出されて理佐はクスクス笑った。バッグからボードを出して(なんで笑うの)と頬を膨らませた。

「だって友梨奈コーヒー飲めないじゃないか」

叔父さんまでクスクス笑ってる。

(甘いコーヒーなら飲めるもん)

「友梨奈はサイダーにしておきなさい」

理佐に宥められるとボードをテーブルに置いてサイダーのフタを開けて飲んだ。

「頂きます」

と理佐はコーヒーを口にする。と、理佐が叔父さんを見て話を切り出した。

「...友梨奈の叔父さん、今日の朝、昨日の人に待ち伏せされていたんです」
「え!?何かされたかい?」
「友梨奈を背後から抱き締めて戻って来いよって言ってました」
「...まだあいつ友梨奈の事を狙っているのか...」
「私がすぐに110番して警察の人達も来てくれたんですけど、警察官の人を殴って公務執行妨害で逮捕されました」
「それなら良かった...」
「でも勾留しておくのは早くて10日間みたいなんです。このままじゃ友梨奈に何かあってからじゃ遅いと思うんです」
「私の方も調べていてね、弁護士に相談して接近禁止命令をしようと思っていたところなんだ」
「早くしてもらえないでしょうか」

私は二人の会話をじっと聞いていた。

「それにあの人友梨奈をDVしていないって言ったらしいんです」
「...あの男...」

叔父さんは握り拳をして怒っている。

「叔父さんは友梨奈のやけどの跡見ましたか?」
「ああ...妹から電話があって家に行ったらバスタブの中で友梨奈が意識を失っていてね、慌てて救急車を呼んだ時に見たんだ」
「じゃあ左手首のタバコの跡も...?」
「うん、理佐ちゃんの言う通りだよ。その時に医師から虐待ではないかと言われて妹に問い詰めたんだ。だけど妹は虐待じゃないと言ったんだ」
「それで友梨奈を...?」
「ああ...姪を守る為に引き取ったんだ」

私は当時の事を思い出して鼻を啜った。
それに気付いた理佐が私の手を握る。

「明日にでも弁護士のところに行こうと思っていたんだ」
「お願いします。早くしてあげてください」

理佐は頭を下げると叔父さんはほっとした表情を浮かべていた。

「友梨奈、良い友達が出来たな」
「っ」

こくこく頷いて微笑むと理佐も私の方を見て微笑んだ。

「あと、叔父さんにお願いがあるんですけど」
「ん?なんだい?」
「友梨奈を家に泊まらせても良いですか?」
「友梨奈はどうしたいんだい?

理佐の手を離して字を書くと叔父さんに見せた。
(泊まりに行きたい!)
それを見た叔父さんは優しく微笑んで「友梨奈のしたい事をしなさい」と言ってくれた。
私は嬉しくて、椅子から立ち上がると(着替えとか持ってくる!)と理佐に見せて自室に向かった。
理佐はふふっと笑ってコーヒーを飲むと叔父さんが理佐に言った。

「理佐ちゃん、友梨奈と友達になってくれてありがとう」
「友梨奈良い子ですから」
「あの子が16の時に母親が再婚してDVを受けたせいで声が出せなくなったんだ。それまで仲良かった友達はみんな離れて行ってしまった。だからせめて理佐ちゃん、友梨奈とずっと友達で居てやって欲しい」
「叔父さん、私友梨奈と同じでDV受けていたんです
「?!...そうか理佐ちゃんもか...」
「だから友梨奈の事大事にします」
「ありがとう、理佐ちゃん」

叔父さんと微笑んでいると何やら騒がしい音がして友梨奈がリビングに戻ってきた。
大きなキャリーケースを持って準備万端な友梨奈にクスクスと笑う。

「友梨奈そんなに荷物持って大丈夫?」
「っ」

私はこくんと頷いて微笑むとサイダーを飲んだ。

「ところで理佐ちゃん、友梨奈が家に行っても大丈夫なのかい?」
「はい。私一人暮らしなんで」
「そうか。それなら安心だ。友梨奈、迷惑かけちゃダメだぞ?」

こくこく頷いてサイダーとボードをバッグに入れて肩に掛けた。
理佐はコーヒーを飲み干して「ごちそうさまでした」とお礼を言ってバッグを持つ。

玄関先まで叔父さんは見送りに来てくれて「気を付けて帰りなさい」と言ってくれた。
理佐は頭を下げて玄関を開けた。
私は叔父さんに手を振って理佐の後に続く。

ガラガラとキャリーケースを引いて理佐の自宅へと向かった。

「叔父さん良い人だね」
「っ

頷いて微笑むと理佐が手を握ってきた。

「あー友梨奈とキスしたい」
「?!」
「家着いたら真っ先にしよ」
「っ...」

想像した私は首をぶんぶんと振った。

「あ、友梨奈今想像したでしょ」
「っ」

(してない!)と口パクで伝えるが理佐はニヤッと笑って「絶対した」と呟き、私は恥ずかしくて俯いた。

家に着いたらきっと必ず理佐の事だからするんだろうなぁ。
キャリーケースを引きながら思い耽った。






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お読み下さりありがとうございました。