「いい?ご飯作っておいたからちゃんと食べるんだよ?」
「うん」
「良い子にしてるんだよ?」
「うん」
ふわふわの髪を撫でて玄関に向かうと追いかけてくる。
今日は友梨奈の初のお留守番。大丈夫かな。
心配しながらもパンプスを履いて鞄を肩に掛け家を出ると、鍵を閉めた。
会社へと歩くが友梨奈が心配で頭の中でぐるぐる回っている。
「おはよう理佐ー」
「おはよう茜」
「今日はお弁当じゃないの?」
「うん」
茜と仲良く話して歩くがそれどころじゃない。
可愛い子をひとりぼっちにさせている事が不安で心配で本当に大丈夫かな。
神様にお祈りする。
友梨奈に何かありません様に。
立ち止まって目を瞑ると「なにしてるの?」と茜が小首を傾げる。
「よし、仕事だ」
「待ってよー」
茜と共に会社に向かった。
一方、その頃友梨奈は理佐がいないのでいじけていた。
あ、そういえばとテーブルの下に私の名前の書かれた紙が確かあったはずとがさごそ漁る。
あった。
真っ白な紙とペンを取ってペン先が出て無いので書けない。
色々試しているとヘッドのところを押したらペン先が出て「おおっ」と跳ねた。
ペンをぐーで持って理佐の字を見ながら書く。
「友梨奈」と大きく書く。
「うーん、へたくそ」
理佐はどう持って書いてたかな。
わかんない。
ペンをぐーでまた持って何枚も友梨奈と書いた。
テーブルの周りは紙だらけ。
お構いなしに書き続ける。
「出来たっ」
うまく書けたと笑顔になる。
でも喜んでくれる人がいない。
寂しくなって寝室に行くと理佐の匂いがしてベッドに横になって枕の匂いを嗅ぐ。
理佐の匂いだ。
布団に潜り込んで枕に顔を埋め理佐を想った。
そしていつの間にか眠ってしまった。
友梨奈大丈夫かな。
物思いに耽っていると隣から尾関が呼ぶ。
「...え?」
「先輩心ここにあらずですよ?」
「あ、ごめん」
仕事しなくちゃ。
昨日作った書類を印刷して一部ずつホッチキスで止めて課長に渡す。
「渡邉は仕事が早いなぁ」
「ありがとうございます」
「この書類も頼む」
「はい」
書類を受け取るとデスクに戻る。
今日は定時に帰らなきゃ。
カタカタとキーボードを打って仕事に没頭した。
お昼になり、売店でサンドウィッチとブラックコーヒーを買ってデスクで食べた。
携帯の待ち受け画面を見ながら食べていると尾関が「お、彼氏さんですか?」と尋ねてきたので吹き出しそうになった。
「違うよ、女の子だよ」
「女の子なんですか?」
「そう。いいからおぜも食べなよ」
そういえば友梨奈の前の名前文太だもんなぁ。
あんなに可愛いのに文太はないよね。
クスクス笑っていると尾関に不思議に思われた。
友梨奈今頃なにしてるんだろう。
お腹が空いて目を覚ました友梨奈は枕を抱えてリビングに向かうとテーブルの上には朝理佐が握ってくれたおにぎりがあったのでラップを取って座椅子に座り食べた。
「美味しい...」
枕に擦り寄っておにぎりを黙々と食べる。
つまんない。
理佐がいないなんて。
でも慣れなきゃ。
おにぎりを一つ食べ終えて枕を抱きしめた。
コーヒーを飲みながら書類を作成していると尾関があ...と言うのが聞こえた。
「どうしたの、おぜ」
「間違えてデータ消しちゃいました...」
どうしようと嘆く尾関に書類を見せてもらう。
「とりあえず作り直そう」
私のはデータ入力だから尾関のを手伝う事にした。
カタカタとキーボードを打ち、グラフにまとめて
あげた。
それをメモリースティックに入れて保存をし、尾関にメモリースティックを渡した。
「先輩、ありがとうございますっ」
「お礼はいいから早くやっちゃいな」
腕時計を見つめる。
15時半...早くこの仕事終わらせて定時に間に合うように、と願うばかりだった。
理佐が恋しくなって友梨奈は箪笥を漁って服を全部出して包まっていた。
なんで人間はお仕事なんてあるんだろう。
と思っているとインターホンが鳴ってびくっとした。
びくびくしているとやがて足音は遠のき、ますます理佐が恋しくて寂しくてグスっと鼻をすすった。
「理佐...」
データ入力を終えて間違えがないか確認作業にうつっていた。
尾関はなんとか出来てるみたい。
ほっとしてコーヒーを飲む。
「先輩、メモリースティックありがとうございました」
「良いよ。それより出来た?」
「はいっ。先輩のおかげです」
「なら良かった」
微笑んでメモリースティックを受け取るとブレイクタイムの時間だ。
手を休めてコーヒーを飲み干して片付けに行く。
そういえばサイダーもう無いな。
帰りに買っていってあげよう。
友梨奈泣いてないかなぁ。
グスグスと泣きながら理佐の服に埋もれて友梨奈は泣いた。
理佐、早く帰って来て。
やがて定時になり、データを保存してシャットダウンし、メモリースティックを鞄に入れた。
薄手のコートを着て尾関もなんとか間に合ったみたい。
「お先に失礼します」
と頭を下げて小走りでエレベーターへと向かう。
いつもより待つ時間が長く感じる。
やっと五階に停まったエレベーターに乗り込んだ。
一階に着くと機械に名札を当て、会社から出てスーパーに寄った。
ほうれん草など色んな物を買って家路を急ぐ。
やがて家が見えて来るとほっとして、エントランスに入って家の鍵を出し鍵穴に差し込んで開ける。
「友梨奈ー」
鍵を締めて中に入るとテーブルの場所が大変な事になっていて驚く。
自分の名前練習したのかなぁ。
荷物や鞄を置いて座って一枚一枚見ていく。
力任せに書いた物もあれば、上手く書けてる物もあった。
可愛いなぁ。
ところで友梨奈は?と寝室に行って電気をつけると私の服が全部出されて山の様になってた。
もぞっと動き出したのは友梨奈かな?
「友梨奈」
「ん...!!理佐っ!」
私の服の中で丸まって寝ていた友梨奈は目を開けると飛び付いてきた。
「理佐ぁ〜」と半泣きになりながら抱きついて離さない友梨奈を抱き締める。
「良い子にしてた?」
「うん...っ」
顔を覗き込むと涙の跡がある。やっぱり泣いちゃったか。
よしよしと頭を撫でてあげると擦り寄ってくる。
「友梨奈、自分の名前たくさん書いたね」
「...へたくそだけど。でもね上手に書けたのもあったよ」
じゃあご褒美に、と唇にキスをした。
すると友梨奈は目を細めて唇を押し当ててきた。
唇を離すと「おかえり理佐」と呟く友梨奈。
ああ、可愛い。
周りが私の服だらけでもいい。
それだけ恋しくなったって事だろうなぁ。
「友梨奈にお留守番出来たご褒美があるよ」
「なに?」
「こっちおいで」
買い物袋からサイダーを出すと友梨奈は嬉しそうに微笑んで抱きついた。
友梨奈の初めてのお留守番は上手くいったかな?
今度は友梨奈に携帯だなぁ。なんて思った1日だった。
END
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お読み下さりありがとうございました。