理佐side
ーーーーーー
朝、学校に向かっていると丸っこい背中に肩を縮めて道の端を歩いている友梨奈がいた。可愛い同級生だなぁ。
駆け寄って追いつき肩を叩くとびくっとされた。
「友梨奈、おはよう」
友梨奈はバッグからボードを出すと字を書いて見せてきた。
(おはよう、理佐)
嬉しそうにはにかんだ彼女が可愛くて、抱き締めたくなる。
ボードをバッグに戻して恥ずかしそうにしてる友梨奈に目を細める。
友梨奈の手を取るとキョトンとした表情で私を見てきた。
「手繋ぐの嫌?」
そう尋ねると首を左右に振ってはにかみ力が入っていた手が緩んだのを感じて微笑む。
と正面から自転車が来て、友梨奈の手を引っ張りこっちに寄せた。
友梨奈は私を見て頭を下げありがとうと言ってるみたいだった。
「気にしないで良いから」
微笑んで手を引っ張って歩き出す。
とことこと付いてくる友梨奈はまるで小動物みたいで可愛くて自然と笑顔になる。
「友梨奈、昨日寝れた?」
「っ...」
首を左右に振って恥ずかしそうに俯く。
しばらくして学校が見えてくると離れかけた手をぎゅっと握って友梨奈を見た。
ほっぺた真っ赤。
そんな茹で蛸みたいな反応さえも私にとっては嬉しく思えた。
下駄箱に着くと自然と手を離し、上履きに履き替える。
友梨奈も履き替えて私を見つめてきた。
なに、本当可愛いんだけど。
心臓がキューってなる。
「一緒に行こっか」
こくんと頷く友梨奈に私は恋をした。
手を握って教室へと向かう。
そして席に着くと好奇の眼差しが友梨奈へと注がれる。
友梨奈は視線を敏感に感じて俯いてしまっていた。
私は机をバンッと叩いて立ち上がった。
「喋れないだけで面白がって見てんじゃねーよ」
そう言うとクラスメイト達は各々、友梨奈から視線を外す。
席に座り直すと友梨奈はバッグからボードを出し文字を書いて私に見せる。
(ありがとう)
たったそれだけでも私は嬉しかった。
ふんわり微笑み、頷いて友梨奈を見つめる。
するとこばが教室に入ってきた。
「理佐、てち、おはよう」
友梨奈はボードに、
(おはよう、こば)
と書いて見せる。
「可愛いんだけど。てち」
そう言われて戸惑っている友梨奈にクスクス笑う。
「今日1時間目から体育だよ」
「最悪」
「友梨奈体操服持ってきた?」
こくんと頷いてどこか浮かない表情をしてたのを見逃さなかった。
菅井先生が入ってきて教壇に立つと「みんなおはようー」と呑気に言った。
「点呼とるよー」
朝から元気な先生だこと。
男子は違う教室へと移動し、私達女子だけはクラスで体操服に着替えていた。
友梨奈は一人着替えずにいた。
「友梨奈...?」
「っ...」
ボードに(トイレ行ってくる)と書いて体操服の袋を持って行ってしまった。
「てちどうしたのかな」
「分かんない...」
遅れる事5分、友梨奈は体操服に着替えて制服を抱えながら戻ってきた。
「大丈夫?」
「っ...」
頷いて制服を机に置いた友梨奈。
明らかに表情が良くない。
「休んでる?」
首をぶんぶん振って伝えてきた。
「じゃあ行こう?」
手を取ると友梨奈はボードに何も書かなかった。
外に出て今日はサッカーだと言う体育の先生は、チーム分けをしてこばと友梨奈が同じチームになってハイタッチなんかしてる。
ちくしょーなんて思いながら笛を鳴らした先生に試合が始まってちょっとしてからだった。
友梨奈が倒れたのは。
男子が友梨奈を抱えて保健室に行った。
けど待てど暮らせどその男子は戻って来ない。
嫌な予感がしてこばと二人で先生に保健室行ってきます!と言って走って保健室に向かった。
上履きも履かずに保健室に行くと中から暴れる音がして扉を勢いよく開けた。
クラスの男子が友梨奈を襲っていて体操服の中に手を入れていた。こばは写真を撮る。
「っ!てめー友梨奈に何してんだよ!!」
首根っこを力いっぱい掴んで引き剥がしベッドから落とした。
「先生に言っておくから」
