今日も花束を抱えて友梨奈のいる病室へと歩む。
と、中から大きな声がした。
何事だろうと思っていると友梨奈のお母さんが
出てきた。

「おばさん、おはようございます」
「理佐ちゃん...おはよう。じゃあまたね」

頭を下げて見送り、引き戸を開けて中に入ると友梨奈が息を切らしていた。
私は思わず駆け寄った。

「大丈夫?友梨奈」
「理佐...っ」

今にも泣きそうな顔を浮かべていた。
サイドテーブルには朝食が手付かずのまま置かれている。

「友梨奈...少しでも食べよう...?」
「...っ」

首を左右に振って嫌がる友梨奈をベッドに座って抱きしめた。

「私が食べさせてあげても食べたくない?」
「...食べる」
「うん。良い子」

頭をポンポンと優しく叩いて身体を離すと、お粥の入ったお茶碗を手に持ちスプーンで掬って友梨奈の口に運ぶ。
あむっとスプーンに乗ったお粥を食べる友梨奈をじっと見つめる。
ごくんと飲み込む友梨奈が吐かないかどうか心配しながらゆっくりと何度も口に運んだ。

「固形物はやめておこうね」
「ん...」

梅干しを潰して種を取り、お粥に混ぜて食べさせた。

「美味しい...」
「友梨奈梅干し好きだもんね」
「うん...」

やがてお粥を食べ終えるとお茶碗を置いた。

「気持ち悪くない?」
「ん...大丈夫...」

友梨奈は私の腕を抱きしめて肩に頭を乗せた。

「頑張ったね。えらい」

逆の手で友梨奈の髪を撫でた。

「...さっきどうしたの...?」
「...お母さんが無理矢理...ご飯を食べさせようとしたから...」
「...そっか」

それ以上は聞かずに頭を撫で続けた。

「友梨奈横になりな」
「ん...」

背もたれになっているベッドに寝かせて花束を入れ替え、椅子に座って友梨奈の手を握った。

「友梨奈、私と居ると落ち着く?」
「うん。なんでそんな事聞くの?」
「聞いてみただけー」
「なにそれ」

椅子から立ち上がるとちゅっと友梨奈の唇にキスをした。

「理佐...もっと」
「んー?」

何度もリップ音をたてながら角度を変えて唇を重ねた。
そしてゆっくり顔を離すと椅子に座りまた手を握った。

「満足ですか?」
「ん」

にっこり微笑んだ友梨奈に私も微笑む。

「理佐、仕事は?」
「有休使ってきた」
「サボり?」
「友梨奈と一緒に居たくて有休使ったの」
「勿体無いよ。今度は仕事して来てからきて」
「はーい。...友梨奈が家にいればなぁ」
「...私も早く理佐と暮らしたい」

きゅっと友梨奈が手を握り返してきた。

「私の家に来たら我慢しなくて良いからね?」
「ん」

と、扉がノックされて友梨奈の担当の金子先生が入ってきた。

「平手さんお粥食べれましたね。固形物はまだ無理か...吐きましたか?」
「いえ、吐いてません」

私が代わりに金子先生と会話をした。

「あの...友梨奈はいつ退院出来ますか?」
「そうですね...固形物が普通に食べれる様になったら考えましょうか」
「分かりました。ありがとうございます」
「ではこれで」

金子先生が病室を後にするのを見送る。

「だって、友梨奈」
「嫌...」
「頑張って食べないと一緒に暮らせないよ?」
「...もっと嫌」
「ゆっくりでいいから食べて欲しいな」
「...分かった」

友梨奈は起き上がると箸を持ってほうれん草のおひたしを口にした。

「マズい」
「病院食だからね」

ゆっくり、ゆっくりと噛んで飲み込む。

「無理はダメだよ」
「ん...」

少しして食べ終えると友梨奈がお皿を置く。

「...食べれた」

ベッドに横たわった友梨奈の髪を撫でる。

「もう今日はこれだけにしておこうね」
「うん...」

「友梨奈ちゃんー」と扉が開いて優しい看護師さんが新しい点滴を持ってきた。

「あ、すごいね。お粥とおかず食べれたね」

手慣れた手つきで点滴スタンドに新しいのをかけて、テープを優しく取って針を抜き、新しく針を刺してポケットからテープを出し固定した。

「あら、仲良しね。手繋いで」
「はい」

ね?と友梨奈と見つめ合って微笑む。

「お邪魔しました」

優しい看護師さんはにっこり微笑んで病室から出て行った。

「良い人だね。前の看護師さんだよね?」
「うん、曽田さんっていうの」
「友梨奈ちゃんー」
「理佐は友梨奈でいいの」
「やだー友梨奈ちゃーん」
「んもう...」

私ははにかんで手の甲に口付けた。

「早く友梨奈が退院出来ます様に」
「理佐...」

もう一度立ち上がって友梨奈の唇にキスをした。



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