「友梨奈、人間になってください」

「キュ」


湯船の中で友梨奈は変化を解く。
煙が出てモヤが消えると人間の姿になった友梨奈は私の膝の上に座っていた。


「理佐さん、大好きです」


ムギュッと抱きついてくる友梨奈に目を細める。


「私もですよ」


胸が当たってるんだけどなぁ。
ちょっとドキドキしながらも友梨奈の髪を撫でる。


「理佐さん願い事思いつきましたか?」

「うーん...まだ思いつかないです」

「思いついたら教えてください」

「はい」


にっこり微笑んでいる友梨奈の髪をぽんぽんと叩いて、


「じゃあ上がりましょうか」

「はい」


浴室を出ると友梨奈をバスタオルで包み込んで髪を拭く。
身体を拭いて、今度は自分の身体を拭く。
あ、ショーツとパジャマ持ってくるの忘れた。


「友梨奈、ちょっと待っていてくださいね」


バスタオルを身体に巻きつけると寝室に行って二人分のパジャマとショーツを持って脱衣所に向かう。


「はい、着てください?」


友梨奈に渡すとショーツを穿いてパジャマを着た。
見届けると自分もパジャマを着てスキンケアをする。
友梨奈はしゃがみ込んで不思議そうに私を見上げてる。


「人間って大変ですね...」

「そう、ですね」


ドライヤーを使うとまたビクッとしてる。
友梨奈、人間になってて疲れないのかな。
ふと疑問に思う。


「友梨奈、人間になっているのはしんどいですか?」

「ちょっとしんどいです」


やっぱりか。


「カワウソになっても良いですよ」

「本当ですか?でも理佐さんと話したいので」


可愛い。
可愛すぎて抱きしめたい。
ドライヤーを止めて、


「友梨奈、髪乾かしますよ」


ドライヤーを持つと友梨奈が後を付いてくる。
座椅子に座った友梨奈に私はソファーに座る。
また向かい合わせ。なんだか笑えてくる。




ふふっと微笑むと友梨奈は小首を傾げる。
ドライヤーにはまだ慣れてないみたいで温風が当たると肩を竦める。
でも気持ち良さげな表情を浮かべてる。


「あ、友梨奈願い事一つ思いつきました」

「本当ですか?」


友梨奈の髪を乾かし終えるとドライヤーを片付けに行く。


「理佐さん、願い事なんですか?」


戻ってきた私を目をキラキラさせて見上げてくる。
雑誌を出して鞄を指差す。


「これが欲しいなーって思って」

「良いですよっ」


友梨奈が煙を出し、モヤが消えるとテーブルの上には雑誌に載っていた鞄が乗っていた。



「えっ?!本物だ」

「ふふっ」



友梨奈は嬉しそうにはにかんでいる。
でも、途中で効力が切れて葉っぱになったりとかしないよね。
鞄をまじまじと見て思った。


「理佐さん、喜んでもらえましたか?」

「友梨奈、もちろん。あと、言葉遣いですけど」

「はい」

「敬語って分かるかな?」

「はい、分かります」

「敬語やめて、私を呼ぶ時は理佐...出来るかな?」


友梨奈は難しい顔をして、うんと遠慮しながら頷く。

「り、理佐...」

「うん、良い子」


髪を撫でると目を細めて嬉しそうに微笑む友梨奈が可愛すぎて仕方ない。
出会ってそんなに経ってないのに。
友梨奈は理佐、と復唱してる。
一つ一つの事が楽しい。


「そうだ、お腹空いたでしょ」

「はい、じゃなくて、うん」


キッチンに立つと今日はうどんにしようと冷凍庫を開けて二玉出して、具材はほうれん草と玉ねぎにしよう。
鍋に水を入れて火を点けて具材を切っておく。
それまで友梨奈と遊ぼう。
百均で買った玩具を開けた。



「友梨奈」

「っ...」


猫じゃらしを見せると興味を示して近寄ってきた。
左右に揺らすと同じく友梨奈が動く。
クスクス笑いながら、猫じゃらしを揺らすと私を押し倒し捕まえて噛んでる。
楽しくて抱き抱える。



「はっ...私今人間だった」

「そうだよー」

「ごめん、理佐」


起き上がると友梨奈は脚の間に頭を置くので抱きしめる。
友梨奈は恥ずかしそうにしてるけど猫じゃらしが気になるみたい。
癒されるなー。


「友梨奈遊んでてね」


沸騰したお湯に冷凍うどんを入れ、具材も入れる。
味付けをして、麺がほぐれると硬さを確かめる。
うん、大丈夫だね。
二つの丼にうどんと具材を分けていれ、汁を注ぐ。


「友梨奈、出来たよー」


テーブルに並べると猫じゃらしで遊んでいた友梨奈は座椅子に座った。


「理佐、これは?」

「うどんっていうの」

「うどん...」

「熱いから気をつけてね」



言ってる側から「あっち」とやけどしている友梨奈に笑って取り皿を持ってきて麺を入れて冷ましてあげた。


「これでどうかな」

「理佐、ありがとう」


箸を器用に持ってちゅるんと食べた友梨奈。
反応を見ると私を見つめて微笑む。
美味しいらしい。良かった。


「ねえ友梨奈、願い事が全部叶ったら、どうなるの?」

「っ...」


ふと思い尋ねると友梨奈は俯いてしまった。
ランプの精はランプにまた入って新しいご主人様を待っているんだっけ。


「新しい人の所に行かなきゃだめなの」

「...そっか...ごめん聞いちゃって」

「私...理佐と一緒にいたい」

「願い事叶えなきゃ良いんじゃない?」

「それは出来ない...」



項垂れた友梨奈の髪を撫でる。


「まだ私、願い事1つしかしていないから大丈夫」

「理佐...」

「うどん食べようか」



こくんと頷く友梨奈を見て、うどんを食べた。




食べ終えると友梨奈も終わったみたいで食器類をシンクに運んで洗い物をした。
すると背中にピトッと抱きつく友梨奈。


「理佐...」

「んー?どうしたの」

「なんでもない」



さっきの話で寂しくなっちゃったのかな。
洗い物を終えて手を拭き、「歯磨きするよ」と呟くと友梨奈は身体を離し、洗面台までついてきた。
二人で歯磨きをする。
丁寧に磨き、口をゆすぐとそういえばと洗濯カゴに洗濯物を入れてリビングに向かった。



洗濯物を干していると、友梨奈がやってきた。


「友梨奈、ちょっと待ってね」

「うん」


下着類は部屋に干して、終わるとカゴを元に戻す。


「じゃあ友梨奈、寝ようか」


手を繋いで寝室に入るとベッドに一緒に入った。


「友梨奈、カワウソになっていいよ?」

「うん...」


煙が立ち込めるとカワウソになった友梨奈は私の首筋に顔を埋める。
優しく身体を撫でて「キュー」と鳴いた友梨奈を抱きしめた。


「おやすみ、友梨奈...」





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