こばは冷たい目で男子生徒を見つめると慌ててその場から立ち去った。
「友梨奈大丈...?!」
「てち...どうしたの、そのやけど」
「っ...」
左半身から広範囲に広がっていたやけどの跡。
あと暴れて包帯が外れ、見えた左手首のいくつかの円形状のやけど。
それよりも起き上がり、ガタガタと震えている友梨奈は声を上げる事無く泣いていた。
ベッドに座るとその身体をぎゅっと抱き締めた。こばも反対から私ごと抱き締めてきた。
「大丈夫だよ...もう怖くないよ」
「そうだよ...」
「っ...」
体育の時間よりも今は友梨奈の方が大事。
私とこばの腕に手を当てて擦り寄って友梨奈は泣きじゃくっていた。
しばらくして友梨奈の呼吸も落ち着き、私達は友梨奈から身体を離した。
「友梨奈、嫌だったらごめん」
「っ...」
「もしかして親からDV受けてた...?」
「っ...」
ゆっくりと頷いて目を伏せる。
「それは今も?」
こばが聞くと友梨奈は首を左右に振る。
良かった...と二人で呟く。
「友梨奈の傷...見せてくれる...?」
カーテンを閉じて友梨奈を見つめると体操服を脱いだ。
「っ...酷い」
「っ...」
左肩から腰までの大きなやけどの跡。
そして左手首の円形状のやけど。多分タバコの跡。
「もう着ていいよ」
こばが手伝って着させてあげた。
左肩から腰までのやけど...熱湯をかけられた...?
見られたくなくてだからトイレで着替えたんだ。
「友梨奈、これ見て?」
私は体操服を捲って腰を見せる。円形状のやけどがたくさん入っているのを見せた。
「理佐もね、親からDV受けてたんだ」
「っ...」
こばが言うと友梨奈がぎゅっと私を抱き締めてきた。
痛かったね、なんて言われているみたいで私の頬から涙が伝った。
「友梨奈の方がもっと辛いのに」
こばは優しく私達の髪を撫でる。
友梨奈は全部教えてくれた。
保健室の大きなホワイトボードに書いていく。
声を上げる度に熱湯をかけられた事、
それから口にハンカチを咥えて声を押し殺した事。
そうしてる内に声が出せなくなった事。
母親は見て見ぬフリをしていた。
だから男性恐怖症になったと。
「友梨奈、私も男性恐怖症だよ」
「っ...」
頷いて友梨奈を見つめると同じだね、と言ってるみたいな目で見つめてきた。
するとチャイムが鳴った。
「みんな来る前に着替えちゃおう」
友梨奈は文字を消して私の手を握ってきた。
こばの手も握って微笑んでいる。
私達はそれだけで幸せになって一緒に教室へと戻った。
友梨奈は制服を持ってトイレに行った。
「友梨奈を守ってあげなくちゃ...」
「うん...」
私達も制服に着替えて椅子に座る。
戻ってきた友梨奈はネクタイが曲がっていた。
「友梨奈、ネクタイ曲がってる」
「っ...」
直してあげてる間友梨奈はじっとしていた。
「はい、いいよ」
友梨奈はボードに(ありがとう)と書いて微笑む。
可愛い笑顔に抱きつき髪を撫でる。
「可愛い〜」
「あ、私ちょっと行ってくる」
「どこに?」
「決定的瞬間見せに。あと上履き持ってくるよ。理佐、てちの顔真っ赤」
そういえばこば、携帯で写真を撮っていた。
ニヤリと笑うこばはいつも冷静。
私は身体を離すとこばが言うように友梨奈の顔が真っ赤だった。
「ごめん、嫌だった?」
「っ...」
首をぶんぶん振ってボードの字を消して(うれしい)と書いてボードで顔を隠した友梨奈。
「友梨奈、」
ボードを貸してもらって(好きになっちゃった)と書いて見せると目を丸くしてボードを見つめる。
「だめ...?」
首を左右に振り友梨奈は字を書く。
(私でいいの?)
ふふっと微笑んで、うんと頷いて友梨奈を見つめる。
(私もって言ったら?)
またボードで顔を隠す友梨奈にクスクス笑い、ボードを指で下げて見ると目元が潤んでる。
ああ、そんな目で見られたらまた抱き締めたくなるじゃん。
早くお昼休憩にならないかなぁ。
ーーーーーー
お読み下さりありがとうございました。