無性に理佐の血が飲みたい。
私の理性が保たなかった。
こんな事、初めてだった。
じゃあね、と言った理佐の手をおもむろに掴んだ。
「ねる、先に行ってて」
「ん、分かった」
俯いたままの私に理佐は気付いてトイレに引っ張って向かった。
洋式のトイレに二人して入り、理佐は後ろ手で鍵を締めた。
「友梨奈、私の血が欲しいんでしょう?」
「...うん」
理佐は私を抱きしめると左の首を見せてきた。
「いいよ...吸って」
「っ...」
白い首を目の当たりにすると、吸血発作が出て紅蓮の瞳を宿し、その首に咬みついた。
一週間ぶりの理佐の血はたまらなく美味しくて止められなかった。
「ん...っふ...」
かくんとずり落ちそうになった理佐を抱きしめて、牙をゆっくり抜いた。
首から垂れた血を舐めると理佐が吐息を吐いた。
「...理佐」
ドアに押し付けて唇を重ねた。
やがて瞳と牙は元に戻り、唇を離した。
「...気持ち良かった」
「ごめんね、耐えられなくて」
「私なら大丈夫だよ」
鍵を開けて理佐と手を繋いで廊下に出た。
「誰もいないね...じゃあ友梨奈後でね」
「うん」
手を離してお互いのクラスに戻った。
扉を開けて教室に入ると先生が声を掛けてきた。
「平手さん大丈夫?」
「はい。遅くなってすいません」
席に座ってお弁当箱を鞄の中に入れて教科書とノートを出す。
「てち、大丈夫?」
小声でねるが心配そうに見つめて尋ねてきた。
「うん、大丈夫」
微笑んで頷くとシャーペンを出して黒板に書かれた文字をノートに書いていった。
午後の授業を終えて放課後、ねると別れて下駄箱でスニーカーに履き替え、私は柊さんのいる喫茶店へと軽快に歩き出した。
今日は確かお店閉まってるよね。なんて思いながら歩く。
商店街が見えてきて私は喫茶店へ走り出した。
喫茶店に着くと案の定休業日の看板がドアノブに掛かっていた。
私は裏手に周り、裏口の鍵を開け中に入って柊さんを呼ぶ。
すると柊さんは階段を下りてきて私を抱きしめる。
「どこに行ってたんだ。心配したよ」
「アメリカに行ってた」
身体を離してアメリカ?!と酷く驚いていた。
「ねえ柊さん話するから髪切って?」
「いいよ。まずはパーカー脱いで」
鞄を置いて、パーカーを脱ぎ、長袖姿になるとお店の椅子に座って柊さんは私にカットクロスを巻いた。
「いつも通りで」
「分かってるよ」
柊さんは元々美容室で働いていて、私の為に脱サラして喫茶店を開業したから腕は確か。
柊さんは長年愛用しているハサミ達をテーブルに並べた。
「髪濡らすよ」
「うん」
お湯の入った霧吹きで髪を濡らしていく。
「暖房入れたからね」
「ありがとう」
柊さんは手慣れた手つきでハサミを入れていく。
「あのね、柊さん」
「ん?」
「お父さんとお母さんに会ったよ」
「!...そうか...会えたか」
「うん。お父さん私の事覚えてた」
「そうか...優華は?」
「お母さんも覚えててくれた」
「...良かったね」
「もう会えないけどでももう寂しくない」
柊さんは切ない顔を浮かべて私の髪の毛を切っていく。
「柊さんと理佐が居てくれればそれで私は満足」
「...友梨奈」
それ以上柊さんは何も言わずにいた。
しばらくして髪を切り終わるとドライヤーで髪の毛を乾かしてくれた。
「長さもOKだね」
カットクロスを外され鏡を柊さんが持ってきた。
ボーイッシュな長さになって髪もかなりいい感じで梳いてくれた。
「ありがとう柊さん。また切ってね」
「いいよ」
床に落ちた髪の毛を柊さんがちりとりで集めた。
「じゃあ柊さんまた来るね」
「いつでもおいで」
私はパーカーを着て鞄を持ち、微笑んで見つめる柊さんに手を振って、裏口から外に出た。
もう日が落ちてきていて、早足で理佐が待つ家に向かった。
家に着くと鍵が開いていて、ただいまーと声をだすと理佐がリビングから駆け寄って抱き締めてきた。
「おかえり友梨奈っ」
「ただいま理佐」
ぎゅっと抱きしめて離さないのでクスクス笑った。
「理佐、今日早いね」
鍵を後ろ手で締めて玄関先で抱きしめあった。
「友梨奈が遅いの」
「ごめんー」
身体を離すとようやく私が髪を切ったのを知る。
「友梨奈似合う」
「ありがとう」
手を引っ張られてスニーカーを脱ぐと理佐に連れられて座椅子に座る。
「で、友梨奈は一週間どこにいたの?」
「アメリカ」
「え?!そうなの?」
「お父さんとお母さんに会ったよ」
「...どうだった?」
事の事情を説明して理佐は涙ぐんでいた。
「もう私には手を出さないって言ってたからもう大丈夫だよ」
理佐は私を抱きしめて泣いていた。
なんで理佐が泣くの?と困った様に笑って髪を撫でた。
「もう帰ってこないかと思った」
「そんな訳ないじゃん。理佐とこれからずっと一緒だよ」
そう言うと、理佐は泣き笑って綺麗な笑みを浮かべた。
私はそんな理佐を愛しく思い抱きしめた。
ーーーーーー