友梨奈はまだ本調子じゃないから心配だった。
やっぱり家族とのいざこざがあってそれを思い出す度に嗚咽してる。
見ているこっちも辛い気持ちになる。

「友梨奈、ベッド行こうか」
「...嫌」
「じゃあソファーは?」
「...うん」

簡単に持ち上げられるくらい友梨奈は軽かった。
ソファーに寄りかからせると、顔色がよくない。

「吐き止めの薬は?」
「...ない」

もらってこれば良かった。
私は寝室からブランケットを持って来て友梨奈の身体に掛けた。

「大丈夫...?」
「...色々考えちゃうとだめだね...」
「考えちゃだめだよ。って言っても考えちゃうよね...」

友梨奈の手首を掴んでみてもまだ細かった。

「理佐...そんな顔しないで」
「...友梨奈が苦しんでるのに、私は何もしてあげれない...」

切ない表情を浮かべて友梨奈の頬を撫でる。
ほっそりとした頬に悔しさが滲み出る。

「理佐がいてくれるだけで私はいい」
「友梨奈...荷物今日取りに行ける?」

一刻も早く友梨奈の根源となっている家の事情を払拭させてあげたかった。

「うん行ける」

友梨奈も頷いてブランケットをソファーに置いて立ち上がる。

私のキャリーケースをクローゼットから出して持ち友梨奈は鞄を斜めに掛ける。

靴を履いて玄関を開け、友梨奈もスニーカーを履いて外に出て鍵を締める。
エントランスを抜けて車の鍵を開け、トランクにキャリーケースを入れて扉を閉めた。
運転席に座ると友梨奈も助手席に座ってシートベルトをした。
エンジンをかけて車を走らせる。
友梨奈はくたっと窓に頭をつけていてとてもしんどそうだった。

「友梨奈...大丈夫?」
「...大丈夫」

そう呟くが決して大丈夫なはずはなかった。
また摂食障害になってしまったら。と不安が過ぎる。


友梨奈の家に着くと、端に車を寄せて車から出た。
トランクに乗せたキャリーケースを出して、友梨奈は家の鍵を開けて中に入った。
すると居ない筈の友梨奈のお父さんがいて、友梨奈は無視をして階段を上がっていった。
私は頭を下げてから友梨奈の後を追いかける。
ここで鉢合わせるとは思ってもみなくて友梨奈はしんどそうに息をしていた。

「友梨奈、ベッドに横になってでいいから指示して?」
「...うん...箪笥の中の物全部入れて」

私のキャリーケースを開けて箪笥の中の物を詰め込んだ。ぱんぱんになったキャリーケースを閉じて、友梨奈のクローゼットからもキャリーケースを出して広げると持って行く物と置いて行く物と分けて入れていく。
あっという間に友梨奈のキャリーケースもいっぱいになり閉じて、車に運んだ。
トランクに乗せて扉を閉める。
そして再び友梨奈の元に行こうと玄関を開けると友梨奈の怒鳴る声が聞こえて慌てて階段を上った。

「もうほっといてよ!今更心配されたって困るだけ!」
「友梨奈!どうしてお前はいつもそうなんだ!話を聞きなさい!」
「もういや!!」

ベッドに座って両耳を塞いで蹲る友梨奈に駆け寄った。

「おじさん、出ていってください」
「理佐ちゃん、」
「いいから出ていってくださいっ!」

友梨奈のお父さんの身体を押して部屋から追い出すと鍵を閉める。

「友梨奈」
「っ理佐...っ」

目に涙を溜めて抱きついてくる。
友梨奈の気持ちは分かってる。
摂食障害を理解してくれていない友梨奈の両親達。

「友梨奈...あとは持って行くものは?」
「この子だけ」

ベッド脇に置かれていたカワウソのぬいぐるみ。
私が誕生日プレゼントであげた物だった。

「じゃあこの子も連れて行こうか」

優しく微笑んで手を握って立たせる。
友梨奈はぬいぐるみを抱きしめて俯いたままだった。
鍵を開けるとおじさんはいなかった。
今の内にと友梨奈の手を引いて階下に向かう。

「友梨奈、ちゃんと話をしよう」

おじさんが友梨奈に言うが友梨奈はそれを拒んだ。

「お邪魔しました」

頭を下げて車に二人で乗り込む。
エンジンをかけてその場を離れた。

「ふ...っ」
「...」

ぬいぐるみを抱きしめて友梨奈は泣いていた。
私は何も言わず友梨奈の髪を撫でるしか出来なかった。

「っ...理佐...ありがとう...っ」
「いいよ...好きだけ泣きな」

私の両親だって友梨奈の病気を理解してくれたのに、どうして友梨奈の両親は分かろうともしないの。
私は怒りでいっぱいだった。
せめて友梨奈には笑顔でいて欲しい。
苦しんでる友梨奈なんて見たくない。




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自宅に着くとキャリーケースを二つを出して友梨奈が降りるのを確認すると車の鍵を閉める。

家に着くと鍵を開けて友梨奈を先に中に入れてキャリーケースを寝室に運んだ。
友梨奈はソファーに寄りかかって泣いていた。

「友梨奈」
「ひっく...うう〜っ」
「おいで」

ぬいぐるみをソファーに置いて膝に跨って抱きついてくる。
私は何も言わず強く抱きしめた。
ぽんぽんと背中を規律よく叩いてあやす。

「り、さっ、んっく、」
「たくさん泣きな?私と私の両親は友梨奈の事理解してるから。味方はいるから。ね?」
「うっんっ」

泣きながら言葉を紡ぐ友梨奈に口付けた。

「っ、理佐...苦しいっ、辛いっ」
「うん、苦しいね...辛いね」

髪を撫でて友梨奈が泣き止むまで抱きしめていた。


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