朝目覚まし時計の音で目が覚め、時計を止めて起き上がり、顔と歯を磨きに洗面台に向かう。


「...」


夢じゃなかったんだ。



歯を磨きながら友梨奈の寝顔を見つめる。


すやすや寝息を立てて、時折眉間にしわが寄る。


可愛いなぁ。どんな夢見てるんだろう。


うっすら目を開けた友梨奈。
あ、起きた。


「理佐さん...おはようございます...」

「おはようございます」



柔らかく微笑んで呟く姿に私は髪を撫でる。

口をゆすぎにいって戻ってくるとスーツに着替え、友梨奈が入るくらいのバッグを出す。
その中に寒くないようにタオルとイワシのおつまみを入れた。


「友梨奈、起きてください?」

「はい...」


目を擦って起き上がると友梨奈はベッドから降りる。
洗面台に連れていくと顔の洗い方を教えて、歯磨きはもうマスターしたみたい。



「ご飯食べますよ」

「はい」



私の後をついてくる友梨奈にクスクス笑って、


「友梨奈はここに座ってください」


座椅子を指差して、私は食パンをトースターに入れツマミを回す。
冷蔵庫からマーガリンを出すと不思議そうに見つめる友梨奈を微笑ましく見つめる。


「友梨奈の好きなものはなんですか?」

「魚ですっ」


カワウソだもんね。そりゃそうだよね。
トースターがチンッと鳴ったのにビクッとしてる。
トーストを取り出してテーブルに置くと、



「友梨奈、これをこうやって塗って食べるんですよ?」



見様見真似で友梨奈は丁寧にトーストにマーガリンを塗って食べる。


「理佐さん...美味しいです...」



ふふっと微笑むと目を細めてはにかむ。
あまりの可愛さに顔を破顔させた。
私もトーストを食べると友梨奈と目が合い微笑み合う。


「...あ、思い出しましたっ」

「ん?」

「理佐さん、願い事3つ叶える事忘れてました」

「願い事3つ?」

「はい」



パンくずを付けながら友梨奈ははにかんだ。
願い事?ランプの精じゃないのに?



「拾ってくれたお礼です」


にこにこ微笑んでいる友梨奈に私はキョトンとした。


「んー...じゃあ、友梨奈の好きな食べ物とか」

「私のじゃなくて、理佐さんのです」

「えー...思い浮かんだらでいいですか?」

「はいっ」


ふいに時計を見ると仕事に行かなくちゃいけない時間になってた。
私は慌ててトーストを食べ終えて寝室から仕事用の鞄と友梨奈を入れるバッグを持って、


「友梨奈っ、カワウソになって!」

「はいっ」


煙が出て消えるとコツメカワウソになった友梨奈を抱き上げてバッグの中に入れた。
チャックを少し開け、空気が入るようにして肩に掛けた。
薄手のコートを着てパンプスを履くと家を出て鍵を締めた。



会社から自宅まではそんなに遠くないけど小走りで会社へと向かった。



あんまり友梨奈を揺らさないようにしながら歩いていると、同僚の茜が「おはよー」と肩を叩いた。
友梨奈を連れているから一瞬びくっとした。


「なにビックリしてんのよ」

「ビックリするでしょそりゃあ」

「...?理佐バッグ二つも持ってどうしたの?」



茜は勘が鋭い。


「今日は天気が良いから外でご飯食べようと思って」

「ふーん」


なんとか危機は脱した。
友梨奈大丈夫かな。
茜とたわいない会話しながらも頭の中は友梨奈でいっぱいだった。


会社に着くと鞄から名札を出して首からぶら下げ、ピッと機械に当てて中に入る。
エレベーターを茜と待っていて一階に着き、扉が開くと一緒に入る。


友梨奈が誰かに当たらないように守り、奥へと移動した。
「そういえばゆっかーがさぁ」と茜の話を聞きながらチラッとバッグを見た。



友梨奈のお鼻が見えてるのに気付くとバッグを少しずつ開けた。
すると、友梨奈は大人しくなった。
何気ない素振りで今度は息苦しくならないようにさっきよりちょっとだけ開けた。



五階に着くと茜と別れてエレベーターから降りて自分の席へと向かう。


おはようございますと挨拶をしながら席に着くと鞄とバッグを床にゆっくり置き、自分の鞄を開けるフリをしてバッグを開けて覗き込んだ。


「友梨奈、大丈夫ですか?」


小声で言うと「キュ」と鳴いてくれたのに安心してバッグの中に手を入れて友梨奈を撫でる。
そしてまたチャックを半分くらいで締め、着ていたコートを掛けた。


午前中仕事をこなしてお昼休憩になると鞄から携帯とお財布を持ち、バッグを持って売店でお水とサンドウィッチを買い、近くの公園に向かった。


誰もいない公園で良かった。


ベンチに座ってバッグを置くとチャックを開けて友梨奈を見た。
友梨奈は嬉しそうに「キューキュー」と鳴いた。



「友梨奈、ごめんなさい。狭いでしょ」

「キュ」


狭くないよと言わんばかりにお腹を見せてくる。
私は癒されながら、お水を開けてキャップに注ぐとバッグの中に入れた。
友梨奈はお水を飲んで、おつまみのイワシを食べようとしてる。


「取れますか?」

「キュー」


器用に袋からイワシを手で取って食べている。
私もサンドウィッチを開けて食べ始めた。


「友梨奈と居ると楽しいですね」


微笑んで友梨奈を見るとバッグから身を乗り出して私の膝の上に乗ってきた。
でーんとお腹を見せて寝そべっている。
私は笑いながら友梨奈を地面に下ろしてあげると
砂に転がっていた。


あー、だから砂が付いてたのね。


納得すると友梨奈が足元にやってきた。
砂を軽く払って抱き上げるとバッグに入れる。


「友梨奈お水飲んじゃってください?」


そう呟くとぺろぺろとお水を飲み、無くなるとキャップを閉める。
サンドウィッチを食べ終えてバッグを持つと会社へと戻った。


時間ぴったりに席に戻るとバッグを置き、定時まで仕事をした。


私は早々に会社を出て、百均に行って玩具を何個か買って家路を急いだ。



家に着くと寝室にコートと鞄を置き、浴室でバッグを開けて友梨奈を出した。


「友梨奈、もう元に戻って良いですよ」


そう言うと煙が立ち込め、だんだんと煙が無くなると人間の姿をした友梨奈が立っていた。


「先にお風呂に入っちゃいましょうね」

「はいっ」


寝室で私もスーツを脱ぎ、友梨奈が入っていたバッグの中のタオルと着ていた服を洗濯機に入れ洗剤と柔軟剤を入れて電源を押した。


「じゃあ髪洗いますね」














二人とも全身を洗い終えると湯船に浸かった。
友梨奈は変化してカワウソになるとお風呂の中を楽しげに泳いでいる。


「友梨奈、おいで」



呼ぶと胸の間にぺったりとくっつく。


「キュー」


鳴いてちゅっと口に口付けられた。
あまりの可愛さにぎゅっと抱きしめた私だった。




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